4 二刀流+空飛べるのはズルイって

★★★

車で男をひき殺し、その男に車ごと蹴り飛ばされたナン達は、半分壊れた車を運転していた。普通乗り捨てるけど、バカはそうしない。

ある道をガタゴトガタゴト走っていると、ある者が車の前に現れて急ブレーキをかける。

「なんだー?あぶねーぞー」

「ルルルル」

その者は黒いコートをはおっており、顔も隠れてよく見えない。

その者はコートから手を出すと、その手には剣が握られていた。赤色と灰色の。

ナンはその剣を見ただけですぐに誰かわかった。

「おー!あの剣、レオンではないかー」

「そうなんだルル?私にはそのレオンとかいう奴には思えないんだけどルル」

そう言いつつ車を降りる。

その者が持っていた剣は明らかにレオンのものだった。つまり、これはレオン。

「おーいレオンー久しぶりだなー」

レオンの反応はない。

そこで疑問に思う。いつものレオンなら「久しぶり」と返してくれるのだが。それと、なぜ黒いコートなんて被っているのだろうか。

「おーい?」

反応無し。

「ちょっとナン様の声聞こえてるかルル?」

反応無し。

「おーいルル?」

反応無し。

「いい加減にするルル!無視はいけない――」

「あ、ごめん。音楽聞いてた」

そこでレオンが喋り出す。耳につけていたイヤホンを外す。いや、音楽聞いててなんで剣出すんだよ。

「よぉ久しぶりだな……ナン・ポレルート……」

「……」

ナンは何も答えなかった。それまで笑っていた口も今は全く笑ってすらいない。

「……こいつはレオンじゃない」

バカでもそれぐらいのことはわかる。こいつはレオンではない。雰囲気が全く違う。レオンはこんな感じではない。

すると、レオン(?)がフフっと笑ってフードを取る。その顔は――

「レオ……ン……?」

その顔はレオンだった。声も顔も、そして剣も。こいつをレオンと思うしかなかった。いや、思わざるおえない。

「どうしたナン。久しぶりに友人に会って驚いたか?」

「この人がレオンルル?」

「……」

ナンは黙ったままだ。

「あまりにも驚きすぎたか?」

「……なぜ剣を出現させている?」

ナンは語尾を伸ばさなかった。

「なぜかって?ハハハ笑わせるなよ。俺達は『勇者』だぜ?」

今はっきりわかった。

――こいつはレオンじゃない。

「フハハハー!笑わせるなよー」

「は?」

「ナン様ルル?」

「知ってるかー?レオンはなーもうとっくに『勇者』を捨てたんだぜー?」

ナンが銃を出現させる。真っ白な銃だ。

「いくら記憶が戻ったとはいえ、レオンが剣を出現させるわけがないー」

「なぜお前にわかる?」

「何言ってんだー?俺とレオンは親友だぜー?あいつが剣を出現させるときっていうのはなー、『誰かを守るため』か『約束を守るため』なんだぜー?」

「わかってんならそれでいいんだよ。俺は今、約束を守るために剣を抜いてんだよ」

「何の約束だー?」


「バグ・レオンをぶっ殺すためだ」


★★★

蓮雄達3人は今、ニルバナ王国を歩いている。その戦う場所とやらに向かっている。王国にはいろんな異世界の人々がいた。蓮雄は歩きながら記憶のことを考えていた。

俺の記憶は全部戻っていない。今の蓮雄は不完全状態だ。今、記憶上戻っていないのは、

――元いた王国の女王の顔と名前

――元いた王国のこと(1部)

――昔の仲間(1部)

――なぜ俺の記憶は封印されたのか

――誰が俺の記憶を封印したのか

――なぜ地球に住んでいるのか

などだ。他にも細かいことは覚えていないが、まぁどうでもいいだろう。

記憶が戻らない、というか龍架でも封印を解けなかった記憶らしい。つまり、それほど思い出してはならないこと、だということだ。

まず、元いた王国の女王の顔と名前。俺の恩師だ。その女王の顔と名前がなぜ思い出してはならないことなのだろうか?俺は恩師と何かあったのか?

