16 企業秘密で……だから企業秘密って言ってんだろうが!

★★★

やばい……!

と思った時には『王装』は消えていた。体力がなくなったのだ。

ここで、体力を回復してもいいのだが、それでは面白くない。いや、そういうのは嫌いだ。勝てる相手に体力回復するなんて、自分のプライドが許さない。

そう、自分で回復するのはプライドが許さない。

だが、他人に回復されるなら別にいい。

ヘルの足下に魔法陣が現れる。

そこから放たれる緑色の発光。

その発光に癒されるかのように、だんだんと体力が回復していく。

だからといって『王装』を使うわけではない。使ったら寿命が縮むのだから。

敵達がヘルの周りを囲む。

依然、ゼロは降りてこようとしない。それは、降りたくないからとか戦うのがめんどくさいから、というわけではない。降りる必要がなく、戦う必要がないからだ。自分がいては足でまといになる。

ヘルは剣を消した。

その姿に、敵の誰もが諦めた、と思った。誰しもが、殺せる、と思った。

一斉にヘルに斬り掛かる。

その瞬間、『時』が止まった。いや、正確には止まってなどはいない。『時』を一時的に止めた、つまりはほんの1、2秒だけ『時』が止まった、という方が妥当だ。

そして、再び『時』が動き出すのと同時に、大きな赤い『葉』、つまり大きな『紅葉』が、人を1人ずつ包み込む。

『紅葉』に包み込まれた周りの敵―ヘルの領域内の敵―が、次々と『紅葉』に包み込まれながら浮上していく。

そして、空中で停止したかと思うと、その『紅葉』が『炎』と化する。

敵達の無様な声が聞こえてくる。そんなの知ったことじゃない。

続いて、その温度が一瞬にして変わる。

『炎』から『氷』へと脳が認識するよりも速く、一瞬、刹那に変わった。

『炎』に包まれた周りの敵―空中で騒いでいる雑魚ども―が氷り、酷く冷たい『氷』へと変わる。

敵達の声すら聞こえない。いや、声を発する前に死んでしまった。

ゼロよりも高いところに浮かぶその『氷』。地上との温度の差の違い。さすがにゼロも降りてくる。


「私が『氷』になったとしても、私の熱い心によりその『氷』は溶けるでしょうけど、やはり相手に理解する時間を与えないとはさすがです……まぁ私の真の力にはかないませんが……」

「蓮雄に便乗するつもりはないが、貴様なんでもかんでも『真の力』とか使っとけば厨二病になると思ってたら大間違いだから。全然厨二病じゃないから。てか貴様に真の力とかないよな。私には勝てないよな」

「……しかしながら」

「おい聞いてんのか貴様」

「いつまでこのような状態に?」

「おい貴様無視すんな……もう死んでるからな」

「えぇなので早く処分をしないと、まだ敵はいますので」


「わかった」と言うのと同時に、死んでいない敵達がまた襲いかかってきた。どんだけ多いんだよ。

ヘルが右手を上に上げる。すると、真っ黒い雲のようなものが現れ始める。

ゴロゴロゴロゴロ鳴りだす。

それを確認すると、右手を勢いよく降ろした。

すると、その真っ黒い雲から『雷』が落ちてきた。

その『雷』は浮いている氷に落ちる。

落ちてきた『雷』は1本。それが、浮いている氷同士で伝わり、浮いている氷が1本の雷で結ばている状態になった。

それを見ていた敵達が、次の瞬間、意識が飛ぶ。

その浮いている氷から『雷』が下に落ちてきたのだ。それが無数に。

死んだのかもわからないまま敵達は死んでいく。

そして、すべて消えた。

その『雷』が伝わったものはすべて、『水蒸気』となって消えていく。『氷』も『人』も。

辺りは何もなくなった。


その光景を蓮雄達3人は見ていた。

メーリスが〈神炎〉船内に戻った瞬間、空中に『紅葉』が浮き始めたのだ。

全員が固まってそれを見る

突然、その『紅葉』が燃える。

燃えたかと思うと、脳が認識する前に『氷』へと変化していた。

『氷』が空中に浮いている。異様な光景だった。

「あれは何ルル?」

「俺にはわからん」

「お前ら知らんのかー?あれは多分、魔法『葉包ようつつ』と『空浮くうゆ』と『炎華えんか』と『氷山ひょうざん』を連続発動させた、合同魔法だー」

ナンの説明によると、

足止め魔法『葉包』。それぞれ個人の特徴にあった『葉』を出現させ、それで相手を包み込むという魔法。この『葉』は金属の硬さと変わらないため、抜け出すのが難しい。弱点は、発動するのに時間がかかるということ。しかも、1度設定した場所から変えることはできない。

