十五 誕生

 アダムとその部下たちは、オカメ鳥に乗ってゆっくりと進んだ。

 目の前に広がっているのは、目に痛いほど青々とした草原。流れる小川の水は日光を反射して眩しく輝き、空は突き抜けるように青く、白いちぎれ雲がふわりふわりと漂っている。涼しい風がさあっと吹くと、丘陵の草原がそよそよと揺らぎ、小鳥が数匹パタパタと飛び立った。奥に見える山々は新緑が生い茂り、まさに山紫水明、一枚の風景画のような素晴らしい景色である。

「ここが……我々の新天地!」

 アダムがイヴを抱いてオカメ鳥から飛び降り、しかと大地を踏みしめた。

 部下たちもそれに続いて飛び降り、地面に降り立つ。人間四十七人とオカメ鳥五十匹は、ついにこの地に降り立ったのだ。

「さあ、宣言しよう。この風光明媚の土地に、我らが王国を築く!」

 歓声が爆発した。長い旅路を振り返って涙する者、早速地質調査に駆け出す者、オカメ鳥と抱きしめ合う者、それぞれが自分のやり方で喜びを表現した。

 シリム・チーリは感動のあまりぺたんと尻餅をつき、跳ね飛ばされ、悲鳴を上げて空へと舞い上がった。

「アダム殿、国の名はいかがいたしましょう」

 目に涙を浮かべたツギハギがひょこひょこと近寄ってきたが、それを見てアダムは大いに笑った。

「ツギハギ、一体どうしたことだ、その歩き方は」

 よく見れば、おかしいのはツギハギだけではない。ずっとオカメ鳥に騎乗していた、つまりずっとオカメ鳥の腹を足で挟み込んでいた彼らは、足が固まって歩きづらかったのだろう、全員O脚気味に、ひょこひょこと左右に揺れながら歩いていたのである。

「皆、揃いも揃ってガニマタではないか」

 部下たちはお互いの足を見て、笑いあった。

「やあ、本当だ」

「仕方ない、ずっとオカメ鳥を足で挟んでいたからな」

「足がこの形で固まってしまったんだ」

「ひどいガニマタだなあ」

「見事なO脚だ」

 アダムは伝説の剣かりかりばーをすらりと抜き。天に掲げた。それは日光を反射して虹色に煌めき、新しい王国の誕生を祝福するかのごとくに柔らかな光を投げかけた。

「ガニマタ……ガニマタか。いいだろう、ここに樹立する、我らが王国の名前は……ガニマタ王国! 我らはガニマタ王国民だ!」

 これが、後世まで語り継がれる、ガニマタ王国誕生の瞬間であった。

「ガニマタ王国、万歳!」

「ガニマタ王国、万歳!」

「ガニマタ王国、永遠なれ!」

 歓声は、日が沈むまでガニマタ王国の地に響き続けた。

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