元いた王国のこと。なぜ王国がなくなったのかは戻っている。だが、その王国がどういうことをしていたのか、いろいろと思い出せないのだ。なぜだ?そんなこと思い出してもいいじゃないか。

昔の仲間。数人ぼやけている。何度試してもぼやけている。生き残りの数人もまったくわからない。なぜだろう。昔の戦友にも何かあるのだろうか?

なぜ俺の記憶は封印されたのか?そして、誰が俺の記憶を封印したのか。いや、おじさんが封印したのはわかっている。それで、自分の意思とおじさんの意思で封印したのもわかっている。だが、そんなの信じられるわけがないし、そもそもおじさんとは誰か思い出せない。わけがわからない。これに関しての何もかもがわからなくなった。

そして最もどうでもいいこと。なぜ地球に住んでるのか?どうでもいいだろ!何なの!?地球に住んでたらダメなの!?というかそれ封印する必要ありますかね!?

もうこれ考えるのやめよう。考えるだけで頭痛くなってくる。

と、考えているうちにどうやら着いたらしい。

そこは、『異世界競技場いせかいきょうぎじょう(戦闘用)』と書かれた看板が付いている、大きなコロッセウムだ。そう、パクリのごとくコロッセウムだ。

「異世界……競技場……?」

何それ(笑)馬鹿にしてるの?(笑)

「あぁ。『異世界競技場(戦闘用)』。その名の通り、異世界の競技場だ。地球ので言うと、オリンピックみたいなもんだな。それぞれの異世界のやつらが戦うところ。ここはその中の戦闘専用の競技場だ」

「昔の記憶にもねーぞ……?」

「まぁこれ作られたのつい去年だからな。ほとんど使ってない」

「そ、そうなのか……」

「実はここ、一般施設でな、誰でも自由に使えるんだ」

「そうなのか……」

セキュリティー心配だけどな……。

「ふん。ここに入れば真なる力が目覚めるだろう!」

厨二病にツッコミするのって難しいよね……というか関わりたくないよね。

入口らしきところから中に入る。外見古代文明なのに中新すぃ!ナニコレ!コロッセウムと国会議事堂が合体してるよこれ!

どうやら、自由とは言っても申請しなければならないらしく、カウンターのところに向かう。てか遠っ!そのカウンターは50mぐらい先にある感じだった。

少し歩く。が、全く近づかない。てか……これ進んでなくね?

「あ、そういえばここ、この高速ランニングマンを通らないとやれないらしいから」

「異世界はどんだけこのネタ好きなんだよ!ニコラス王国の時もあったよな!?あったよな!?」

ってことは……。

後ろを振り向く。

『熟女クラブ〜アツイ戦闘しませんか?〜』

と書かれた看板の下のベッドにムキムキマッチョの男が寝転がってセクシーポーズをとっている。

「熟女どこいったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

もう熟女関係ねーじゃねーか!ホモクラブにしろよ!いや、俺は断じていらないがな!

「何あれ……」

隣で走っているヘルが言ってくる。

「まさか……!まさか……!」

何かに気づいたのだろうか?

「…………………………………………………貴様掘りたいのか?」

「なんで溜めたし!?しかも掘る側じゃなくて掘られ……って俺体女だし!?」

よく考えれば俺女だった!ヤバイ!掘られるというか、ヤられる!

一気に加速。ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!さすがにヤられるのはマズイ!

「っで、なんでてめぇーはニヤニヤしてんだよ!」

「蓮雄殿、行けば、2人の愛より生まれし精卵せいらんの合体作が長年の月日を経って下の口からうめき声とともに現れます」

「普通に子どもって言えねぇのか!てか厨二病っぽく言ってるけど内容意味わからんからな!?」

「蓮雄殿…………………………………………掘られてぇのかてめぇ!」

「逆ギレ!?ていうか体女だから!ヘルが激怒すんぞ!」

「あ?貴様なんか呼んだか?」

「女王、今からあなたの白血球に生まれ変わります」

「生まれ変わらないから安心しろ!」

「女王、今からあなたのムスコに生まれ変わります」

「それ俺のだから!俺のムスコだから!」

「女王、今からあなたの髪の毛に生まれ変わります」

「即死させたろうかゴルァ!」

「女王、今から★★★★ゥゥゥ!に生まれ変わります!」

「地味に興奮してんじゃねーよ!なんで最後ビックリマークなんだよ!」

「蓮雄殿、ビックリマークではありません、驚棒ビックリマークです」

「あて字にしたらそうなるかもな!」

「★★★★ゥゥゥ!」

「★★★★ゥゥゥ!」

「てめぇーは女王だろうが!」

【★★★★ゥゥゥ!】

「うるせぇぇぇ!ハモるんじゃねーよ!」

【★★★★ゥゥゥゥゥゥ!】

「しつけぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

誰かこいつら抹殺してくれませんかね!金払いますんで!ていうかまじで全然進んでないんですけど!

