第18話run away

「オラッ、この牢屋に入っとけ」


 俺は、イズル村から連れてこられ、コンビナート国の王城地下に広がる牢屋に閉じ込められていた。


(さて、この後どうしようかな)


「ちょっと!そこの看守!私はこの国の女王よ!こんな汚い所に閉じ込めていいと思ってるの?早く開けなさい!」


 急に俺の目の前の牢屋に入っている女性が、何か叫び出した。


「はっ、この国はジェルヴェ様の物になるんだよ。お前はもう女王でもなんでもないただのガキだ」


「な、なんですってー!この私に!」


「精々楽しんで生きるんだな。あばよ」


「ちょっと!待ちなさいよ!」


 見張りの看守は、女性との会話を終えるとそのまま去っていってしまった。


「あー、もう!ジェルヴェの奴!絶対にゆるさないんだから!」


 話し掛けづらいが、ピリピリしている女性に俺は話し掛けてみた。


「あのー」


「なによ?」


「今さっき女王とかなんとか言ってませんでした?」


「そうよ!私がこの国の女王のマリア=コンビナートよ!」


「女王様がなんでこんな所に?」


「従弟のジェルヴェのせいよ!あいつは女王である私をこの牢屋に幽閉したのよ!」


「なんでそんなことに?」


「元々、この国は私のお父様が納めていたの。でも、急にお父様の体調が悪くなって、その頃からジェルヴェが何か変な計画を進め出したのよ」


「変な計画?」


「ええ、私は気になって調べてみたわ。そしたら、あいつの部屋から、インキーチ商会から貴族を通しての大量の武器や兵器の買い付けと隣国のラグナードの防衛設備や戦力等の資料が出てきたの」


