第17話コンビナート軍

「やあ、おかえりリデル」


 俺がギルドに到着したとき、クラッドさんは額に青筋を浮かべながら、笑顔で俺を出迎えてくれた。


「た、ただいま…」


「さてリデル、先程ロナリータ邸からギルドに爆炎が飛んできたんだが、君なにか知らないかい?」


「いや、わざとじゃないんですけど、エクリプスリザードが破裂した時の炎を弾いたら、ギルドの方に飛んでいっちゃったんですよ…」


「エクリプスリザードが破裂?君はロナリータの所に潜入に行ってたんじゃないのか?何がどうなったらエクリプスリザードが出てきて破裂する事態になるんだ…」


「あはは…」


「それで、なにか調査で分かったことはあったのか?」


「いえ、あの、それが…離れにインキーチ商会から仕入れた武器や爆弾、その他もろもろが大量にあったんですが、全て吹き飛んでしまって…」


「なにをしに行ってたんだ!」


「お、俺だって頑張ったんだよ!それにエクリプスリザードだって倒したし」


「何も確証になるものを手にいれてないじゃないか!それじゃあギルドが損壊しただけだろ!」


「うぐっ…」


「リデル…今回の報酬はラグル火山の通行証だけだ、他の報酬はギルドの補修に金が掛かるから払えん。あと、他の冒険者への説明をしなくてはいけないのだが、その際ギルドの損壊は君のやったことだと説明するが、そんなことをしてしまった君には罰を与えなくてはならん」


