17 ――さぁて楽しいパーティーの始まりだ

★★★

――ついに来た。

異世界No.2地球のとある寺の中、坊主はお経を詠みながらそんなことを考えていた。普通の宗教なら、他事を考えるなどありえない。いや、考えてはならない。それは『仏教』では考えられないことである。だが、これは『仏教』や『キリスト教』『イスラム教』『ヒンドゥー教』などどれにも属していない。そもそも、異世界No.2地球の『宗教』ではない。

異世界No.19アルレン王国発祥の宗教団体〈レアード教〉の大半が入ってる〈浄土空宗じょうどくうしゅう〉。今お経を詠んでいる者は〈浄土空宗じょうどくうしゅう〉の設立者。そして、〈レアード教〉の創立者。だが、異世界No.19アルレン王国など今や存在しない。無くなった、ではない。壊され、奪われたのだ。

――異世界連邦最悪の事件『豪炎ごうえんの元旦』。

それは初めて異世界が乱れ、初めて異世界というものが消滅した日。

初めて、異世界というものが信じられなくなった日。

そして、


――生き残った仲間がバラバラの道に向かった日。


それぞれが生きたい道を選んだ。誰も止めやしない。いや、止める理由がない。

自分がそうだから。

みんながそうだから。

生き残ったことに悔いはない者などいない。

それぞれが心に傷を負いながら生きている。

それを癒す方法は人それぞれ。

その怒りをぶつけるところは人それぞれ。

例えば、アイツは心の中でその記憶を閉じた。

アイツは恩師の命令に従っている。

アイツは『異世界を潰す』ことに復讐をしている。

アイツは相変わらず自由にしている。

アイツは行方不明になり、現実逃避をしている。

アイツは守るためにあそこにいる。

アイツは……密かに生きている。

だが、全員ゴールは同じ。

どんなにしようとも、あの時の思い出など帰ってこない。

どんなにしようとも、あの人は帰ってこない。

だから、全員のゴールは全員が死ぬこと。

だが、それを理解しようとしないやつらがいる。いや、生き残りのほとんどはそう思っていない。

だから俺は『殺す』。

――もう1人は仲間を『殺す』ために動いている。

すべての原因を作った俺らがノコノコ生きているわけにはいかない。

あの人を殺したのは敵ではなく、自分達である。

その為にこの〈レアード教〉〈浄土空宗〉を創立したのだ。

あの人を殺したヤツらを殺すために。

あの人を殺した自分を殺すために。

坊主は〈浄土空宗〉のお経を詠みながら、考えていた。

今、ホリスモ王国には殺すべき仲間が3人いる。絶好のチャンスだ。

お経を詠み終わると今まで閉じていた目を開き、目だけで周りのロウソクをすべて消す。

一気に辺りが暗くなる。

そして、言う。

「殺す……!」


★★★

目の前には元気満★★コのヘルが立っている。

間違えた……元気満々のヘルが立っている。

先程ゼロの案内でヘル鬼男似馬鹿じょうおうと合流したのだ。

「誰だ貴様」

まぁ当然の反応だろう。ナンに会うのは初めてだしな。

「ナン・ポレルートと申すーレオンの親友だー!覚えと――グワッ!」

いきなり蓮雄はナンを蹴り飛ばす。

「何すんだお前ー!」

「誰が親友だゴラァ!」

「俺とお前ー」

「ハイハイ……っで、ヘル?さっきの魔法『葉包』はお前の紅葉だったんだな」

全然そんな感じに見えない。毒の葉っぱとかでてきそうだよ。うん。

「……証拠は?」

はいでたこれ。学校で流行ってるやつ。なんでもかんでも「証拠は?」とか言ってくる奴ら。あれちょっとウザイ。

「俺の目だけど」

「証拠は?」

「ナンの説明」

「証拠は?」

「ところで――」

「証拠は?」

「しつけぇぇぇぇぇぇぇ!何それ流行ってんの!?てかほんとしつこいわ!」

もうこういうのムカつく。証拠証拠っててめぇーはそんなに証拠が大事なのかよ。頭大丈夫でちゅか?精神科いきまちゅか?レベルだよこれ。

「まぁそんなことはいいわ」

「よくねーよ!」

「ルルルルルルルルルルルルルルルルル」

「うんお前もしつこい」

「レオ――」

「うんお前もしつこい」

「おい俺最後まで言ってねぇよー!」

「我が魂に刻まれし名は『ルシファー』!」

「……ヘル怪我はないか?」

「あの蓮雄殿?私にもツッコミしてほしいのですが」

うんもうツッコミはやめる。……とか言っておきながらツッコミしちゃうんだけどね。

ちょっとさ、みんな出番が欲しいからってふざけすぎ。主人公俺だから。主人公なめんな。

……ほんと、俺ってなんの主人公なんだろう。

「あぁ大丈夫だ。貴様こそ怪我はないか?」

「あぁ大丈夫。なんせ、ナンが助けてくれたからな」

ヘルには正直、「ヘルが教えてくれた治癒魔法のおかげ」と言って欲しかったのだが、そんなこと強要するわけではない。ただ、なぜこのような欲が生まれたのか不思議だった。

別に褒めて欲しい訳では無いのに。

「……誰?」

「だからナン・ポレルートだぁぁぁ!てめぇーもメーリスと同レベルかー!」

「……っで誰?」

「だからナン・ポレルートって言ってんだろー……」

どうやらもう反論する気はなくなったらしい。てかこれ反論?君誰?フー?

