3 昔の記憶はよくぼやける&馬鹿とバカは奇跡的に連鎖する

★★★

――どうやら俺はもうすぐ死ぬらしい。

死刑台に張り付けられた少年はそう思っていた。少年は大きな『罪』を犯した。逃げ回っていたのだが、どうやらすぐに捕まってしまい、すぐに死刑が言い渡された。

極一般人の少年はとても明るく、近所でも評判が良かった。だが、ある『罪』を犯してしまい、どんどん評判は落ちている。まぁ無理もない。

少年が犯した『罪』は絶対許されるものではない。決して……命に変えようが……。

死刑台に張り付けられた少年に、少年を殺すのであろう男が2人刀を持って近づいてきた。首を落とされるのか。

周りには傍観者がいてザワザワとしている。公開死刑だ。

少年は笑って死のうと笑い、男が刀を振り上げたとき。

――待ちなさい。

と優しい女の声がかかる。男は刀を止め、少年は笑顔を消してその声の主を向く。

長い青い髪に王冠を被り、扇子を持った女王がそこにはいた。

――女王、どうかなさいましたか?

1人の男が女王に問う。

――この者の処刑は無しにしなさい。

女王が信じられないことを言い、会場がざわつく。

――なぜですか?この者は大きな『罪』を犯したのですよ?女王にも影響がでるほどの。

男はそういった。

――えぇわかってます。ですけど処刑は無しです。

――理由は?

――ありません。

な!とそこにいた誰しもが声を出した。

――ですが、私は賭けてみたいのです。

――な、何を?

――この1匹『狼』を私が飼いこなせるか、それとも1匹『狼』が私を飼いこなすか。

――何を馬鹿なことを!さすがの女王様の言う事でもそれは聞けません!

――そうですか……残念ですね。

女王がそう言うと扇子を閉じた。男がヒッ!と怯える。なぜだろうか?それは少年もわからなかった。

――どうしますか?

女王が男を見つめる。すると男が嫌そうな顔をしつつ、

――何かあったらすぐ死刑ですからね。

――ありがとう。

少年は喋ることができないため、何も問うことができなかった。

女王がこちらに向く。

――離してあげなさい。

そう言うと男が少年を死刑台から取り外す。歩けるようにはなったが、未だ手と口は自由ではない。

突如として、女王が衝撃的な言葉を発する。

――あなたの家族は全員……亡くなりました。

少年は目を見開いた。家族が全員……大切な……家族が……全員……な、なんで……なんで!?

――んんんんんんんんんん!

少年は叫んだ。女王に問うように。

――さぁ、自殺なのか、それとも他殺なのか……それは今調査中です。

少年が驚異的な力で、手を縛っていた縄をちぎり、剣を出現させて女王に斬りかかる。周りの手下達が危ない!と思った時には、突風が吹いて吹き飛ばされる。見ると、少年の剣を女王は動かずに剣で受け止めていた。

――んんんんんんんんんん!

――そんなに慌てなくても、あとで私を殺させてあげますよ?

少年が女王の剣を振り上げ、そのまま腹の部分を斬ろうと剣を振る。が、そこに女王の姿はなかった。

突然として消えた女王は、周りを見てもどこにもいなかった。前後左右見ても気配すらない。

――んんんんんんんんんん。

口から漏れる。

――ですがね、今のあなたじゃ私は殺せませんよ?

瞬間、前から突風が吹き、少年は大きく吹き飛ばされる。

壁に激突し、地面に倒れる。その際、剣がどこかに飛んでいってしまった。

目を開けると少年の上に、女王が乗っていた。少年の首には女王の剣が突きつけられている。動けば喉を突かれ即死だ。

女王は赤と灰色の剣、少年は真っ白な剣。殺気に溢れる『狼』と純粋に生き残ろうとする『狼』をそれぞれ象徴していた。

――どうでしょう?私に、ついてくる気はありませんか?

――んんんんんんんんんん!

――そうでした、喋れないんでしたね。

そう言って女王が少年の口を抑えていた縄を切る。これでようやく喋れるようになった。その途端、少年が女王に唾を飛ばした。女王はフッと笑うと、唾を拭き取った。

――おやおや。あなたの死刑を無しにした相手に唾をかけるとは。

――……ぇんだよ。

少年が何かを言った。

――ん?なんですか?

――いちいちうるせーんだよ!

――ほう……。

少年の顔は怒っていた。女王の顔は笑っていた。

――てめぇーが俺の家族を殺したんだろ……。

――いえ、そんなことはありませんよ?

――嘘つけ……!

――だ・か・ら、今調査中だと、言っているでしょう?

女王の剣が喉元に当たり、そこからジワジワと血が溢れ出る。

――私があなたの家族を殺す理由なんてありますか?

少年は答えることができなかった。

――ね?

――じゃあなぜ俺は殺さない……?

――なぜか?そんなのに詳しい理由なんているのだろうか?

――……。

――ただ単に似ていただけですよ。

――誰に……?