「それを知ってしまったから女王様は幽閉されてしまったと?」


「恐らくそうでしょうね」


「じゃあお父様は?」


「お父様も先日亡くなってしまったのよ…」


「なるほどね」


 恐らく、俺がコンビナート国軍に逮捕されたのはロナリータの館にあった、武器なんかを全て吹き飛ばしたからだろう。

 あの離れにあった物は全て、ジェルヴェがインキーチ商会から買っていた物に違いない。

 コンビナート国王が亡くなり、ついに計画を実行出来るというときに邪魔が入れば、それはもう国軍を使ってでも犯人を捕まえて処刑にでもしたくなるだろう。


「よし、行くか」


 このままここに居たら処刑されちゃいそうだしね。


「は?貴女行くって何処に─」


「よっと」


バキッ

 俺が腕に力を込めて引っ張ると、あっさり俺の腕に付いていた手錠は引きちぎれた。

 そのまま牢屋の檻に近付き扉を蹴破ると、俺は女王様のいる牢屋の前まで歩いていった。


「さて女王様、この国を取り返しに行きましょうか」


 そう言って、俺はニヤリと不敵な笑みを浮かべるのだった。


──────────────────────


「くそっ、あの小娘さえいなければ今頃は計画を実行に移せていたと言うのに!」


「ジェルヴェ様!地下の牢屋から脱獄者です!」


「なに?見張りの看守は何をしている!」


「それが、一瞬で倒されてしまったらしく、現在も凄い速度で上まで上がってきております!」


「何者だそいつは!」


「先日捕らえたリデルです、それと女王も一緒にいるようです」


「糞がッ!あのクズは何処まで俺の邪魔するんだ!すぐさま精鋭部隊をこの玉座の間に集結させよ!」


「はっ!今すぐ呼んで参ります!」


 兵士は敬礼をすると、すぐさま部屋から出ていった。


「絶対に生かして帰さんぞリデル、覚悟しておけ」


───────────────────


「全く、何人いるんだよ」


「当たり前でしょ!?ここは王城よ?」


 俺は牢屋から女王様を連れて脱出した後、女王様に道案内をさせながら、ジェルヴェが居るであろう玉座の間に向かっていた。

 当然、脱獄者として城の兵士達に襲われるが、女王様を守りつつ一瞬で無力化していった。


「次の角は右か左どっちだ?」


「右よ!」


「了解!うおっ」


 俺は女王に言われた通り通路を右に曲がると、そこにはバリケードを張って弓や魔法を準備している兵士達が居た。


「今だ!放てぇええ!」


「ちょっと!女王がいるのよ!」


「マリア!俺の後ろに下がってろ」


 部隊長の掛け声と共に飛んできた矢と魔法を、俺は2本の剣を使って全てを防ぎきった。


「バカな!化け物か!」


 矢と魔法の嵐が止んだ瞬間、俺は前に向かって駆けた。


「打て!化け物を近づけるな!」


 部隊長の指示により迅速に次の攻撃を放ってきたが、先程より数が少なかったので、全て敵に弾き返した。


「こんなことが!」


「少し寝ててくれ」


 バリケードまで到着した俺は、その場に居た人達を気絶させて、玉座の間に向けて再び走り出した。


「マリア、あの扉でいいのか?」


「私は女王よ!軽々しく名前で呼ばないで!」


「あー、はいはい、すいませんでしたー」


「絶対気持ちこもってないでしょ!まあいいわ、その先にある扉であってるわよ」


「りょーかい。どっせい」


 俺は玉座の間の前に到着すると、扉を思いっきり蹴破って中に入った。


「お邪魔しまーす」


「貴様がリデルか、待っていたぞ」


「やっぱりお前あの時ロナリータと一緒に居た奴か」


「ああそうだ、貴様のせいで俺の計画は台無しだ。楽に死ねると思うなよ?」


「残念だけどまだ死ぬつもりはないよ」


「死ぬつもりはなくても死ぬんだよ!この国の王に逆らった事後悔するがいい」


「お前はこの国の王じゃないだろ、お前みたいな奴は王の器じゃないんだよ」


「ふざけたことを、お前達そいつを殺れ!」


 ジェルヴェがそう言うと、ジェルヴェの後ろに控えていた5人の男達が前に出てきて剣を構えた。

 ジェルヴェの後ろにも魔法使いらしい人物が2人居て、詠唱を始めていた。


「ファイアーボールッ!」


 魔法使いが魔法を放つと同時に、剣を構えた5人の男が俺に襲い掛かってきた。

 飛んできた3つのファイアーボールを、後ろの魔法使いに打ち返し、その後迫り来る男達の迎撃にあたった。


 さすがに城で最も強そうな5人の兵士は、俺が見てきた人間の中では最も強いだろう。

 しかし、5人同時に掛かってきても強さが5倍になるわけじゃない。

 俺は攻撃を見極めてタイミングを見計らい、弾いた剣を味方に当てさせ同士討ちを誘った。


「強いんだけど、それじゃあ足りないなぁ」


「小娘がッ!負傷した者は下がれ、邪魔だ!」


 5人の内2人が下がり、残りの3人が再度俺に襲い掛かってきた。


「諦めろ、お前達じゃ俺には勝てない」


「その傲慢が油断に繋がるのだ!喰らえ!」


「なッ─」


 リーダーらしき男は、右腕の籠手に隠し持っていた閃光弾を、俺の目の前で炸裂させた。


「あ、ぐっ、目が…」