と、後ろから何やら嫌なインターホンが。

『ピンポーン。熟女1匹追加〜』

なんでだぁぁぁぁ!?すると、熟女1匹現れた。ネコ耳にネコの尻尾をつけて、ブルマをはいて。

ゴェェェェェェェェェェェ!

吐き気がする。やべぇ。

『ピンポーン。ジジィ追加〜』

『ピンポーン。爆颶蓮雄追加〜』

なぜに!?ていうかあれただの★★★じゃねーか!俺の存在なんだと思ってんだよ!

『ピンポーン。★★★です』

何答えてんだてめぇ!てか心の中読めるのかよ!すげぇなおい!

『ピンポーン。ニューヘル追加〜』

これにはヘルも反応した。

そして、現れたのは――

ウホォォォォォォォ!

ゴリラかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

いや、確かにヘルはたまにゴリラみたいなところあるけれども!さすがにそれはないんじゃないかな!酷いよな!可愛そうだよな!

『ピンポーン。爆颶斬炎ばぐきえん追加〜』

と現れたのはその親父だった。

「なんでてめぇーまでいんだよ!」

思わず声が出てしまう。

「なんで貴様行かないのよ!」

「口調変えんなくそ!」

「あら、クソなのはあなたのパイオツなのだけれど」

「これてめぇーのだからな!」

てかヤバイ!速くなってきてる!おい!全然先が見えねぇ!

ていうか、胸が邪魔!さっきからボヨンボヨンべチョンべチョン言ってんだけど!エロいんだけど!

中々前に進まない。それどころか後ろに下がってるように思う。このままじゃ、あの地獄にぶち込まれてしまう。と、その時、

「情けない……これだから蓮雄殿は……」

とゼロが喋り出す。

「しょうがない、先に私が行ってきます」

そう言うとゼロから白い羽が生えた。え?ちょえ?

そしてゆっくり上昇していった。

「私は空を飛べるのですよ?」

「こいつもチーターかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

ゼロはそのままカウンターのところまで飛んでいった。

「おいあれ卑怯すぎんだろ!」

「何を言っている。貴様が雑魚なだけだ」

そう言って、ヘルが思いっきり走る。どうやら、ヘルの走るスピードの方が速いらしく、そのままカウンターのところまで行ってしまった。

置いてきぼり……ぼっちだ。それにあいつらムカつくんですけどぉぉぉ!?

ヘルはお尻ペンペンしていて、ゼロは空中でキラーンとポーズをとっている。ウザイ。

が、後ろを見ても、セクシーポーズなのでウザイ。どこみてもウザイ。ウザイウザイウザイウザイウザイ。

グワァァァァァァァ!

と思っているうちに、だんだんスピードが落ちていった。そして最終的には止まった。

ゼーゼー息を荒くしながら前を見る。すると、『ざまぁー!』と書かれた旗が立ててあった。殺すぞてめぇ!


それで、使用許可を取り、中に入る。コロッセウムの中にいるみたいでとても不安感がある。いや、嬉しいというかなんというか、よくわからん。なんかどっかから槍飛んできたり、ライオンとかでてきそうな不安だ。

「では勝負するか」というヘルの声で、蓮雄とゼロが向き合う。改めて思うと、なんか手強そう。いやだって空飛べるもの。

「ルールは相手が降参するまでだ。どんだけ痛めつけようが何しようが構わん。この薬があるから大丈夫だ」

そう言って見せつけてきたのはビンに何やら紫色の液体が入っていた。毒物だよねあれ……色的に完璧毒物だよねあれ!?