「なんだと!?俺がエクリプスリザードを倒さなかったら、この街の冒険者だけで対処出来なかっただろう?」


「ああ、だが、この件は公には出来ない。だから他の冒険者から苦情が出ないように君に罰を与えなくてはいけないんだよ」


「はぁ、まあギルドを損壊させたのは事実だから仕方ないか。で、罰ってなんなんだよ?」


「1週間このノースラナードの街への出入り禁止だ」


「おい!この街から出ていけって言うのか!?」


「ああ、そうなるな」


「もういい!ラグル火山の通行証を受け取ったらこの街から出ていくさ!」


「そうか、これがラグル火山の通行証だ」


 俺はクラッドからラグル火山の通行証をひったくるように奪い取ると、振り返って出口に向かって歩いていった。


「通行証ありがとよ、じゃあな!」


 俺がギルドから出ていったあと、部屋の影から一人の人物が出てきた。


「これで良かったんですか、ジェルヴェ様」


「ああ、あの小娘のせいで長年掛けて積み上げてきた計画が大幅に狂ったのだ、絶対に許さん」


「そうですか。ですが、あの冒険者を舐めてかかると痛い目に遭いますよ」


「その忠告覚えておこう、ではな」


 そして、クラッドがジェルヴェと呼んでいた人物はギルドから出ていったのだった。


「ふぅ、リデルには悪いことをしたな。だが、俺も国には逆らえんよ」


──────────────────


 俺はクラッドさんからラグル火山の通行証を受け取った後、ノースラナードの街からすぐさま旅立った。

 そのまま次の街を目指して歩き続けて4日が経っていた。

 しかし、ちゃんとした準備もせずに出発してしまったことで、食料も持ってきていなかった。

 さらに不運な事に、ここら辺一帯に出てくる魔物は食べることが出来ない物ばかりなのだ。

 ゴブリン、オーガ、ワーム、スパイダー、マンティス等々で食料が調達出来ないまま4日が経過してしまっている。

 もう空腹で倒れそうなのに、次の街まで1日から2日掛かるのだ。


「もうダメだ、お腹空いた…」


 俺はそのまま木にもたれて座り込んでしまった。


「おかあさーん、誰か倒れてるよー」


 誰かの声が聞こえた気がするが、俺の意識はそこで途切れた。


─────────────────


「ん…」


「あ、おかあさん!お姉ちゃん起きたよ!」


「あれ?ここは…」


 俺が目を覚ますと、見知らぬ場所のベットの上で、目の前には5歳位の男の子が居た。


「あ、起きたのね、良かったわ」


「あの、すいません、ここは何処ですか?」


「ここはイズル村よ。村の外であなたが倒れていたからこの村まで運んだのよ」


「そうなんですか、ありがとうございます」


「それで、なんであんな所で倒れていたの?」


「ええ、実は─」


 ぐーきゅるるる

 俺のお腹は大きな音を鳴らして空腹を訴えた。


「はう…旅の途中でお腹が空きすぎて…」


「そんなにお腹が空いてるのね。ご飯の用意をしてあるけど食べられそう?」


「食べれます!」


 そうして、俺はベットから下りてリビングに向かったのだった。

 俺は目の前に用意された料理を、高速で胃に納めていくのだった。


「ふぅ、美味しかったです、ありがとうございました」


「いえいえ、それで名前を聞いてもいいかしら?」


「あ、すいません名乗りもせずに、俺はリデルって言います」


「折角可愛らしいのに、喋り方も女の子らしくしてみたら?」


「ずっとこの喋り方なので、今から喋り方を変えるとなんだか違和感が」


「そうなの残念。それと、私の名前はシェリアよ、リデルは冒険者でいいのかしら?」


「はい、そうです」


「それでなんで空腹で倒れるなんて事に?仲間は居ないの?」


「仲間はいないです、空腹で倒れてたのは、ノースラナードの街から追い出されちゃったからで…」


「街から追い出された?リデル、あなたなにやったのよ?」


「そんなに変なことはしてないんですけどねー。ちょっとクエストで貴族の館に潜入して、館の離れを魔物との戦闘で吹き飛ばして、その戦闘の余波でギルドを少し損壊させた位しかやってないですかね?」


