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@bintang662

第1話 中学時代

10月、少し肌寒くなってきて、

部活動も文化祭も体育祭も終えた中学生三年生たちが次に取り組むのは、受験勉強だ。


県立蝶ヶ丘中学校。

古くからあり生徒数も多く、頭はいいとは言えないが、その分部活動が充実している。

校門に面した校舎の壁に掲げられるのは、もっぱら部活動の優勝記録などだろうが、しかし残念ながらこの中学校には例年そこまで活躍する部活動はいない。

だが、今年はたった一つであるが、大きな垂れ幕に名の載っている部があったようだ。

その垂れ幕には

[祝!男子バドミントン部団体 県大会準優勝]と書いてあった。


それを眺める男が一人。

元男子バドミントン部副キャプテンで、エースだった吉本健一だ。

なぜ”元”なのかというと、問題を起こしたわけでも怪我をしたわけでもなく、引退したのだ。

そう、彼は三年生。今はバドミントン部ではなく、受験生だ。

「け、健一、、」

そういって近くにきたのは、同じく元バドミントン部三年生の中島光彦。健一の幼馴染でダブルスのパートナーでもあった。無口で内気な性格だが、なぜか人気者だった。

「また見てるの?」

「ああ、だっておかしいだろ?この書き方。確かに団体で二位にはなったけど、俺たちのダブルスだって二位だったじゃん。なのに団体しか書かないなんて、これだとキャプテンがすごいみたいじゃん!」

と、健一は声を荒げていた。どうやら栄光に浸っていたわけでも、優勝できなかった悔しさを思い出していたわけでもなく、単に自分がもっと注目されたかっただけのようだ。

「そ、そうかな。はは。。」

光彦は苦笑いで返した。

「なあ、光彦。」

と、健一はいきなり真剣な表情に変わった。

「俺、羽束師高校に行くよ。」

「え、羽束師って、これからバドミントン部作るっていう?」

「そう、そこの第一期生になるんだ。すごくね?」

健一はにやりとわらった。

「それだけじゃねえ。去年からあの川本先生が羽束師に来て、今選手集めしてるらしいぜ。一回、高校見学に行ってきたんだけど、県大会で上位にいた奴らや、他県の強い奴らがうじゃうじゃいやがった。そこでもっと強くなりたいんだ。」

健一は目を輝かせていた。

「へえ、すごいね!」

光彦もつられて目を輝かせる。

「だろ?だからさ、一緒に行こうぜ。光彦」

「え?」

光彦が一瞬真顔にもどる。

「高校でもダブルスを組もう!噂では、ダブルスで唯一俺たちがボロボロに負けた辛島・榎本の榎本とシングルスで優勝した大仁田は、八幡高校に決まったらしい。あいつら、もうダブルスの練習してるんだとよ。

だから、俺たちも高校でも続けよう。俺たち、一年の時は二人とも初心者だったんだ。それが、ダブルスで準優勝できるまでになったんだぜ。高校では優勝をめざそうぜ。」

話終えた時、健一は少し息が切れていた。よほど熱くなったのか、それとも彼なりに緊張していたのか。

光彦は、それを優しい表情で見つめていた。そして、

「ごめん、僕は嵐山高校に決めたんだ。」

優しい表情のまま、そう返した。

「嵐山って、毎年ギリギリベスト8に食い込むくらいのところだろ?なんで、、お前ならもっと上も目指せるだろ。」

健一はありえないという表情だった。光彦はつづける

「嵐山は頭もいいし、バドミントンと両立できるかなって。それに、いつまでも健一にくっついてちゃダメなんだ。バドミントン部に誘ってくれたことは、とても感謝してるよ。健一がいたから、僕はここまでこれたんだ、でも、今度は僕一人の力でやっていきたいんだ。」

「。。。そうかよ。」

健一は意外とあっさり引き下がった。うすうす感じていたのだ。光彦の中ではバドミントンがすべてというわけではないと。

「後悔すんじゃねーぞ。俺は、絶対にお前にだけは抜かれねえ。」

「負けないよ」

光彦は優しく微笑みながら、返した。

健一は、不思議と悲しくはなかった。より燃えてすらいた。

幼稚園からともに過ごしてきた友との、別れだった。

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