十四 クリーン

「……というわけです。賢王ホドホド七世はその後、安らかな顔で空中に溶け込むようにして消えていかれました」

 イヴが一通り事情を説明し終えると、ディーン・ファインとシリム・チーリは感嘆のため息を漏らしつつ跪いた。

「アダム殿、いや、モウコ・ハン殿。ようやく、名実ともに王となられたのですね」

「我々は、これからも身を粉にして働いてゆく所存であります。それで、いろいろと聞きたいことがあるのですが……」

「うむ、国内の様子であろう」

 二人が頷くと、アダムは二人を大広間に連れていった。

 そこにあったのは、ガニマタ王国の縮小模型である。モウコ・ハンは、それを指差しながら説明を始めた。

「現在、ガニマタ王国の総人口は、ゆうに五万を超えている。オカメ鳥も含めると、七万近い。王都アヤタカの人口は二万人、そしてこれからも増えてゆく予定だ。この辺りの郊外には三本目の滑走路が建設中で、ゆくゆくは六本の滑走路で世界各国との間に定期便を飛ばす心づもりである。海に面したこの都市には、港が着々とできつつある。船は大量輸送に向いているから、これによってウンザリ諸島など南の国々との貿易も今後ますます活性化していくだろう」

 二人はただただ感心するばかりである。

「この国の優れた点は、何と言っても風光明媚な景色と豊かな自然である。よって、自然を破壊したゴルフ場の建設などという馬鹿な真似はせず、景観を生かしつつ環境にも配慮したリゾート地の建設を進めている。オカメ鳥と触れ合えるという強みを最大限に活用し、この国を世界でも有数の観光地にするのだ」

 モウコ・ハンは語り続けた。

「さらに、王都は大玉転がしが可能なように設計してあるし、町外れの広場には投げ槍コートも設置してある。たまに訪れる客が楽しいだけでなく、国民が暮らしていて楽しい国づくりを目指しているし、それは今の所すこぶる順調だ。そうそう、モノレールも鉄道も一年以内には開通する予定だぞ。そして国内の電力は、太陽光、風力、そしてプリンプリン博士……じゃなかった、プリンプリン経済産業大臣が発明した、かの『バタートースト永久機関』により発電された電力で十分賄える計算だ。ガニマタ王国は、他の国々とは一味違う、極めてクリーンな国になりつつあるぞ! ゆくゆくは他国にこのノウハウを伝え、火力発電や原子力発電からの脱却を世界的に推し進めてゆきたいものである」

 モウコ・ハンが語り終えると、二人は割れんばかりの拍手を送った。

「ははあ、もう凄すぎて言葉も出ませぬ」

「やはりあなたは素晴らしき王である」

 モウコ・ハンは笑って首を横に振った。

「私は何もしておらぬ。お主たちを始めとする部下たちが、揃いも揃って優秀なだけだ」

 この謙虚さこそ、部下たちがアダムに付き従う最大の要因であった。かつては自分の才能を持て余し、やや自意識過剰なきらいもあったアダムだが、優れた部下に囲まれ、王としての自覚を持ち始め、こうしてついに立派な王となりえたのである。

「それで、お主らの結婚式の日取りはいつになるのだ?」

 ディーン・ファインとシリム・チーリは二人揃って飛び上がった。

「ど、どうしてそれを……」

「まだ誰にも言っていないのに!」

「なんだ、そうなのか」

 モウコ・ハンは拍子抜けしたように言った。

「そんなもの一目見てわかったぞ。それに、善は急げと言うではないか! 今をときめく大スターの二人が結婚するとなれば、当然結婚式には多数の参列者が集まる。となれば、それまでにインフラの整備を完了させねばならぬ。ガニマタ王国の観光地としての地位を、より強固にするチャンスである。どうせなら盛大に祝ってやろうではないか。どこで結婚式を挙げたい? やはりこの王城か?」

「いえいえ、滅相もない!」

 二人は首をぶんぶん横に振った。

「王城で結婚式だなんて、そんな恐れ多いこと……」

「なぜだ? 現在でも、希望者には王城貸切での結婚式サービスを実施しているぞ。牧師も神父も貸し出し可能、引き出物は世界各国から新鮮な海の幸と山の幸をお取り寄せ。この王城で結婚式を挙げ、めでたく夫婦となったカップルはすでに十二組! どうだ、なかなかの実績だろう」

 モウコ・ハンは胸を張り、二人は口をあんぐり開けて固まった。

「どうしたその顔は。王城など、こんなに大きいのにほとんど使われておらぬではないか! デッドスペースが多すぎるのだ! 私は踏ん反り返った王様になるつもりはない。国民との距離が近く、何か要望があればすぐに受け取って改善できるような、国民との距離が近い王になりたいのだ。イヴはその意を汲み、ちょくちょく街に出かけては国民と触れ合ってくれている。市井では、イヴはもう親しみやすい王妃様として大人気。特に子どもたちからは絶大な人気を誇っているのだ。王城が王のものだと、誰が決めた? ここはガニマタ王国のいちランドマークに過ぎぬ。必要とあらば開放しよう! 憩いの場となり、新しい夫婦の誕生の場となり、祝いの場となるのならば、それ以上の喜びはない!」

 こうして、ややモウコ・ハンに押し切られる形で、およそ半年後、二人の結婚式が王城で開催されることが決まったのであった。

 期日は、およそ一年後。


 そして新しい国づくりは着々と進み、あっという間に半年が経過した。

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