十一 三顧の礼

 やっと到着した領主の居城は、とても城とは呼べないような代物であった。土を盛ってわずかばかりの高地とし、建物は大変質素で、大きさを除けば他の住民の家とほとんど同じであった。アダムは感動し、これはいよいよ名君に違いないぞと期待に胸を膨らませつつ粗末な門をくぐって玄関脇に荷馬車を停めた。

「頼もう」

 扉を叩くと、出てきたのは四十ほどの男であった。

「どなたかな」

「私はアダムと申す者。ここの領主ツギハギ様にお会いしたい」

「ほほう、それはそれは。しかし、残念ながらツギハギ様は出張中である」

「いつ頃戻られるか教えていただけるだろうか」

「さて、それは私の与り知らぬ所にござる。申し訳ないが出直していただこう」

「承知した」

 こうしてアダム、荷馬車に乗りこんで門を出て、再度森の中に入ると適当な木陰に荷馬車を停めた。

「アダムというお名前なのですね」

「我々は三つ子の三兄弟」

「アンとポンとタンにございます」

 おとなしく荷台に乗っていた荒くれ者はぞろぞろと降りてくると、先程とはうって変わって丁寧にアダムに挨拶をしたので、アダムは当惑しながら問いかけた。

「その物腰には気品が感じられる。先程見せた行いとは到底似ても似つかぬ。お主らは果たして何者だ」

 その問いに、アンポンタンは一斉に膝を折る。

「我々は代々、その伝説の剣を守護している一族にございます。我々の務めは剣の所持者にお仕えすること」

「しかし生活の手段がなく、糊口をしのぐために仕方なく盗賊の真似事などをやっていたのでございますが」

「あなた様という主人が見つかりましたので、これより我々三人はあなた様の家来にございます」

 その言葉にアダムは驚きつつも、厳しい口調でこう言った。

「成る程それはありがたいが、お主らの行った盗賊としての罪はすすいでもらわねばならぬ。元犯罪者ならともかく、犯罪者の部下を持つのは新国の王として理想的な振る舞いとは言い難い」

 アンポンタンは頭を下げた。

「わかっております。我らアンポンタン、罪を償いし後は直ちにあなた様の元へ駆けつけます」

「それにしても、新国の王とはまさか、あなた様は建国するおつもりか」

「何という気宇壮大な志。我ら三人、この命果てるまでアダム様の部下にござる」

 アダムは頷き、一人ずつ手を握った。

「うむ、頼んだぞ」

 さて、それから夜が来た。夜はアンポンタンと共に新国の構想を練り、現時点で四人しかいない国民の数をどうするかという極めて現実的な問題について話し合った。三兄弟は学もあり、アダムには及ばぬものの優秀な男たちであったので、アダムはこの三兄弟を部下とできたことを誇りに思った。

「そういえばこの伝説の剣には如何なる効果があるのか」

 そう問うたアダムに、アンポンタンは得意げに答える。

「その剣カリカリバーは、かつて凄腕の刀匠ガングロが叩き上げた逸品であり、ガングロの命が宿っているといいます」

「刀匠ガングロは生涯をかけて自身の剣の完成形を追い求め、ついに最後の最後で命と引き換えに創り上げたのがカリカリバー」

「その効果はなんと、無機物のみを切断するというものにございます。お近くのものでお試しくださいませ」

 そこでアダムは周囲の樹々や岩に斬りつけてみた。樹々に当たった剣身はまるでなまくらのように跳ね返り、木肌には傷一つつかなかったのに対し、岩に振り下ろすと岩はバターのようにやすやすと切断されたので、アダムは目を見開き、「逸品なり」と述べて驚嘆の意を表した。

 さて、次の日の朝が来た。アンポンタンとと共に再び領主ツギハギの城へ向かったアダム、今日は領主に会えるだろうか、会えないだろうかと緊張しながら門をくぐり、扉を叩いた。

「頼もう」

 扉を叩くと、出てきたのは昨日と同じ四十ほどの男であった。

「何用かな」

「昨日もお訪ねしたが、私はアダムと申す者。ここの領主ツギハギ様にお会いしたい」

「ほほう、それはそれは。しかし、残念ながらツギハギ様は出張中である」

「いつ頃戻られるか教えていただけるだろうか」

「さて、それは私の与り知らぬ所にござる。申し訳ないが出直していただこう」

「承知した」

 こうしてアダム、荷馬車に乗りこんで門を出た。アンポンタンがアダムに恐る恐る尋ねることには、

「アダム様、どうなさるのです」

「ツギハギどのは不在のようですが」

「ずっと森で待つおつもりですか」

 これにアダム、笑みを浮かべてこう答えた。

「出張だというのなら帰ってくるまで待とう。しかし、あれはおそらく詭弁に過ぎぬ。本当は出張になど行っておらぬに違いない」

 三兄弟はアダムから溢れ出す自信に打たれ、この王がそう言うのならそうに違いないと確信した。

「明日もう一度行く。そのときに全てがわかるであろう」

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