第14話 守護剣(シュヴェルター)
暑い。
とにかく外は暑かった。
身体を刺すように皮膚に痛みを負わせ続ける日光が憎い。
頭や身体の痛みは時間と共に無くなり、ようやく意識がはっきりとしてきたところにこの炎天下である。太陽がいつもの二倍のサイズに見えるのだが、これは目の錯覚なのだろうか。
あれから小さな平ボディのトラックのような車の荷台に乗せられ、かれこれ一時間。あの中年男が運転し、隣にリディアと呼ばれていた少女が座っている。
そして荷台に同乗している少年はずっとこちらを観察するように見ていた。よく見ると彼も腰に剣を帯びており、いつでも斬りかかれる態勢になっている。
レイジは苦笑いして、彼から視線を外し景色を眺める。
まるで外国の田舎町だ。
草原が視界全体を覆い、舗装されていない砂利の道をガタンゴトンと進んでいく。数百メートルごとに小さな小屋のようなものが見えたが人は確認できなかった。
「あのさ」
「……」
「マント、暑くないのか?」
目を覚ましてからの第一声。なにを聞いているのかレイジ自身よくわからなかったが、この炎天下で服の上から黒いマントを羽織っている彼の非常識さに神経を疑ったのだ。
「会話できるようになったのなら言ってくれ」
「そんなもの手に添えられちゃ、喋るに喋れないだろ?」
質問の回答は一切なかったが、会話を始めるきっかけを作るのには充分だった。
「ここはどこの県だ? ずいぶん田舎みたいだけど、どこに向かっているのか教えてくれ」
「ケ……ン?」
彼は聞き取れなかったのか、目を細めてもう一度聞き返してきた。
「東京じゃねえな。東北……いや、この広大な土地の広さは北海道か?」
「それよりも君は立場をわきまえろ。僕たちの隠れ家に不法侵入した犯罪者め」
――犯罪者? なにを言っているんだ?
首を傾げ思い返してみる。確かに自分は見覚えのない部屋で眠っていたようだが、そもそも入った記憶がない。
「まあ、それは謝らせてもらう。だけど俺はあそこがなにか知らない。入った記憶がないんだ。そもそも俺は……。あれ、どうしてあんなところにいたんだ? 俺は……」
「……君は、どこの町の者なんだ。その奇妙な格好は……って動くんじゃないっ!」
奇妙な格好と言われ、すぐさま自分の姿を確認する。
全身が黒だった。
まず素肌の上は身体にピッタリとフィットする伸縮性に優れた生地のインナースーツで覆われており、その上から厚いがとても軽い金属で、首・肩・胸・腹部・脚など――身体のほとんどがそれで保護されていた。
腕は後ろに回されて手錠をかけられているため見えないが、恐らくは同じような金属で覆われているのだろう。
重厚感溢れるこの姿を見て、ようやく自分が何者であるか、そして気絶する直前の記憶が蘇った。
「そうだ、俺は……ライア……! なんで俺はこんな場所に! おい、ここはどこだ!」
レイジが少年に詰め寄ろうとした瞬間、トラックが急ブレーキをかけた。走行スピードが早かったため、思わぬ減速に荷台の二人は態勢を崩す。
「――っ?」
「どうしたアルダス!?」
少年は慌てて荷台から地面へ飛び降り、運転席の方へ駆け寄った。
「チィ……。面倒な奴らが向かってきやがった。どうするよハルト」
「
中年の男はアルダス、そして少年はハルトという名らしい。
リディアを含めた三人は、正面からやってくる、中央に大砲を備えた、戦車を一〇倍以上大きくしたような形の乗り物を見て顔を顰めていた。
「なんだ、あれは……見たことがない兵器だ」
レイジは巨大な鉄の塊を見て思わず立ち上がるが、それがアルダスの目に入ったらしく、
「おいおいっ、あいつ動いてんぞ! ハルト、ちゃんと見張っとけ!」
「まさかあの男、守護剣の人間じゃ……奴らにわたしたちの場所を伝えたのかも!?」
アルダスとリディアはトラックから慌てて降り、なにやら騒いでいた。
「う、動くなよ犯罪者、君が守護剣の人間なら、僕らの情報をなにか盗んでいるんだろう。それなら君ををここから返すわけにはいかない」
ハルトは地上から軽々とジャンプし荷台に戻ると、そう言って剣の柄に手を添えた。
「その犯罪者ってのはやめろよ。それに守護剣ってなんだ? 俺は美来学園第一七小隊所属、紫藤レイジだ。とりあえず現在位置を教えてくれ。GPSも機能してないみたいなんだ」
「みらい……ジーピー……なんだそれは?」
「――は? あんたなに言って……いやそもそも美来学園を知らないっておかしいだろう。まさかリウェルトを知らないなんて言わないよな」
ハルトはレイジの言うことが理解できないのか、ずっと眉間にシワが入っている。
「なにか……おかしいな。そもそもこんな平和な土地があること自体……」
レイジは今までの自分たちのやり取りに違和感があることに気づき眉根を寄せた。
伝わらない地名。そして今では世界で知らない者はいない、リウェルトの存在――それも知らないと言う。
「ここは、どこなんだ?」
考えた瞬間背筋がゾクッとした。そしてすぐに辺りを見渡す。
空はどうだろう。やはり太陽が自分の知っている太陽のサイズではない。倍はある。
生き物はどうだ。近くの太い木の根元には、翼の生えた大型犬のような生物が木陰で涼んでいた。極め付けに――
『ふはははははははッ。ようやくみーつけタ! 僕の愛しい尋ね人! ふひゃッ』
向かってくる巨大な乗り物から突然スピーカー音声が聞こえたかと思えば、その天井が開き、身長が二メートルを優に超える――もしかすると三メートルを超えているかもしれない男がゆっくりと出てきたのだった。
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