――さぁね。

――なんでだよ……さっさと俺を殺せよ……俺はてめぇーに迷惑かけたんだぞ……。

――そうなのかい?私は全然迷惑になってないが?まぁあのジジィは迷惑になったらしいが。

女王は笑顔だった。何も少年に思っていない、純粋な笑顔。

女王は少年の抵抗がなくなると、突きつけていた剣を離し、少年から離れる。少年が立つと同時に女王は落ちていた真っ白な剣を手に取る。

――いい剣だ。

女王は1本剣を少年の足元に放り投げた。その剣は、先程まで女王が使っていた赤と灰色の剣だった。

――私についてくる気があるなら、その剣を取りなさい。何も恐れることはありません。

女王は背中を少年に向けていた。だが、背中からその笑顔が感じられた。

――そこには仲間が待っていますから。

その瞬間、少年の目から涙が溢れ出てきた。なぜかは少年にもわからない。

――嫌ならついてこなくて結構。だけどこの剣は貰いますからね。あ、この剣を返してほしければついてこないと、ね。

女王はそう言ってゆっくり歩いていった。

少年は躊躇いもなく剣を拾うと、女王の元に走っていった。少年は女王の横で剣を大事に握りしめて一緒に歩いていた。


気づいた時には寝ていたらしい。蓮雄は喉元をこすりながら起き上がる。

昔の記憶が戻ってから、この記憶だけは頭から決して離れない。だがなぜだろうか、その女王の顔が全く思い出せない。今のも顔が髪の毛で隠れているような感じで、はっきりと見えない。あーなんかほんとラノベってこういう話だよね。昔の記憶はあるけど顔が思い出せないってさ。なんでだよ!ってな。まぁ俺は?龍架ろんかの話によると全部は記憶戻ってないらしいから、思い出せないのは当たり前なんだけど?喧嘩売ってないですすみません。

だが、その女王が悪い人ではないことは確かで、俺の、蓮雄の命の恩人で師匠ということだ。

蓮雄はまた寝転がり、深い眠りについた。


★★★

蓮雄の家の前にある人物が2人立っていた。1人はネコ耳に語尾がルルとかいうふざけたヤツで、もう1人はサングラスをかけて赤いマフラーをした男。

「ここがあいつの家かー?」

「そうみたいルル」

2人は家を見上げる。

「え?ほんとー?」

「そうルル」

「いや、あいつはもっと豪華な家に住んでるはずだー」

「いやナン様馬鹿ルル?」

「いやーお前も十分馬鹿だよー。ここは違うってー」

ドン!

と何やら家の中から聞こえてきた。

「うん、これは違うねー」

「ルルルルルルルルルルル」

「ん?何ー?ホントにここかなー?」

見ると、家の表式には爆颶と書かれていた。

「あいつ、バグって苗字じゃなかったよなー」

「そうなのかルル?」

「んー思い出せないやーアハハー」

ナン様は笑って家から離れる。それに続きネコ耳野郎もついていく。そして近くに止めてあった車に乗り込む。そして発車しようとすると、窓をトントンとノックされる。見ると、眼鏡をかけたスーツを着た男が立っていた。ナン様はドアをウィーンと開ける。

「すみません、ちょっと私をひき殺してくれませんか?」

何言ってんのこいつ?と普通の人なら思うだろうが、この馬鹿共は違う。

「いいですよー」

「どうやってひき殺すルル!?」

バカです。

「普通に」

そう言って男は車の前に立つ。

「ナン様、あそこの電柱にぶつかるルル!」

「了解ー」

そう言ってナン様はアクセル全開にして男を引きながら電柱にぶつかった。


★★★

そして現在に至る。

「というわけなのだが」

「まさかのバカ共が奇跡的に繋がってぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

その声はニルバナ王国の洞窟によく響いた。

「何言ってんだ貴様」

「おいそのひき殺したヤツ絶対ナンの野郎だよな!?」

「何1人でブツブツ言ってんだ?」

「いや、なんでもない」

マジかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?あのバカこっちにきてんのかよぉぉぉぉ!?最悪だ!あのバカは最悪だ!

ヘルが何やらブツブツ言っているが、何も耳に入ってこない。それよりもナンの野郎が気になりすぎるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅう!

ところで、今はその勝負するところとやらに向かっている。あそこの住宅街でやったら後々面倒なことになるし、何せよやりにくい。何も無い空間がニルバナ王国にはあるらしいので、今、そこに向かっているところだ。それにしても、ナンの野郎会ったらまずぶっ飛ばす。ナンが誰だって?あとねあと。めんどくさいからあとで。

「貴様聞いてんのか!」

「すまん、どうやったらか★はめ波が出せるかイメージトレーニングをしていたところだ」

「貴様に聞いてねぇよ!」

ま、まずこっちのバカをどうにかするか、だな。

「蓮雄!貴様のことだぞ!」

「ご、ごめーん」

ピキピキ。

「ギヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

なんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?

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