18 ――俺が死ぬまで死ぬなよ?

★★★

目の前に異世界人が降りてきた。

先程、レオンと女王が船に向かってジャンプしたあと、一目散に自分達を狙って飛んでくるもの達がいた。

それが、今目の前にいる者と、ゼロと紀亜の前にそれぞれ1人ずついる。

なんだろうこの殺気は。

自分達もレオンと女王に続き、ジャンプしようとしたのだが。

自分の記憶上、目の前にいるのは〈異賊暴〉第1使徒〈神炎〉少佐エル・モダト。クマみたいな感じで、ガタイがいい。ナンの2倍はある。男だ。

ゼロの目の前にいるのは、〈異賊暴〉第5使徒〈神人〉大佐(隊長とはまた別である)ディーダ・レロ。鳥のような感じで、翼が生えている。女だ。

紀亜の目の前にいるのは、〈異賊暴〉第3使徒〈神友人〉少佐ドッデノ・ロンド。外見は自分達と変わらない。案外小柄な男である。

そこまで強そうには見えない。

だが、異様な殺気を放っている。

目の前のモダトは余裕にしているが、その殺気から視るに、おそらくゼロと同じようなタイプ。楽にしていればしているほど本領を、真の力を発揮できる。

だからこうして睨み合っているだけで、俺の方が弱いことがよくわかる。

だが、そこで逃げる俺ではない。

――行け!レオン!

そう目でレオンに伝えた。なぜか、

――死ぬなよナン!

と目で答えてくれたような気がするが、またそれは本当か定かではない。


★★★

上から降ってくる敵達。やはり、どうやったらこんなに人が集まるのか不思議でたまらない。

ジャンプをした際にヘルが、高く飛べる『跳躍』の魔法をかけてくれたおかげで、未だに止まる気配はない。

フとナンの方を振り向く。あの3人組がどうなっているのか知りたかっただけだ。

なぜかナンもこちらを向いており、目が合った。そして、

――行け!レオン!

と言われた気がしたので、思わず

――死ぬなよナン!

と目で返した。伝わったかどうかなんて関係ない。アイツは死なない。俺を置いて死ぬ男ではないのだから。

その時、なぜか昔の記憶が蘇ってきた。


――おいなめてんのか

目の前に立つ男に俺は言う。

先程、模試練習をしていたのだが急に剣を放り投げたのだ。

――いやーやっぱ剣は使いにくいなーとなー

語尾を伸ばすというクソなやつだ。

――おいここでは剣術しか学ばないんだぞ。それでは★★★女王の護衛は務まらん。

――でもなー剣というものは近距離専用だろー?俺は近距離苦手だからさー

――嘘こけ……俺より強いくせに

実際そうだ。この男は俺よりも強い。模試練習の時も俺は圧倒されていた。

そう……俺は弱いのだ……仲間の中で……。

――いやいやーお前は無駄な動きというか、無駄に考えすぎなんだよー

――無駄?

――あぁ……お前は先読みが得意なんだよなー。ただ、先読みしすぎて剣術に支障がでてるんだよー

――……

いや、それが普通なのではないか。そう思ってしまった。

先読みをして行動する。それが、1番だと思っている。というか、みんなそれをやっているのかと思っていた。だが、どうやらそれは俺だけらしい。ではみんなはどうやってるのだろうか?そう思ってしまった。

剣術に支障が……か……。

さすがにそれは気づかなかった。自分の先読みのせいで剣術が劣ろいていたとは。

――んー……じゃあ次は何も考えず、先を読まず攻撃してみろーとりあえず、俺を殺す気でなー

――……わかった

一瞬、戸惑ってしまった。殺す気でいっていいのか、と。

剣を構える。

開始の合図はまさかの女王の「始め」という声だった。いつからいたのだろう?そう考えてフと見た瞬間、目の前に剣が飛んできた。ナンだ。

ギリギリそれを受け止められた。

――おいおいさっき言ったろー?何も考えるなってなー

その時女王がフフッと笑ったのは空耳だろうか。

俺は落ち着いて、頭の中からすべての考えを消した。ただ、目の前の敵を倒す、という考えだけにした。

剣を弾き、剣から手を離す。

男の目に驚きが走った。途中で剣を離すなど殺してくださいと言うのと同じなようなもんだ。行動が不明だった。だが、それは一瞬でかき消された。

右手から落ちた剣は、そのまま左手の上に乗った。

そして、回転させながら胸に向かって突き出してきた。

こいつ……本気で殺す気だ!

