第9話 高津中将
少し走ると、今まで無限のように並べられていたZスーツの森を抜け、開けた空間に出た。
「なあ教官、一体なにが起こってんだよ。なんで、あいつらは死ななきゃならなかったんだ」
「高津中将。すべてはあの男の指示だ」
「高津って……隊長会議に来てたっていう」
「そうだ。琴宮から話を聞いたなら話は早いが、明日以降、我々リウェルト軍は他国へ無差別の攻撃を起こす。その指揮の中心をとっているのがあの男だ」
「本当だったのかよ? それに無差別って……」
岩野は頷き、
「俺もその点の詳しいことは知らされていない。ただ、これから始まる戦争が、その次の戦争のための訓練であることはわかっている」
「戦争が、戦争のための訓練だって?」
岩野は少し減速し、前方を指差した。
「あそこだ」
指差した方向には、おそらく岩野が言っていたセキュリティで固められた扉があった。見るからに分厚い鉄の扉で、高さは五メートル以上、幅は三メートル程あった。
「し、紫藤君! それに岩野教官!」
「レイジくん……」
そしてそこには少しの間別れていた仲間、ケイとライアの姿があった。
「二人共大丈夫か?」
「僕も琴宮さんも無事です」
「ごめんレイジくん、わたし混乱しちゃって……」
「いや、それはいい。大丈夫だ」
話すことができるまで回復したライアを見て、レイジはひと安心した。身体の震えはもうないようだ。
岩野を見ると、扉を開ける操作を始めていた。扉の右横に腰の高さくらいの機械が設置してあり、そこでなにやら操作している。
「もう少しであの男が来るはずだ」
「あの男?」
「少将以上の認証なしではここは開かない」
「高津が来るってのか」
「部下と連絡がとれなくなった今、奴はここへ必ず来る。今日突然の来訪で驚いたが、俺は前々から戦争の計画があったことは知っていた。だから今日のための作戦を、あらかじめ立てることはできていた。……うまく誘いに乗ってくれればいいのだが」
岩野は一筋の汗を流しながら呟いた。レイジは意味がわからず首を傾げ、
「そういえば教官、あんたあの時電話で言ってたよな。俺たちに世界を救ってもらいたいって。あれはどういう意味なんだ?」
レイジは周りを警戒しながら岩野に問う。岩野は画面上のキーボードを叩きながら答えた。
「……リウェルトは、こちらの世界を放棄しようとしている」
「こちらの、世界を? って、まるで別に世界があるような言い方じゃねえか」
「五年ほど前のことだ……この場所に――」
言いかけた瞬間、岩野の頭上一メートルの箇所に光線のようなものが通った。すると壁に直径三〇センチほどの穴があく。その穴は熱で溶け、煙を吐いていた。
「なっ」
全員が振り返った。そしてそこに立っている人物を見て、岩野とライアは目を見開いた。
「いやはや難しい、試し撃ちのつもりが変な方向へいってしまいましたね。おっとそこにいるのは岩野教官ではありませんか? 申し訳ない、いるとは知らず……怪我はありませんでしたか?」
「高津……!」
思わぬ攻撃に驚きはしたものの、高津が来たのを見て、岩野の口角がわずかに上がった。
「部下から応答がなくなってしまったので、通信が途絶えた所まで来てみたんです。あなたも敵に襲われたんじゃないかと思って心配していたんですよ?」
「それはどうも。今はお一人で?」
「ええ。見事に連れてきた護衛も倒れていました。一体、誰がこんなことをしたんでしょうかねぇ」
高津の笑顔を見てレイジは鳥肌が立った。なにを考えているかわからないその目や口は、今まで見たことがない不気味さを放っていた。
ここに来たことについて偶然を装っているが、この男が自分たちを殺すことを指示した張本人。ナツキとダイゴはこの男に殺されたと同じなのだ。
しかしレイジは目に見えない危険なオーラを感じ取り、あえて口を開くことはしなかった。ここで下手なことをすると全滅する。
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