物質飛行魔法『空浮』。対象の物を浮かせて移動できる魔法。途中で停止させることもでき、かなり便利な魔法。ただ、対象は『物』だけで『者(人)』には効果がない。弱点といえば、それぐらいだ。

攻撃魔法『炎華』。対象の物を燃やすという魔法。弱点は、『空浮』と同様『物』しか燃やせないということだ。

攻撃魔法『氷山』。設定したものを、氷山の如く温度を下げ、まるで氷山にある氷のようになる魔法。それは、すべてに通用する魔法で攻撃魔法としてはトップクラスの魔法。使える者は数少ない。

計4つを連続発動したもの、とナンは言う。だがしかし、ヘルはもう一つ魔法を使っていた。

時空間操縦魔法『一時停止いちじていし』。その名の通り、一時的に『時』を止めることができる魔法。その一時的というのは、ほんの1、2秒程度であまり効果のない魔法。だが、今回のヘルのように、『葉包』を発動するために止めた、など、使い方によってはかなり便利な魔法。時空間操縦魔法系を使える者は全異世界合わせても、片手で数えられるほどしかいない。

今回、それを見破れたのはほとんどいなかった。ほとんど。

ナンの説明が終わると同時に、その浮いている氷の上だけに黒い雲が現れる。

そして、ゴロゴロと鳴り始めると、『雷』が落ちてきた。

それは浮いている氷すべてを伝わり、1本の線で結ばれているような感じだった。

浮いている氷から雷が下に放出される。

その範囲はあまりにも広かった。

蓮雄達3人のところに向かって『雷』が飛んできた。

――危ない!

と思った時、辺りが光出して目をつぶる。

しばらくして、目を開けると目の前にはゼロが立っていた。

周りには誰もいない。敵も何もかも、跡形もなく消えている。ただいるのは、蓮雄達3人と、いつの間にか目の前に立っていたゼロだけだった。

「皆さんご無事ですか?私の力で死んだかゴラァ!?」

「何死んで欲しいの!?俺ら全員に死んで欲しかったの!?」

「いやー死ぬのはレオンだけじゃー」

「そうルル!」

「おいてめぇーら何乗っかてんだよ!」

何ほんと俺の周りにはバカしかいないわけ?え?そうなの?

「……っで、今のは一体?」

「あぁ多分誰かが説明してくれたと思うのですが、その通りです」

「うんそれ俺ー」

「……誰ですかあなた」

「お前もメーリスと同じかー!」

「お前は★ン★と同じか!」

「そうだー何か悪いかー」

「全体的にわりぃーよ!」

「私は★ン★ルル!」

「ここにも変態女がいやがった!?」

「ルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル」

「ノイローゼになるからやめてくれ!」

「ルンバルンバ〜ルンバルンバルン〜バ〜」

「リ★ダリ★ダみたいにいってんじゃねーよ」

「ルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル」

「もう黙っとけよ!」

なんだこのルル女!名前ルル子にしたろうか!?あん!?

相変わらずボケたらボケまくるやつらである。

てか話ズレすぎ。戻さないと。

「……なんで敵はいないんだ?」

「……」

蓮雄が聞くと黙ってしまった。

何か悪いことなのだろうか?ならば別の話を――

「それは企業秘密です」

「はぁ……」

あんたらなんの企業だよ!まぁ言いたくないんならいいんだけども。

「では鬼男似馬鹿じょうおうと合流しましょうか」

なんか変なルビ見えたんだけどォォォォォォォォォォォォ!?

しかもその漢字なんか納得ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!?

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