「思いっきりやっちゃってるじゃないの!?」


「不可抗力で」


「はぁ、あなた見かけによらず凄いのね…」


「あはは。まあ、それはおいといて、なにか助けて貰ったお礼がしたいんですが、なにかできることないですか?」


「お姉ちゃんお服汚れてるよー」


「ロイ向こうで遊んでないさい。お礼なんてあんまり気にしなくていいわよ、とりあえずお風呂入ってきたら?その間に服も洗っておくわよ?」


「何から何までありがとうございます。お風呂お借りしますね」


「行ってらっしゃい、お風呂は扉を出てすぐ右よ」


 そして、俺はシェリアさんの家のお風呂を借りたのだった。


「リデル、ここに置いてある服を洗っておくわね」


「はい、お願いします」


「代わりの服大きいと思うけど置いておくから。それと下着どこ?」


「ん?服の下に置いてませんか?」


「…リデル、この白のパンツはあなたの?」


「はい、そうですよ?」


「ブラは?」


「いや、必要ないかなーって…」


 それにブラの付け方なんてわからないし。


「必要に決まってるでしょ!擦れて痛くないの?それに形も崩れちゃうわよ!?」


「擦れた程度なら、俺にダメージは─」


「リデル、さっきお礼したいって言ってたわよね?」


「言ってましたけど、今は関係な─」


「言ってたわよね?」


「はい…」


「じゃあ、私が選んだ下着を買って着けること!」


「え!?」


「断るの?」


「えっと、あの、あ!俺、付け方分からないんで」


「私が教えるから覚えなさい」


「はい…」


 俺に拒否権はないようだった…

 その後、お風呂から上がった後、少しダボダボの服を被り、シェリアさんとすぐさま出掛けたのだった。

 様々な下着を着せ替え人形のように着せられ続け、俺は途中から思考を止めロボットのように言われたことを淡々とこなしていった。

 俺の精神は下着を着せ替えられ続ける事に耐えきれなかったようだ。南無


「おーい、リデル。リデルったら、聞いてる?」


「へ?あれ?いつの間に…」


「もう、買うもの決まったわよ?」


「あ、はい、いくらですか?」


「3万2000Gになります」


「え!?そんなに高いの?て言うか服まで買ってある!?」


「リデルに聞いたら『ハイ、ワカリマシタ』って言ってたわよ?」



 なんだか詐欺にあった気分だ。

 いつの間にか着替えさせられてるし。

 まあ別にこのくらいならいいんだけど…


「それに、私のダボダボの服は着辛いでしょ?」


「お姉ちゃん似合ってるよ!」


「ありがとうね、ロイ」


 俺は諦めてお金を支払って、シェリアさんの家に戻ったのだった。


「おう、帰ってきたか」


「あら、ザーク帰ってきてたのね」


 シェリアさんの家に着くと、シェリアさんの家の前で素振りをしている大柄の男の人が居た。


「ああ、それで、そこのお嬢さんは誰だい?」


「俺はリデルって言います、シェリアさんに倒れている所を助けてもらってお世話になってます」


「そうなのか、俺はシェリアの旦那のザークだ」


「ザーク、ご飯いつ頃に作る?」


「そうだなぁ、後一時間は素振りをしようと思っているから、一時間後に頼む」


「分かったわ。リデル、手伝ってもらってもいい?」


「はい、手伝いますよ」


 俺はシェリアさんの手伝いをして、戻ってきたザークさんと共に夕御飯を食べたのだった。

 翌日、まだ日も登らないうちから、俺はザークさんに呼ばれていた。


「ザークさん、こんな朝からどうしたんですか?」


「リデル、君の実力を見込んで頼みたいことがあるんだ」


「なんですか?」


「ああ、最近この街の周辺にゲイルオーガが現れてね、この村にいる人では対処が難しいんだよ」


「ああ、なるほど」


 ゲイルオーガと言えば風を操るオーガで、この辺りに稀に出現するレアモンスターである。

 通常のオーガより速度も速く、短時間の飛行や遠距離攻撃のカマイタチを使用してくる厄介な魔物だ。


「いいですよ」


「え?そんな簡単に了承していいのか!?」


「え?別にゲイルオーガくらいならいいですよ?」


「ははっ、ゲイルオーガ『くらい』か。君の実力は底が知れないな」


「じゃあ、ゲイルオーガがいそうな場所に案内してもらっていいですか?」


「ああ、よろしく頼む!」


「二人共、ちゃんとお昼ご飯持っていきなさい」


「あ、おはようございますシェリアさん、お昼ご飯ありがとうございます」


「おはようシェリア、お昼ご飯ありがとう」


「はい、行ってらっしゃい、怪我しないようにねー」


「「行ってきます!」」


 そうして、俺はザークさんと一緒にゲイルオーガの討伐に向かった。


「さて、洗濯でもするかな。ん?あれはなんだろう?」


 リデルとザークが出掛けていき少し時間が経った後、イズル村に武器や防具を装備した軍隊がやって来た。

 その軍隊の防具にはコンビナート国の紋章が刻まれていた。


「この村の住人達よ!この村にリデルと言う少女がいるはずだ、今すぐこのコンビナート軍に差し出すのだ!」


「なんだいあんたたちは」


「我々はコンビナート国の王より勅命を承けて派遣されたコンビナート軍である。きさまリデルという少女が何処にいるか知っているか?」


「コンビナート国の王?コンビナート国は王様が死んで今は女王のはずだが?」


「うるさい、聞かれた質問にのみ答えよ!」


「はぁ、短気な男はモテないよ?」


「きさま!このロバート将軍を愚弄する気か!」


「ロバート将軍だかコンビナート軍だか知らないが、私はあんたたちに従う気はないよ」


「いいだろう、お前達、この街を調べつくし大罪人リデルを炙り出せ!」


「あ!あんたたちなにする気だ!」


「ふっ、従わないと言うなら力技で行かせてもらうまでさ。そこのうるさい女を押さえておけ」


 そして、コンビナート軍を名乗る男達は、イズル村の家々に踏み込んでいき、逆らう者達には容赦のない暴力が振るわれた。


「さあ、隠しだてせずに素直に差し出すのが賢明だぞ?」


───────────────────


 俺とザークさんは、昼前にはゲイルオーガを発見し、そのまま俺が一撃でゲイルオーガを屠り、昼食を取っていたのだった。


 ゾワッ


「はっ!」


「ん?どうしたんだリデル?」


「何か嫌な予感がする…、ザークさん、俺、先にイズル村に帰ります」


「あ、ああ、分かった」


 俺の直感が最大限の警報を鳴らしている。

 何か良くないことが起こっている気がしてならない。

 そして、俺は全力でイズル村を目指して走るのだった。


─────────────────────


「っち、何処にも居ないな、既に何処かに逃げたか?」


「よ、よくも村を滅茶苦茶に!」


 コンビナート軍はイズル村を徹底的に探り、家の中は荒らされて地面や畑なども掘り返されていた。


「うるさい、さっさとリデルの居場所を吐け!」


 ロバート将軍は地面に押さえつけられているシェリアに、足を振り下ろした。


「おい、お前らなにしてんだ」


 しかし、ロバート将軍の足がシェリアに届く前に、リデルの足がロバート将軍の足を阻んだ。


「お前がリデルか!」


「ああ、俺がリデルだ」


「大罪人リデル!貴族ロナリータ様の暗殺容疑で国から捕縛命令が出ている、抵抗せず大人しくついてこい!」


「ああ、いいぜ。連れていってくれるって言うならついていってやるよ」


「お前達、この者を捕らえよ!」


 リデルは手を後ろに組まされ、その両腕には強固な手錠が掛けられた。


「連れていけ!」


 リデルはコンビナート軍に連れていかれながら振り返り、シェリアさんに顔を向けたのだった。


「迷惑かけてごめんなさい、ありがとうございました」


 言い終わると、リデルは馬車に押し込められたのだった。

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