十三 チェッカーズ

「では、ここに来た要件のひとつを伝えよう。ここに控える三兄弟アンとポンとタンは生活に窮した挙句、自分たちをツギハギ殿の手下と詐称し、この地を通る人々から不法に金を巻き上げていた。しかし本人たちは反省の色を見せ、いかなる処罰でも甘んじて受けると申しておる。この者たちは将来、おぬしと同じく私の部下となる存在であり、私の国でばりばりと働いてもらわねばならぬため、死なない程度に処罰を下してもらおう」

 アンポンタンは平伏した。ツギハギは少し考え、こう述べた。

「では、こうしよう。この領内にはアイスィンクソウと呼ばれる草がところどころに生えておる。毒々しい赤色をしており、遠目にもわかりやすい。これは大変に危険な草であり、この草から出る胞子を吸ってしまうと、その後二日間は人の言うことに全て同意してしまい、反対ができなくなるのである。よってこの草は自白剤などに加工され、悪人たちに重宝されている。常々から頭を悩ませていたが、いい機会である。お前たちには、この草を根絶やしにしてもらいたい」

 アンとポンとタンは顔を上げた。

「そんなに簡単な処罰でいいのですか」

「もっと厳しい罰をお与え下さいませ」

「我らの犯した罪はその程度ではない」

 ツギハギはニヤリと笑い、窓の外を指差した。ツギハギ邸の裏手のそこにはアイスィンクソウの大群生があり、なるほど、これを全て除去するには何週間かかるかわからぬ。

「簡単ではないぞ。胞子には今言った効果があるが、茎には猛毒があり、これが体内に入ると人の体は一週間でビラビラガマガエルと化す。さらに花びらの模様には幻覚作用、これを見ると三日間は自分の周囲にニジイロモモンガがみっちり見えるという。花の蜜には中毒性もある。これを一度でも飲むと毎日飲まずにはいられなくなり、やがては喉の渇きに耐えられなくなって蜜を求めてアイスィンクソウの群生に駆け込み、とうとう息絶える。根は石のように硬く、しかしその根を擦りおろせばオカメ鳥化した人間を元に戻すワクチンに加工することができる。葉はカミソリのように鋭く、ナイフみたいにとがっては、触るものみな(ズンチャッ)傷つけた〜」

「ジャジャジャジャーン ジャジャジャ ジャジャジャジャ」

「ああわかってくれとは言わないが」

「そんなに 俺が悪いのか(ジャジャジャ)」

「ララバイ ララバイ おやすみよ」

「ギザギザハートの子守唄」

「というわけだ。アイスィンクソウの群生はここだけではなく、領地の至る所に存在する。これらを全て処理するのは大変であろうなあ」

 アンポンタンは立ち上がった。

「承知致した。我ら三兄弟、全力を尽くしてアイスィンクソウの駆除に務め」

「一刻も早く罪をそそいでアダム様のもとへ向かうことを誓います」

「では行かん、あのにっくき草を根絶やしにするのじゃあ」

 三兄弟は部屋を飛び出し、アイスィンクソウの群生のもとへ駆けていった。

「さて、これでひとつめは終了した。ふたつめの要件だが、ツギハギよ、私の荷馬車の荷台を預かっておいてもらいたい」

「いずこへ行かれるのです」

「この剣を携え、私の部下たりうる人物を探してくるのだ」

「なるほど、では私はここで新国の構想を練りながらお待ちしております」

「頼んだぞ」

 こうしてアンとポンとタンはアイスィンクソウとの戦いに挑み、アダムは剣を携え馬に乗り、新たなる部下を探すべくツギハギ邸を旅立った。

 アイスィンクソウの群生を避けつつ二日ほど進むと、目の前に畑が見えてきた。その横には小さな家があり、どうやら誰かが住んでいるようであるので、アダムはその家に向かって馬を走らせた。

 折しもそのとき、家の中から出てくる人影がある。それがその家の住人であり、やや醜い顔立ちのその娘は、名前をイヴといった。「もしもし、そこの娘さん」

 アダムは馬を止め、飛び降りた。

「食べ物を恵んでくださらんか」

 その娘イヴはアダムを見て、にっこり笑った。その顔は下膨れで、細い眉に白い肌、綺麗ともかわいいとも言えぬが、一言で表すとすれば福々しい顔つきである。どことなくオカメ鳥に似ていないこともない。

「かしこまりました。でもちょっとお待ちいただいてよろしいかしら、今から私の育てた野菜と向こうの方々が獲った肉を交換してまいりますので」

「向こうの方々、とは?」

「向こうの方々です。あなたは来ないほうがよろしいかもしれませんよ」

 そう言われると、アダムの好奇心は刺激される。

「いや、ついていこう」

 イヴは少し肩を落とすと、野菜の入った籠を持って歩き出した。

「わかりました。しかし、決して向こうの方々のお顔を見ないようにしてくださいね」

 不審に思いながらもアダムはその後についていき、森の中に入った。そのまま歩き続けること数十分、ぽっかり開けた空き地で待っていた「向こうの方々」と対面したアダムは驚きの声を上げ、慌てて目を塞いだ。

 それは、オカメ鳥の群れであった。

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