「毒物じゃないから安心しろ。名前は『ド・クブーツ』だ」

「完璧毒物じゃねーか!」

「……というわけで――」

「スルーしやがったこいつ!」

「殺すのは禁止だ」

「その毒物飲んだ時点で死ぬと思いますけどね!」

「じゃあ早速始めようと思う」

もうやめよう。

すぐに蓮雄は切り替える。空飛べるからって所詮はそれだけ。どうせ強くないんだろ。

「では、スタートぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

その掛け声とともに、蓮雄は一気に飛び出した。そして剣をそのまま突っ込む。ゼロのところに着くまでに約0.6秒。そんな速さよけられるはずがない。が、蓮雄の剣はゼロの剣に受け止められた。

「剣が……2つ……!?」

そう、蓮雄の剣を受け止めていた剣は2つだった。つまり、二刀流というわけだ。マジかよ……。と、そんなことを考えている暇はなく、ゼロが蓮雄を蹴り飛ばす。

蓮雄が立ち上がろうとした時には、ゼロは蓮雄の真上にいた。

ゼロはそのまま2つの剣で斬りかかってきた。

蓮雄は反応が遅れ、後方に避けたのにも関わらず両肩から下に深く入ってしまった。胸の辺りまで斬られた。

たった数秒の間に蓮雄は血が大量に出ていた。……なんだこいつ……バケモノか……。

ゼロは空中に浮いていた。ふん……二刀流に空を飛べるか……ほんとにチーターだな……。

と、その時、ゼロが片方の剣を投げつけてきた。蓮雄はその剣を弾き飛ばした。が、すぐ目の前にはゼロの真顔があり、蓮雄は腹に剣を刺されたまま、遥か後ろにある壁に激突された。

蓮雄は剣をゼロに振り下ろす、が、ゼロにそれを剣で受け止められた。さっき弾いたはずの剣で。

「な……」

「まだ1分も経ってないのですが……肩と腹に大傷……と」

相変わらずゼロは真顔だ。

「所詮そんなものですか……相手にもならない……」

そこで蓮雄はぶち切れた。

蓮雄はニヤリと不気味な笑みを作りながら、剣を持っていない手で腹に刺さっている剣を、強く握りしめた。ジワジワと血が流れていく。馬鹿なのか?とゼロは思ったが、次の瞬間剣が折れた。蓮雄は手がちぎれる覚悟で手で折ったのだ。

ば、ばかな……!剣を片手で折った……だと……!?byゼロ★

蓮雄は折ったあと、血まみれの手でゼロを殴り飛ばした。そんなもので背中から倒れるわけなく、浮いた。

ゼロは驚いていた。生まれて初めて片手で剣を折るヤツみたのだから。それはヘルも同じだった。

蓮雄の腹には剣が刺さったままだ。背中から突き出ている。だが、蓮雄はお構い無しにそのままゼロに向かってに走り出す。

剣が1本なくなろうが関係ない。所詮この高さまでは――何!?

刹那の間に蓮雄はゼロの高さと同じところにいた。それは、浮いている、ではなくジャンプして飛んでいる、だった。

そのジャンプ力は凄まじいもので、高さがビル6階分ぐらいだった。

蓮雄はそのままゼロに斬りかかる。

ゼロは驚いていて反応がかなり遅れてしまった。

次にはゼロは降下していった。蓮雄はゼロを斬らず、羽を切ったのだ。

ゼロが地面に落ちると同時に、ゼロの腹を何かが貫いた。それは蓮雄の腹に突き刺さっていたはずの剣だった。

蓮雄はジャンプする直前、落ちるところを予測しそこに自分の腹に刺さっていた剣を地面に突き立てたのだ。

蓮雄は落下しながら剣を下に向ける。そのままつくつもりか……だが残念だ……君の負けだ。

蓮雄はゼロに剣を突き刺すことなく、負けた。

ゼロは蓮雄の胸に剣を刺して、勝った。

「勝負あり。ゼロの勝ちだ」

蓮雄が、負けた。『勇者』の蓮雄が、たかが情報屋に負けてしまった。本当の戦場だった場合、確実に蓮雄は死んでいた。闢鬼びゃっきゼロに爆颶蓮雄ばぐれおんは負けた。

蓮雄の頭は真っ白になった――。

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