六章 終末作戦

不穏分子

 

 終末作戦。それは、人外がアルジェントという国に対して行う最後にして最大の総攻撃であるとテュランは語った。簡単に言えば、捨て身で国中を血祭りに上げるというものらしい。

 あらゆる火器や爆弾、そして人外特有の能力を注ぎ人間を根絶やしにする。何とも単純だが、テュランはアルジェントの地理を完全に把握している。何処にどうやって攻撃を仕掛ければ良いか、最早訊ねるまでもない。

 国というものは、国民が居なければ成り立たない。核兵器を狙うよりも、ずっと効率的に国を崩壊させることが出来る。そして、ヴァニラが提示した期限が迫っている。既に人外達は下水道や使っていない建物等、至る場所に身を隠しその時を今か今かと待ち詫びている筈。

 ならば、最早直接テュランに呼びかけさせて、人外達を降伏させるしかない。


「でも、そんなに上手く行くだろうか?」

「正直のところ、効果は期待出来ません。しかし、事前にテュランの言葉通りに国中を調査したところ、彼が示した大部分に人外達が潜伏している痕跡を見つけました。既に各地区へ各隊を配置しています。終末作戦が始まったところで、被害を最小限に抑えることが出来るでしょう。テュランの呼びかけが通じなくとも、作戦開始時間をこちらの思うように誘導するスイッチにすることが出来ます」


 アーサーの言葉に、ローランが低く唸る。現在の時刻は、ヴァニラが提示した期限を数時間後に控えた頃。サヤの懸命な説得により、テュランはついに人間達へ降伏したのだ。

 実のところ、これはサヤの願いだった。テュランが先日行った自傷行為。そして、それを止める為に研究員達が取り押さえようとした際に出来た傷が彼の身体に痛々しく残っている。

 それを、サヤはせめて隠してやりたいのだ。


「……まあ、それくらいの自由なら許してやろう。」

「ありがとうございます」

「時間はあまり無い。準備は早めに終わらせておけよ」

「わかりました」


 アーサーはほっと胸を撫で下ろして。大統領に一礼をすると、踵を返して部屋を出て行った。

 だから、自分が退室した後。ローランが受話器を取ったことに気がつくことが出来なかったのだった。


「アクトン隊長、そちらはどうだ? ……ああ、多少痛めつけても構わん。テュランは何を考えているかわからんからな、ヤツを完全に降伏させるためだ、引きずってでもヴァニラをアイツの目の前に連れて来い」

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