不得意な左なはずなのに、素早くそして正確だった。

だが、そんなもので殺される男ではない。

その迫る剣を、胸に当たるギリギリで軽々と体を横向きにして避ける。

避けながら弾かれたのを反動にして剣を振り下ろす。

腕が取れる……はずだった。だが、それは血がポタポタと落ちるだけで終わった。

振り下ろされた剣を、右手で掴み取ったのだ。

剣を素手で受け止めるなど無謀すぎる。

そんなことを考えている暇はなかった。

避けた剣はフリー。つまり、男は殺される。

フリーになっていた剣を横に振る。

その剣を男は、俺と同じく素手で受け止めた。かなり奥まで食い込んでいる。

2人とも剣を相手に握られている状態だ。こうなったら、もう使える技は限られている。

2人ともが同時に剣を離す。

そして、2人ともが右中段蹴りをする。両方共が胸の辺りを狙った格闘技だ。

その足と足が重なる。

――へぇ……案外やるじゃねぇーかー

――ふん……手加減してんじゃねーよ

――いやいやー俺は本気だったぜー?

――ほう……

足と足が重なったまま喋る。

俺の最後の言葉で動き始める。いや、誰かが動いたわけではない。

男の足に剣が突き刺さる。

それと同時に、鳩尾にパンチを喰らい吹き飛ばされた。

一体何が起こったのか?男にはわからなかった。

息が少し苦しい。

男は胸をさすりながら、そう思った。さすがに鳩尾はキツイ。

――ごめんなナン。やっぱ俺には先を読んで行動するのが好きなようだ

――レオンーゴホッ!さすがに鳩尾はないんじゃないのかーゴホッ!

――2人とも大丈夫ですか?

右手の傷がだんだんと治っていくとき、横から女王の声が聞こえてきた。

――すみませんでした……

――すみませんでした……

――謝ることではないわ?……とても楽しかったことですし?

思わず笑ってしまった。

どうやら、俺の攻撃は全て女王にはお見通しらしい。

剣を有効活用しないことには、勝負には勝てない。それは、今までに経験したことでわかっている。だが、それをどう有効活用するか、で悩んでいた。いざ勝負、となってから考えていては遅い。だからと言って前々から相手の攻撃がわかるわけではない。つまり、考えていたからこそ、レオンは1歩遅れていたのだ。だが、先程はなぜか、考えていないのに浮かんできたのだ。ただ剣を捨てるのではなく、上に振り上げて、落ちてくるところに相手の足を持ってくる、という考えが。

――まぁこれからも2人仲良くね?

そう言って女王は立ち去っていった。結局なんだったのかわからない。だが、

――お前は俺のいい相手になりそうだー

――それはこっちのセリフだ

いいライバルができた。

――だから俺が殺すまで死ぬなよ?ナン

――それはお前もなーレオンー


現実に引き戻される。だが、ほんの1秒程度だ。

俺を置いて死ぬやつではない。だから、俺は安心して背中を向けられる。

目の前に降りてきた敵をなぎ倒しながら上がっていく。たまに、敵を踏み台にしてジャンプする。空中で一回転しながら剣を振り回す。1回これやってみたかったんだよな。

やはり、女王の名前は思い出せない。それはしょうがなくはないが、考えても仕方の無いことだ。

蓮雄とヘルは、龍架とゴルン王子のところを目指して上がっていく。

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