第2話 入学

羽束師高等学校

二年前開始された大規模な改修工事が終え、

ここ羽束師高校は公立高校でありながらも、野球部のグラウンドには黒土の内野に天然芝の外野、さらには室内練習場。陸上部には全天候型のトラックなど、私立高校にも引けを取らない贅沢な設備がそろうようになっていた。

そして、それは屋内競技が使う体育館も例外ではない。

まぶしいほどきれいな体育館で、使われる道具はすべて新品。おまけにバドミントン部には体育館の半分、コート4面分を常に使えるという特権までそろっていた。

4月。

入学式を終え、クラスでの初HRも終えた健一は、バドミントン部のミーティングルームへと向かっていた。

今年から設立されるバドミントン部。人を集めていたと聞いたが、いったい誰がこの高校に入学してきたのだろう。女子は何人か同じクラスだったけど、男子にはまだ会ってないな。

そんなことを考えていると、第一回ミーティングが開かれる教室についた。

扉を開け、入ってみると、そこにはすでに何人かが着席して待っていた。

女子が合計で7人ほどである。どの顔も見覚えがある。女子はあまり知らないが、おそらく県大会でも上位にいた奴らだろう。

と、ここで異変に気づく。

男子がいない!?

男子はまだ健一しか来ていなかった。

おいおい、最低でも5人いないと団体戦でれねーぞ。と、心の中で焦りを感じていると、また教室の扉が開いた。入ってきたのは50代くらいの白髪交じりの短髪の男で、スポーツコートを羽織り、いかにも優しそうな風貌だった。

しかし、健一を含めこの教室の中の全員がこの男を知っていた。

バドミントン部の顧問、川本先生だ。前の高校で10年以上バドミントン部の顧問を務め、一時は全国でもベスト8に入るなど、好成績を残したが、その厳しい指導から鬼監督と呼ばれ、生徒から恐れられていたらしい。が。

「おー、みんなそろってるなー。じゃ、ミーティング始めようかー」

と、満面の笑みで、まずは自分の自己紹介をした。

「僕が顧問の川本です。僕のことは先生ではなく、監督と呼んでくださいねー」

予想外の優しさに、みんなの顔も緩み、続いて一人ずつ自己紹介に入った。

「蝶ヶ丘中学校出身、吉本健一です。あのーせんせっ、、いや、監督、、もしかして男子は、、、?」

健一は恐る恐る川本先生、、いや、監督に聞いてみる。

川本監督は満面の笑みで

「事前に申し出があったのは君だけだよー。あ、でもさっきもう一人、入りたいって子がいたよ。県大会一回戦負けって言ってたけど、仲良くしてあげてねー」

と、言った。

「はい、わかりました。」

健一は白目になりながら、声を振り絞った。

―終わった、、俺のバドミントン人生が、、、-

健一は絶望していた。


そんな健一の心は知らず、川本監督は言う。

「じゃ、全員自己紹介が終わったな。本来なら、まだ一年生の君たちのやるべきことと言えば、基礎トレーニングなど、未来を見据えた練習だが、もう5月からインターハイ予選が始まる。上級生のいないこのバドミントン部では、君たちみんなが即戦力だ。だから、今回の目標は”全員一年生部員でインターハイ出場”だ!!」

教室の中全員が驚く。

インターハイ出場というと、県大会で優勝しなければできない。

最近まで中学生だった一年生が、ほかの三年間練習してきた人たちを倒してインターハイ出場など聞いたことがなかった。


この先生。めちゃくちゃだ。

健一は思った。


おそらくその目標に、男子が含まれていないことを実感しながら。。。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る