「はははっ、バカめ、油断するからだ死ねぇ!」


 いまだ視力の戻っていない俺に、3人の男達は容赦なく剣を振り下ろした。


「リデル!」


「体術スキル烈破」


 俺は直感で、大体の方向に烈破を放ち、3人を吹き飛ばして距離を取った。

 そして、FUOのゲームの時より鮮明になり、研ぎ澄まされた五感で、リデルは目が見えなくても敵の位置を大体把握出来るようになっていた。

 大体の位置が把握出来れば、後は直感によるサポートで十分戦闘が可能である。

 目が見えない状態で1人を戦闘不能にした頃、ようやく視力が回復してきた。


「よし、視力が戻ってきたかな」


「な、なんて奴だ」


「もう油断はしない、終わりにしようか」


「ま、待て!俺は負けを認める」


 リーダーらしき男は、負けを認めて降参してきた。


「おい!ボーキンス!何を言っているんだ、こんな小娘ごときに手こずりやがって!さっさと殺れ!」


「うるせぇ!こんな化け物相手にまだ戦えって言うのか?やってられるか、いくぞお前達」


 ボーキンスはジェルヴェにそう言い残し、他の仲間達を連れて玉座の間から出ていってしまった。


「さて、これでお前を守るものは居なくなったぞ?」


「あの役立たずの雑魚どもめ!俺は絶対に諦めんぞ、この計画を成功させるまでは!」


「もう終わりですよジェルヴェ」


「え?血が…」


 突如、何者かがジェルヴェの体を貫いた。


「お前はインキーチ!生きてたのか、それに何処から現れた!」


「先日はどうも、貴女のお陰で計画が台無しですよ」


「おい、ジェルヴェは仲間じゃなかったのか」


「彼は駒の1つでしかない、それにもう用済みです。使えなくなった駒に価値など有りはしないのだから」


「駒だと」


「ええ、私達の計画のただの駒です、仲間なんて大層なものじゃないですよ」


「お前達は何者だ、何が目的なんだ」


「それはまだ知る必要はないですねぇ、いずれ近い内に分かることでしょう。では、これで私は失礼します」


「おい!待て!」


 インキーチはその場から消え去り、体を貫かれていたジェルヴェはその場で倒れた。


「おい、大丈夫か!」


 リデルが駆けつけた頃には、既にジェルヴェ息を引き取っていた。


「くっそ!」


「そんな…死んでるの?」


「ああ、死んでる…」


「そんな…」


 その後、ジェルヴェの指示に従っていた者は処罰され、コンビナート国は女王マリアの元に新たに体制を整えていくのだった。

 事件から数日後、公にはされなかったが、ジェルヴェの葬式がひっそりと行われたのだった。


────────────────────


「リデル、貴女の此度の活躍見事でした」


 俺は今なぜか式典に参加させられ、マリアの前に跪かされている。


「ありがとうございます…」


「貴女の此度の活躍を表し、この国の騎士に取り立てましょう」


「いや、結構です」


「へ?」


「なんで俺が騎士にならないといけないんだよ」


「おい貴様!女王様に何て口を聞くんだ!」


「ハヌール別にいいわ。それよりリデル、なんで騎士を断るの?冒険者の憧れの1つじゃないの?」


「俺は別に憧れてないよ。それに冒険者は何者にも縛られず自由に生きるものなんだよ」


「あらそうなの、でも、私は貴女の事が気に入ったから無理矢理にでも私の物にするわよ?」


「おい!女王がそんなのでいいのかよ!」


「別にいいのよ。皆のものここにいる冒険者リデルを絶対に逃がすな!」


「この城の兵士で俺を止められると思ってるのか?」


「そうね、城の兵士だけじゃあ止められないかもね。でも─」


 マリアは玉座から降り、そのまま歩いて外の見えるベランダまで歩いていった。

 外には式典を見にきたコンビナートの国民達が集まっていた。


「コンビナートの国民達、今から新たなるコンビナートの始まりを祝して祭りを行う。内容は銀髪の少女リデルを街の外に逃げられる前に捕まえる、捕まえたものには賞金1000万Gを贈る、皆参加して楽しんでもらえることを願っております」


「なっ!?」


「さあリデル、この街から逃げ切れるかしら?」


 既に、俺の回りは取り囲まれており、何時飛びかかってきてもおかしくない状態になっていた。

 なんか色々おかしいだろ!


「捕らえろ!」


「捕まってたまるかぁあああ」


 飛び掛かってきた兵士達を躱し、俺はベランダから外に出た。


「このまま空歩で逃げ切ってや─」


「魔法部隊!放てぇええ!」


「うぉおおお!」


 空中を移動している俺に向かって、様々な方向から魔法が飛んできた。


「なにするんだ!殺す気か!」


「貴女はこの程度じゃ死なないでしょ?」


 喋っている間にも襲い来る魔法を躱して、俺はなんとか地上に降り立った。

 しかし、地上にはコンビナート国民が俺の周りを取り囲んでいた。


「さあ!今地上に降りたのがこの祭りのターゲットよ!」


 そうして、コンビナート国民が俺に襲い掛かってきた。


「うぉおおお!ふざけやがってーーーー!」

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