下界②

 案の定、着いたのは昨日と同じ店。


 リタはドアを開けるなり、


「なんか人間の食えそうなものといつもの」


 と叫んで、昨日と同じ奥のカウンター席へと突き進む。


「ヒェヒェヒェヒェ。やっぱり来たな、リタ」


 そう言って現れたのは、昨日と同じオオアリクイ。

 オオアリクイは私の顔をマジマジと見ると、


「そいつがおまけか。昨日はカタカタを食ったって?」


と、まるで私を初めて見るような反応。


「……えっ?昨日も会いましたよね?」


 私がそう尋ねると、アリクイ男は急にイライラしたように足踏みを始め、


「娘!ふざけるなっ。だから人間の娘は嫌いだ」


と言い放ち、体を震わせた。


 訳が分からなかった。

 私、何か気に障るようなこと、言っただろうか?


「違うよ未魔。昨日居たのはワムで、今居るのはゼゼ。同じダイル族の魔物だけど、別人」


 リタにそう言われ、目の前のゼゼをよーく観察してみたが、昨日のオオアリクイとの違いが全く分からない。


 小さく首を傾げると、ゼゼはフンと首を横に振り、不機嫌そうに向こうへ行ってしまった。


「違いが分からない」


 私がそう言いながら再度首を傾げると、リタは、


「だろうな。ダイル族は自分達は似てないと思ってるけど、アレはみんなそっくりだ。他のヤツらは匂いで見分けてるんだよ。ダイル達は知らないけどな」


と言ってから、こらえていた笑いを一気に放出させた。




 本日出された料理も、昨日に負けず劣らずグロテスク。


 味はまぁ、イケてないこともないんだけど……。


 とにかくどうにか食事を終え、私達は店の外へ出た。


 薄気味の悪い羽音とフクロウのような鳴き声。


 人魂型の街頭は不気味に青白く、吹く風はどこか生暖かい。


 姿無き気配と無数の視線を感じるのは私の気のせいだろうか?


 リタの足は、確実にセンターへと向かっていた。


「リタ。またセンターに泊まるの?」


 私の問い掛けにリタは、


「じゃあどこに泊まる?」


と、意地悪く答える。


 そう聞かれても答えようもないが、出来ればあの監獄のようなセンターには、泊まりたくない。


 私が下を向いたままとぼとぼと歩いていると、


「おまけはあそこに泊まるのがルールなんだよ」


と言って足を止めた。


「ルール?リタがルール語れる立場?」


 私が嫌味たっぷりにそう言うと、


「だな。でも、このルールは守っておいたた方がいい。さもないと、お前、死ぬぞ」


と、いつになく真剣な声でそう言った。


「えっ?だって7日は大丈夫って」


 私がそう言いかけた時、リタがその言葉を遮った。


「それはさ、最低7日間は俺達のリストに載らないって意味で、別に『生』を保証するものじゃない」


 リタはそう言うと、この世界の感覚?ってやつについて話し始めた。


 リタの話によれば、生きた人間の魂はかなりの貴重品で、魔界ではそれを欲しがる者は多いのだと言う。


 魔界に『おまけ』が現れる頻度は、大体50年に一度。


 このレア度は、人間界で言うところのトリュフ、フォアグラ、キャビア以上の価値。


 例えが全部食材ってのがなんかアレなんだけど。


 とにかく、リストに載る前のおまけの魂は、魔物にとって格好の餌食。


 つまり私は、いつ奴らに食われてもおかしくないのだそうだ。


 そんな訳で、魔物の活発に動く夜中の時間帯は、センターの中にいるのが一番安全なのだそうだ。


 と言うわけで、私は結局センターに泊まることにした。


 本意ではないが、死ぬか生きるかの選択肢を出されたらいたしかたない。


 少々薄気味悪かろうと、眠れなかろうと、諦めるしかない。


 私は『参』のドアが閉められる寸前、リタに向かってこう言った。


「早く帰れる方法探してよね」


私が食べられてしまう……その前に。

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