ちびっこカーゴ・カルト

 公園の地べたに理想のツインテール像を描いて遊びほうけていた探偵団員の面々でしたが、リーダーの狸林くんはふと我にかえり、佐竹くん失踪の手がかりを探すという本来の目的をついに思い出しました。

「アッ、しまった! 先生、僕たちがこんなことをして遊んでいるあいだに、もしかしたら佐竹くんは悪漢の手によって恐ろしい責め苦を味あわされているのかもしれません」

「ああ、そういやそうだね。みんないいかい、なごりおしいが、ツインテールのことはいったん忘れよう。今は佐竹くん失踪の手がかりを探そうじゃないか」

「そういえば、さっきの怪しいつぶつぶはどこだったかしら。もしかして、あのつぶつぶをたどっていくと佐竹くんを見つけることが出来たりするシステムだったりして」

「なるほど。AGI(敏捷性)の高い佐竹くんのことだから、そのような細工をしていることは十分考えられるね」

 団員たちは改めてのりたまの形跡を探しましたが、読者の皆さんはご存じのとおり、それらはもう、風に飛ばされたり犬に食べられたりアリに持ち運ばれたりで、きれいさっぱりなくなってしまっていました。

「ああ、佐竹くんが残してくれたかもしれない唯一の手がかりが消えてしまった! もう打つ手はないのだろうか。ぽんぽんこぽんぽこ」

 狸林くんが重厚な腹づつみのビートで焦りやいらだち、絶望感といった感情を表現していると、後ろから温かく大きな手で彼の肩を叩くものがありました。誰あろう、われらの阿頼耶先生です。

「ドント・ウォーリー。ストップ・ザ・腹づつみ。佐竹くんの居どころは僕がたちどころにつかんで見せようじゃないか」

「エッ、先生にはそんな秘策がおありなのですか」

「うむ、実はさっき思い出したのだがね、きみたちに支給したスマホはすべて、きみたちの監督責任者であるぼくが管理するところである。したがって、佐竹くんのスマホもよく考えたらとうぜん僕の管理下にある」

「ハア」

「……あっ、なるほど。そういうことか!」

 みんながポカンとしているなかで、いちばんメカに詳しいジョーカーくんがポンとひざをたたきました。

「このスマホ、先生が設定をいじっておられたせいで、おいろけサイトを見ることが出来なかったのですね! なぞがとけました!」

「うむ、君たちの健やかな発育を考え、アダルトサイトへのアクセス制限をかけている。しかし今の話の眼目はそこではない」

「有害サイトへのアクセス制限以外に、ぼくたちの十徳スマホになにか設定がしこんであるということですか?」

「設定というわけではない。ただ、僕が管理者として全員のアカウントおよびパスワードの情報を把握しているということだ。それがつまり何を意味するかというと、まあ、これを見てみるがよい」

 阿頼耶先生は自分のスマホを取り出し、なにやらじゅもんのような文字列を入力しました。すると、とあるアプリケーションが立ち上がりました。

「さあ諸君、これを見たまえ」

「あっ、これは地図ですね。しかしこの地図はいったい何を表しているのでしょう?」

「ウム、この地図に示された場所こそが、佐竹くんの現在地だよ」

「ええっ、そんなことがわかるのですか? まるで魔法のようだ」

「ハハハ、魔法ではない。これはね、佐竹くんの持っている十徳スマホのGPS機能を用いて彼が今いる地点を割り出したにすぎない。たいていのスマホについている基本的な機能だよ」

 阿頼耶先生の博識ぶりに、団員一同は目を丸くし、やがて西洋人の舶来文化を信仰する原土人のような心持ちになって、先生を崇拝するために輪になって回りながらばんざいをとなえはじめました。

「さすが僕たちの先生だ。ばんざーい、ばんざーい」

「ハハハ、よせやい。こんなの一般常識だよ」

「ばんざーい、ばんざーい」

「まあ、そのへんの一般人よりはこういうガジェットに詳しいけどね」

「ばんざーい、ばんざーい、ガジェット神ばんざーい」

「ハハハ、やめろよ。まあ、もともと最新テクノロジーの情報に敏感というか、アーリーアダプターというか、僕が中野で一番早くスマホを手にした男と言われているけどね」

「ばんざーい、ばんざーい、中野の始祖神ばんざーい」

「ハハハ、やめなさい。まあ、GPSを用いて神かくしの子どもを探すなんていうことを思いつくのは、探偵業界広しといえども僕くらいのものかもしれないけどね」

「ばんざーい、ばんざーい、探偵界の唯一神ばんざーい」

 このような調子で、団員も先生も浮かれ踊りをいつまでも続けたせいでへとへととなり、一行は近くの茶店でおしるこを食べて休憩し、そうこうしているうちに日没となりましたので、この日は解散となりました。

「今日は遅くなってしまったので、明日の朝にまた集合しよう。佐竹くんの監禁場所の斜め向かいにローソンがあるから、そこの駐車場に現地集合しようね」

「はい!」

 かくして佐竹くん捜索はいったん打ち切りとなり、団員たちは三々五々それぞれのお家に帰って行き、阿頼耶先生と狸林少年はいつものようにカフェー「けもの部屋」へと向かうのでした。この、まったくといってよいほど無駄に終わった一日のせいで、佐竹くんの身に危険がおよばなければよいのですが……

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金毛白面相 ヒモロギ @himorogi

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