第15話 戦闘開始
「な……んだ、あれは……」
かたちは人間そのもの。しかし身長だけが普通とは異なっていた。ニヤけた目と大きな鷲鼻、転べばすぐに骨が折れてしまいそうな細い体つき。階級章のようなものが服の襟についているのでどこかの軍人のようにも見えるが、レイジはそんなものは知らない。
彼は太陽を見て暑そうに顔を歪ませると、続けて仁王立ちで甲高く笑い声を上げ始めた。
「カラツァ・グリン……!」
ハルトが語尾を強めながらそう呟くと、カラツァと呼ばれた男は一度頷き、
「イヤァ、噂を聞いてネー。このあたりにキミたちの隠れ家があるト。一応キミたちはー、今のところ我々守護剣に歯向かう敵なわけだシ? 一度腰を据えて話したいなーとか思っちゃったりなんちゃったリ? だからわざわざこんな田舎まで来ちゃったんだゾ☆」
「言ったはずだ。お前たちのやり方は気に入らないと。否応なく〝魔法士〟の素質がある者を拉致し従わせるなどあってはいけない!」
ハルトがそう言うと、リディアはカラツァを睨みつけながら腰の剣にそっと手を添えた。
「おお恐いいい。そんなに睨まないでくれヨー、リディアちゃん。キミたち〝英雄の魔法士〟たちの力は素晴らすぃっていっっつも言ってるよネ。そんな君たちが守護剣に入ってくれると、世界の治安を保つ上ですっごーく助かっちゃうんだけどナ!」
カラツァは自分の身体を抱きしめるような動作をしながらそう言うと、懐から折り畳んだ三枚の紙を取り出した。
「もし言うこと聞いてくれないとー、こんなの世界中にばらまいちゃうゾ☆」
勢いよく前に突き出したその紙を見ると、三人全員顔を強ばらせた。
「指名手配っていうやつサ! これ貼られちゃうとキミら不味いんじゃないのかナー? いくらキミたちが英雄と言えども今の守護剣の力は大きいヨ? もう自由に動き回れなくなっちゃうかもねェ?」
三人の顔写真が印刷された紙には、それぞれ懸賞金が記載されていた。数字のあとにGのような文字が書いてあり、日本円ではないことがわかる。
レイジにはその金額が自分の知っている金の価値と同じなのかはわからなかったが、〇が六つあるため、かなり高額なのではないかと推測した。
「なぜそんなことを……!」
「だから恐いよリディアちゃーん。いいじゃないか守護剣、もちろん入れば即部隊長になれるって話だし、給料いいしネー。今みたいな生活してたら、せっかく可愛いのにだんだんボロボロになっちゃうよー。お肌とか髪とか、服なんてすでに汚そうだシー、ふひゃひゃッ」
リディアは服の汚れた部分を隠す仕草をすると、それを見ていたハルトが怒りに震えながら一歩前に出た。アルダスはそれを見て制止させる。
「おうおうハルトきゅん。どうしたのーそんなプルプルしちゃって! あらぷーるぷるっ。ぷーるぷるっト!」
馬鹿にしたように踊るカラツァは、傍観者であるレイジにとっても苛立たしいものだった。
いったい彼らがなにを話しているのかはさっぱりだったが、女の子に向かっての今の発言をするような奴は正義とは思えなかった。
ハルトは怒りをなんとか抑え、今にも引き抜かんばかりの剣から手を離した。
「こんな所まで来て、言いたいことはそれだけか。僕たちは守護剣に入る気は毛頭ないし、魔法はもう……使わないと決めているんだ」
「ありゃノってこない。つまらんねーハルトきゅん。いやー正直なこと話しちゃうトー。キミたちがこれ以上ボクたちの心優すぃ勧誘を断るならー、これ貼って一級犯罪者にしちゃおうかなーとカ……」
言葉の最後でカラツァの表情が一気に無になり、
「その場で処罰するか、迷っててサ」
今の言葉が合図とでも言うように、カラツァの立つ巨大な乗り物から次々と人が降りてくる。レイジはすべてカラツァのように巨大な人間が出てくるのかと思ったが、六人降りてきたうちの四人は通常の人間サイズだった。残りの二人は背が異様に高く、そのうちの一人はカラツァよりも背が高く筋肉質だった。
兵士なのか六人はすべて鎧を纏っていたが、兜は被っておらず、剣や盾などの戦闘に使う装備は手にしていなかった。その代わりに金属製の長さ三〇センチ程の細い棒を構えている。
「僕はねぇ、もうめんどくさいんダー。キミたちを探す任務だとかそんな厄介事押し付けられてさ、もう嫌になっちゃたヨ。キミたちがドーセこっちに来ないのは察しついてたシ? それなら本部が認める君たちを理由つけて倒してさ、僕の力を見せつけることができれば昇進だってできちゃうかもだシー?」
「チッ、やっぱりテメーらはクズだな」
そう吐き捨てながらアルダスは大剣を肩に担いだ。
それが戦闘許可の合図なのか、リディア、ハルトの両名も同じく剣を抜いて構えた。
「さあ楽しくなってキタアアアアっ! みんなでこいつらを倒しちゃいましょぉぉオ!」
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