第9話 規則八条 本恋人

 俺と源太郎は再び食堂の椅子に座っている。

 さっきと違う点は源太郎が真新しいタオルで全身を暖めている事だ、周りにはテンが出した狐火も浮遊していた。

 先ほどいきなり切りかかった事を渋々謝られミイラ男っぽくなった人と向かい合ってお茶を飲んでいる。


「兎も角、お父様はお帰りになってください。私はそんな心配されても困りますし。約束の期限までまだ数年以上あります」


 アヤメさんは微笑んでいるがバックが吹雪いてるように見える。


「父もだ。最初はお前の結婚相手とか勝手に選ぶとか反対はしていたのだが、お爺さんが煩くてな……様子を見に来たわ良いんだが。こんな貧弱な男に取られると成ると、成らん断じて成らんっ」


 全身を寒さで震えてる人に言われたくもないが、アヤメさんの父という事で黙る。


「それに二人が恋人なんてとても信じられん。どうせマルタの入れ知恵で俺を帰らせる口実じゃないのか?」


 いきなり核心を突いてくる、明らかに動揺し始める俺達二人をマルタが助け舟を出してきた。


「なんやーおっちゃん。疑りぶかいなー」


 核心を突かれてもマルタのほうは平気な顔で喋る。


「マルタは小さい時から人騒がせだったからな。がっはっは」

「ほうほう、それは心外やな~それより凄い決定的な話があるんや。実はな……」

 

 マルタが源太郎さんの耳元で何か囁く。

 震えを大きくして立ち上がると近くの狐火を手で握り潰す。


「あ、げんちゃん。ひどーい」

「す、すみません。天狐様、しかしっしかしですよっ! 結婚もしてないのに、ふ……」

「ふ? ふすまー」


 しりとりのように言葉を紡ぐテンを置いて俺との間合いを詰める源太郎、その手は壁に掛けてあった刀を掴み居合いの形を取っている。


「天弧様違います! お主、ア……アヤメとフ……ロ。風呂へと入ったのかと聞いておる!」

「風呂? あっ」

 

 思わず驚いた顔をする俺はすぐさまマルタをみた。

 マルタを見るとニヤニヤ顔でこの状況を楽しんでいる。


「ウチはただ『二人は共に一緒の風呂に入った仲やで』と言っただけやで」

「ばっ、マルタ! あのですね。お父さん」

「お前に義父さん呼ばわりされて溜まるかっ」

「で、ですよねっ! あの源太郎さん。違うんです! それは一緒にというか……俺はシャワー浴びてただけなんですけど、振り返ったらアヤメさんが居たというか……もちろんイヤじゃなかったですし。俺は嬉しいし。一緒っていってもか……からだはみてな……」

「なるほど。入ったんだな……切る!」

「お父様!」


 顔の赤いアヤメさんが再び雪の塊を出し源太郎さんに投げはじめた、雪だるま再び作戦だろう。

 俺に向かってたはずなのに瞬時にアヤメさんの方を振り返る。


「甘い!」


 源太郎さんはそれをパンツの中からお札のようなもの出してでガードする。

 アヤメさんの雪が瞬時に手の平に吸い込まれていく。

「な! お父様それは」

「霊験あらたかな対魔用のお札よ。まさか娘に使う事になるとはな」


 二人の超人的攻防に黙って見てるしかない。


「出す場所が汚いなぁ。パンツの中って、でもな、こうするとどうなるん?」


 マルタが横から源太郎さんに足払いをかける。

 源太郎さんが転ぶと共にお札も消えた。


「テンも遊ぶぅー」


  テンの背後に大量の狐火が現れた。


「あ」


 俺はなんともマヌケな声を出していたと思う。

 お札が消えた源太郎さんは、足払いですっころぶ。その上に大量の狐火が降りそぞくと全身火達磨男の出来上がりである。


 俺と源太郎さんは食堂の椅子に座っている。 

 先ほどと違うのは俺はミイラ男と対面している事だろう。

 アヤメさんの手には源太郎さん愛用の刀が収まってる。

「天狐様も、お前達二人は小僧の味方なんだな……がっはっは」

 

 もう笑いも悲しい笑いに変わってる。


「なんていうか。こんな俺が言うのもなんですが、雪乃さん。いや、アヤメさんの結婚相手が親が決めるとかそういう世界もあるのはあると思います。でも、俺はアヤメさんを知ってしまったし、なんていうかアヤメさんの意見を聞いてもっと自由にさせるべきと思うんです」

 

 俺の言葉に三人共黙る。アヤメさんは手を口に当てて感動のポーズを決めている。

 マルタはウンウンと頷いてる。


「『知ってしまった』だと……小僧……お前。まさか契ったのか!」


 な!何をいってるんだ。この人は。

 俺はアヤメさんと知り合ってしまった的で言ったのだが、どうやら使い方を間違えたらしい。


「げんちゃん、げんちゃん。これあげる」


 テンが源太郎に四角い箱を渡す、それを遠めで見て俺の体が固まった。

 箱には明るい家族計画と書いた箱であるからだ。


「さっきシュウちゃんの部屋で拾った」


 そう、以前マルタから強制的に貰った残念賞である。大事に隠してはずなのにっ!


「ばっななななんで。ちょっとっ。あ、アヤメさんも。まって違うから眼を逸らさなくてもっ」


 アヤメさんは赤い顔をして顔を伏せているし反対側にいるマルタをみるとニヤニヤしてる。

 なるほどテンにブツを渡した犯人の顔である。

 『違います』そう弁解しようとしたら顎を誰かに掴まれる。俺の背後にいつの間にかマルタがいた。

 俺の首を無理やり縦に動かす。


「そうだよー僕アヤメとちぎっちゃったー。一箱じゃタリナカッタナー」


 俺の後ろから腹話術形式で返事をするマルタ。

 いやどうみてもコレ不自然でしょ。

 でも源太郎さんには俺しか見えてないらしい。


「心配しなくても、シューイチ君は無傷で助けてやるさかい」


 小声で俺に言うマルタ。

 刀が無くなった源太郎さんはパンツから懐から無言で銃を取り出す。

 銃!? アヤメさんの父親ってヤクザ!? その前に四次元ポケットかっと、混乱する。

 マルタのほうを掴まれた顔ごと力いっぱい振り向く。

 『安心せーや』と目で伝えてくる一番安心できないんですけど。


「そうか……アヤメが……この小僧と……」


 遠い目をしながら銃口を向け俺を見てくる。

 その銃口を見ながら俺の短い人生が終った。


「その……アヤメが認めた男を誰か殺せようか!」


 突然叫びだし座り出す、包帯の目からは涙が出てる。号泣だ。

 俺は男泣きという物を初めてみた。


「男泣きかいな、まぁいざとなったらウチがシューイチ君連れて海外でウチと挙式したろっておもったけどな」

「え?」


 さらっとすごい事を耳元で言う。

 もしかして俺ってモテキ到来?

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