十二 領主ツギハギ

 次の日の朝、アダムの三度目となる来訪に、扉を開けて現れたのは例の四十過ぎの男であった。

「何用かな」

アダムは高笑いしながら男の胸ぐらを掴んで捻り上げ、そのままぶんぶんと縦に三回転させた。

「領主ツギハギどの、貴殿とお話ししたく思って参上したのにこの仕打ち。仏の顔も三度までというが私の顔も三度まで、よって三回転の刑である。まだしらばっくれるなら次は空中四回転半捻りの刑になるぞ」

 その男は笑み崩れた。そう、三回も縦に回されてなおアダムの手から悠然とぶら下がるこの男こそが後のガニマタ王国宰相となるツギハギなのであった。

「よくぞ見抜かれた。ささ、中に入られよ」

 アダムたちは中へと招かれ、三度目にしてようやくツギハギ邸に足を踏み入れたが、その内装たるや一般家庭となんら変わらず、なんとも質素な生活をしていることが読み取れた。

「いかにも、私が領主ツギハギである。普段からこうして小間使いのふりをして客の応対をし、客が自分より立場が下の者をどう扱うか見ているのであるが、アダムとか言ったか、あなたは私を丁寧に扱っただけでなく私の正体を見抜き、おまけに七十キロはある私を片腕で持ち上げて振り回した。文句無しに合格である」

 ツギハギは粗末な椅子に悠然と腰掛けた。なるほどツギハギには貫禄があり、名君と呼ばれるのも頷けるオーラを放っており、粗末な椅子も輝く王座と見紛うほどであった。

「お褒めの言葉、ありがたく頂戴いたそう。しかし貴殿こそ、このデップリ王国の王として君臨していてもおかしくないほどの王の器だとお見受けするが」

 ツギハギは首を振った。

「私はあの剣を引き抜けなかったのである。それはすなわち、私の天職が王ではないということだ。実際、常々思っている。私が王や領主としてではなく、信頼に足る人物のもとで宰相や大臣として働けたならば、くだらぬ物事に惑わされることもなく、よい治世のみに全力を注ぐことができるのに……と」

 アダムは立ち上がった。

「今しがた引き抜いてきたのであるが、その剣とはこの剣であるか」

 抜き放った伝説の剣は燦然と輝く。そのとき、輝く剣身にひらがなで刻まれた「かりかりばー」の文字が七色に輝きだした。内部にLEDが仕込まれていたのだ。

「なんと!」

 アンとポンとタンが立ち上がった。

「その剣身の六文字、七色に輝き出づるとき」

「才ある賢人、能ある武人、皆王の元に集い」

「永遠の誓いを交わし、王の器の礎とならん」

 ツギハギは跪いた。

「なんということだろう。幼き頃よりこの地に伝わっていた伝説は、真実だったのだ。私が仕える王とはあなたのことであったのだな」

 ツギハギは立ち上がり、右手を高く掲げ、左手は肩の高さまであげ、右足を太腿と地面が平行になるまで上げて片足一本で静止した。これが誓約を交わすときの正しい姿勢である。

「ではここに誓う、私ツギハギは今この瞬間からアダム様の忠実な部下となりて王を真の王たらしめんと。では、微力ながらあなたに尽くさせていただこう。よろしくお願い申し上げる」

 言い終わると同時にバランスを崩したツギハギは床にどす、と倒れこんだ。そのツギハギの手を握って引き起こすアダム、その神々しい光景を見た三兄弟は歓喜の涙を流し、室内にも関わらず天から太陽の光が燦々と降り注いで二人を照らした。

「うむ。私の王国には、ツギハギ、お前の力が必要だ。働いてもらうぞ」

「何なりと」

 こうして、領主ツギハギもアダムの部下となった。


 その頃王都では、アダムを捕まえるための縄を作るための藁がすくすくと育っている最中である。そんなこととはつゆ知らず、女王はアダムの消息を知ろうと躍起になり、怪しげな探偵にアダムの捜索を依頼して依頼金を持ち逃げされたりしたことで常時不機嫌になり、肌は荒れ、髪はパサつき、生理は止まり、それによってますます苛立ちが募るという救いようのない状態であった。女王の機嫌を損ねて干し肉と一緒に燻された奴隷が五人、釜で煮込まれた奴隷が二人、トイレに流された奴隷が三人。しかもこのうち二人は大便器ではなく男性用小便器に流されたのだが、どうやって流されたのかは今でも判明してはいない。げに恐ろしき所業であった。

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