「違う。このネコ耳ルルクソ女のことなんだけど?」

「誰がクソ女ルル!……私は紀亜って言うルル。この語尾のルルは癖だからそこんとこよろしくルル」

この紀亜の正体はヘルは知らない。本当の『狼』だということはゼロとヘルは知らない。

「へぇ……『狼』ねぇ……」

だが、どうやらヘルとゼロはわかっていたようだ。いや、今気づいたのであろう。

さすがはニルバナ王国女王というところか。

紀亜とナンの顔に狼狽が浮かぶ。

話題を変えよう。

「……そ、そうだ!……これからどうする?」

【……】

え?ちょなんで黙るの?え?集団いじめ?1人が喋ると、みんな黙って空気よめない奴、みたいにするイジメ?

「まぁここで立ち止まっているわけにもいかないしな……どうやら敵はまだまだ来るようだし」

ヘルの言葉で全員が船を見る。

無数の点々が落ちてきている。どんだけいんだよ。

そこまで船は大きい、っていうほどでない。なぜそんなに入るのだろう。

それより、まだ姿は戻っていない。つまり、まだ亜透

あずき

が生きている可能性はある……ということか。ヘルはニューヘル女王の姿をしており、俺は爆颶蓮雄

ばぐれおん

の姿をしており、ゼロは……なぜかジジィの元の姿に戻っていた。あれ?イケメンホストみたいな感じじゃなかったの?いつから?

「敵の目的はなんだ?」

「俺を殺すことらしい」

「それは困るな……貴様が死んだら私は元に戻れなくなってしまう」

「じゃあ」

【ぶっ殺しにいくか】

とヘルと蓮雄が声を重ねて敵の集団に飛び込もうとした時、上から砲撃された。

蓮雄達を、ではなく、蓮雄達と敵達の間に。

その砲撃の煙風から顔を守りつつ、その砲撃をした船を見る。当然ながら〈神炎〉の船だ。

「注目!」

と、上からメーリスの声が聞こえてくる。

船の甲板の先に立っているメーリスの顔は少し赤く染まっている。

そして、何かの合図を送った途端、船から2本の柱が飛び出してきた。

「龍架!」

「王子!」

ヘルと蓮雄がその者の名前を呼んだのは同時だった。その通り。

2本の柱にはそれぞれ人がくくりつけられていた。

1人は都茂龍架。

もう1人はゴルン王子。

目隠しされて、手も足も拘束されていた。

龍架の姿は酷かった。上半身は下着だけで、下半身はスカートだ。それに、全身がびちょびちょに濡れている。

ゴルン王子の姿は……スッポンポンだった。

「なんでスッポンポンなんだよ!」

思わずツッコミをしてしまう。てか王子興奮しちゃって下半身暴走してるよ!?大丈夫なのあれ!?テ★ノ★レイクしないよねあれ!?

……だからメーリスは顔が少し赤く染まってるんか……。

どうやら、王子の失踪の犯人はメーリスだったようだ。

何の目的だろうが、許されない。関係ない2人を巻き込むなんて……いや、はっきり言えばこれは俺達『生き残り』だけの問題だ。それ以外の部外者が巻き込まれる理由などない。許せなかった。

「見ての通り都茂龍架とゴルン王子だ」

「ふざけるな!離せよ!」

「あら?さっき言ったわよね?楽しいパーティーがもうすぐ始まるって」

「証拠は?」

「お前もうそのネタから離れろ!」

このナンとかいう男殺していいですかね?

「うるさいわね……」

「そいつらは何も関係ないだろ!離せよ!」

「確かにそうね……ただ、都茂龍架は重大な罪を犯してしまった」

「重大な、罪?」

「えぇ……それはバグ・レオンの記憶を取り戻した罪、というね」

「……!?」

「この小娘は取り戻してはならない記憶を取り戻ししてしまった……レオン。ユーが命が狙われている理由はその記憶よ」

「俺の記憶が?」

「……これ以上のことは言えないけど、つまり、都茂龍架のせいでいろいろな組織が動き出した、というわけ……全く、困った小娘だわ」

そんなことはわかっている。

龍架が俺の記憶を取り戻したせいで、〈異賊暴〉が動き出したのはわかっている。だが、1番悪いのは俺だ。だから、龍架に罪はない。

「知るか……てめぇーが返してくれないのなら……」

【奪いにいくだけだぁぁぁぁぁぁぁぁ!】

瞬間、蓮雄とヘルが腰を落としてから、大きくジャンプした。そのまま船へと向かう。

「あら……ここまで届くのかしらね……」

メーリスが合図するのとともに、甲板から大量の異世界人が蓮雄とヘルに向かって飛び出す。

その中で、ものすごい速さで落ちていく者が3人。

その3人は蓮雄とヘルに目もくれずに通り過ぎていく。

つまり、狙いはゼロとナンと紀亜。

その3人はそれぞれの目の前に立ち塞がった。

そんなのを見ている余裕はなく蓮雄とヘルは上から大量に落ちてくる敵達に目を向けた。


――さぁて楽しいパーティーの始まりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る