理解

「……良いよ」

「え?」

「その話、乗ってあげても良いよ」


 思わず瞠目する。再び目を開けたテュランが、真っ直ぐにサヤを見る。


「今度こそ、約束を守ってくれるなら……そろそろ、俺も限界だし」

「ほ、本当!?」

「でも、その条件をそのまま飲むことは出来ない。ヴァニラも……連れて行きたい」

「そ、それは」

「わかってる、終末作戦だろ? アレ、止めてやるよ」


 無意識に呼吸さえも忘れて。正直のところ、サヤとしては終末作戦の存在など二の次だった。とにかくテュランさえ助けられれば良い、そんな自己満足のため、大統領にまで嘘を吐いていたというのに。


「アンタや大統領達がのんびりしているところを見ると、終末作戦はまだ始まってないようだな。大方ヴァニラが俺を返せって喚いてるんだろ?」


 その通りだ。何も返せないサヤに正解だと悟ったのか、やれやれと肩を落とした。


「ま、それなら好都合だな。終末作戦を止めて、全ての人外に降伏するよう呼びかけてやる。そうしたら、ヴァニラを生きたまま捕らえてくれ。アイツ、まだ脚の怪我が治ってねーから、それが治ったら……無理矢理にでも引っ張ってこの国を出るよ。恋人だからさ」

「うん……わかった」


 やはり第一上級学校にヴァニラが居なかったのは、アーサーとの戦いで負った怪我のせいか。ヴァニラの名前を口にする度に、テュランの瞳が切なそうに揺れる。その度に、胸がぎゅっと締め付けられる。


 初恋の相手が、自分ではない女の子を好きになった。それが、ちょっとだけ悔しい。


「ヴァニラの怪我が治るまでの時間は稼げると思う。国はきみ達の処刑を求めるだろうけど、すぐに実行されるわけじゃないしね。色々と片付いて、落ち着いてからになると思うから……これ以上の被害が出なくても一か月以上はかかると思う。その間に、二人共逃がしてあげる」

「一か月……ん、わかった」

「……ヴァニラ、か」


 そうか、彼には自分の他にも大切な人が出来たのか。それもきっと喜ぶべき変化なのだろうが、心の中では面白くないと思ってしまう自分が確かに居る。

 少しだけ温度の低い手を、覆うように握り締める。


「おねえちゃん……?」

「うん……ヴァニラが羨ましいなって思って」

「そう? おねえちゃんにもあんなに格好いいカレシが居るじゃん」

「もう、だからアーサーとはそういう関係じゃないの! ただの仕事仲間、それだけだから!」

「うわ、言い切ったよ……可哀想だな、ヒーロー」


 そんな他愛のない話で笑い合えることを、こんなにも幸せに思えるなんて。いつまでもこの時間が続けば良いと、サヤは願った。

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