第一章

第13話 知らない場所

 サウナのような蒸し暑さと、全身の鈍い痛みによって紫藤レイジは覚醒した。

 そしてすぐに気づく――首に鋭いなにかを押しつけられていることを。


 まだ視界がぼやけているため、それがなにかまではわからない。

 うつ伏せに寝かされ、両手両足は分厚い鉄製の錠で固定されており、身体を動かそうとするとなにやら怒鳴りつけられる。


 全身には打撲したような痛みが襲い、特に頭は分厚い本で何度も叩かれているのではないかと思うほど激しく痛む。更に乗り物酔いしたような感覚で、揺さぶられたら吐いてしまいそうだった。


 少しずつ覚醒する脳で考える。


 いったいここはどこなのだろう。


 自分はなぜこんなところにいるのだろう、と。


 虚ろな目を左右に動かし周りを見ると、ここは一〇畳ほどの木製の部屋だった。今いる位置からだとドアや窓は見えない。天井から発せられる人口の光だけが部屋を照らしているため、現在が昼なのか夜なのかも不明である。


 部屋の中央には背の低い大きなテーブルがあり、鉄くずが散乱している。そして壁には何本もの剣が、展示されているように掛けられていた。


 正面に視点を戻すと、ようやくピントの合ってきた瞳で自分の首に押し付けているものを認知し、思わず目を見開いた。


 それは刀のような形の剣だった。


「おまえはどこからここに入った。言え、言わなければまずは肩を突き刺す」


 若干湾曲した細長い形の剣を首から肩へ向け直し、低めの声でそう言ったのは、腰まで伸びる艶やかな黒髪が美しく、吸い込まれそうな濃い青の瞳を持つ一〇代半ばくらいの少女だった。


 衣服がヨーロッパの民族衣装のようにも見えるが、少し違う。スカートが短く、動きやすさを追求したようなシンプルな格好。


 再び左右を見ると、右には一五〇センチを超えるだろう大剣を肩に担いだ、ガッチリとした筋肉質な体型で、髪が短く刈り上げられた中年男が一人。


 そして少し離れた部屋の左角に、少し長めの黒髪を後ろで縛った、細身の少年が腕を組みながら立っていた。


「ん……あ……」


 刺されては堪らないと思い声を出そうとするが、誰かがのしかかっているかのように身体が重く、思い通りに声が出せなかった。するとその様子を見ていた少年が少女に言った。


「リディア。大分弱っているみたいだし、まずは町へ連れていこう。そいつがここでなにをしていたのかは、それから聞けばいい」


「わかってる、殺すわけじゃないわ。だけどこの見慣れない奇妙な格好は不気味すぎる。この状況下でなにかできるとも思えないけど……。念のため腕を使えなくした方が――」


 少年は黙って首を横に振る。


 それを見て少女は舌打ちした。


「とにかく移動しよう。ここにいてもなにもわからないだろう? こんな弱ったのが一人いたって、僕たちならどうとでもできるさ」


「……了解」


 少女はしぶしぶ了承すると、中年男に指示し、倒れている自分を引きずらせて移動し始めた。


「もしも敵だとわかったなら、その時は……」


 少女は引きずられている自分を睨みつけると、続けてこう言った。


「迷わずお前を斬る」

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