第16話メイド潜入捜査の巻
「悪いがこの話は断らせてもらう」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、君しかいないんだ!」
「なんで俺がこんな服着ないといけないんだ!」
「大丈夫だ、絶対似合うから。報酬だって言い値で払わせてもらう」
「お金にもそこまで切羽詰まってるわけじゃないから」
「君の欲しい情報や、国やダンジョンへ入るための通行証でもいいんだぞ」
「ん?ダンジョンに入るのに通行証がいるのか?」
「ああ、場所にもよるが、危険度が高いダンジョンは基本的に通行証が必要になってくる。通行証を使って、貼ってある結界を一時的に無効化して中に入ることができる仕組みだ。実力が伴わないものが無謀な事をしないための措置だ」
「もしかしてラグル火山に行くのにも通行証が必要だったりする?」
「当たり前だろ、あんな高難易度ダンジョンに結界が設けられていないわけがない」
「なん…だと…」
「確かラグル火山に行くためには、Aランクの4人以上のパーティか、国かギルドが特別に発行する通行証が必要だったなぁー」
「Aランクで4人以上だと…」
「さぁどうする?このクエストを受けてくれるなら特別にラグル火山の通行証を発行してあげなくもないぞ?」
くっ、いつの間にか立場が逆転している。
しかし、Aランクまでランクを上げて、さらに4人の仲間を集めるのは時間がかかりすぎる。
だが、俺の中にある男としての自尊心が、全力で目の前にある服を拒絶している。
「あ、後、ラグル火山の手前にある冒険者専用の街は、Cランク以上じゃないと入ることすら出来ないぞ。カルネージモンキーの件もあるし、このクエストをクリア出来たらCランクへの昇格資格を与えてもいいかもしれないなぁ」
俺に拒否権は存在しないようだった。
「分かったよ…このクエスト受けさせてくれ…」
「そうか、受けてくれるか!じゃあ詳しい説明をしよう、まず─」
その後、クラッドさんに詳しい話を聞き、俺はメイド服を受け取った。
「じゃあ頼んだぞ!」
「ああ、出来るだけ頑張ってくるよ…」
翌日、俺はメイド服を着てロナリータの館に向かった。
そして、館に着くと中から一人の人物が出てきた。
俺は恥ずかしくて少しうつ向いていたが、とりあえず挨拶をした。
「どうも、ギルドからの紹介で来ましたリデルと言います」
「どうも、君がギルドからの紹介で来た子か、私はロナリータと言う。しかし、来てもらって悪いんだが、ギルドからの紹介で来た人は断らせてもらっていてね。こちらは信頼のおける業者からのみ使用人を雇って…ん?君!ちょっと顔をあげてみたまえ!」
「うっ、分かりました…」
俺は顔を赤く染めながら渋々顔をあげたのだった。
「か、可愛い!」
ロナリータは俺を舐め回すような視線で見つめてきた。
背筋がぞくりとし、全身に鳥肌が立った。
や、やっぱり無理だ、今ならまだ引き返せる!
「あ、ギルドからの紹介がダメなら諦めますね、お時間を使わせてしまい申し訳ございませんでした。では!」
俺は早口でそう言い終わると、くるりと後ろに振り返り、そのまま走り出そうとした。
「待ちたまえ!」
「は、はい…」
「いや、ギルドからの紹介は断っていたが、これからの関係を考えると少しこちらからも歩み寄らないといけないと思っていたところでね、人柄を見てから判断しようと思っていたんだよ。そして、君のその謙虚な性格は実に気に入った!君の事を雇おうじゃないか!」
「いえいえ、そんな無理に私なんかを雇っていただかなくても大丈夫ですから…」
「無理にじゃないさ、君がいいんだよ。さあ、仕事を教えるからついてきたまえ」
「はい…」
潜入することには成功したが、俺は現在進行形で男として大事な何かを失っていっている気がする。
「リデルちゃんだったかな?君はいま何歳だい?」
「えっと、今は14歳です」
「ふむ、14か、もう少し若い方が好みだがこの見た目がなんとも…」
ロナリータがなにか言っていたが俺は何にも聞かなかった。
再び全身に鳥肌が立ったが、断固として俺は何も聞かなかった。
「さて、リデルちゃん、彼女から仕事は教えてもらってくれたまえ」
そうして、俺はロナリータに一人の女性を紹介された。
「初めまして、私はアリエッタと申します」
「あ、初めまして、リデルです」
「ではアリエッタ、リデルちゃんの事を任せるぞ。食事等はリデルちゃんに運ばせてくれ」
「畏まりました」
ロナリータが部屋から出ていき、俺はアリエッタさんと二人きりになった。
「それでは仕事の説明をしましょうか」
「あ、お願いします」
「その前に、もう少し言葉使いを丁寧にいたいましょうか。この館にはロナリータ様のお客様もよく来られますので」
「はい、分かりました」
「承知しました、です」
「…はい、承知しました」
「よろしい。では、仕事の説明を致しますね」
その後、何度もアリエッタさんに言葉使いを注意されながら、仕事を教えてもらっていったのだった。
「さて、そろそろ夕御飯の時間ですね。リデルさん、ロナリータ様に御食事の時間とお召し上がりになられる場所を聞いてきてください、恐らく書斎にいらっしゃいますので」
「分かりました、行ってきます」
「リデルさん?」
「承知しました、行って参ります」
「私はキッチンにいますので、聞き終わったらキッチンまで来てください」
俺は先程場所を教えて貰っていた書斎に向かった。
俺は書斎の前に着くと扉をノックした。
「すいませんロナリータ様、御夕飯のご予定を伺いに参りました」
「ああ、リデルちゃんか。今日はお客様と食事を取るから、一時間後に執務室に二人分の食事を頼むよ」
「承りました」
この言葉使い疲れるなぁ。
出来るだけ早く潜入調査を終わらせよう…
その後キッチンに向かい、時間と人数を伝えた。
そして、俺は出来上がった物を執務室に運ぶのだった。
「ロナリータ様、食事の御用意が出来ましたのでお持ちしました」
「ああ、入ってくれ」
「失礼します」
「おやおや、可愛らしいお嬢さんですねぇ」
「そうでしょう、今日から働いてもらっているリデルちゃんです。リデルちゃん、この方はお得意様のインキーチ様だ、名前で分かると思うがインキーチ商会のトップの方だ」
「リデルです、どうぞお見知りおきくださいませ」
こいつが話に聞いたインキーチ商会のトップか。
もしかしたらこいつが極秘の取引相手か?
その後、食事を並べ終えて部屋から退室し、後片付け等をして本日のメイドとしての業務は終了した。
しかし、俺は帰らずにそのままロナリータの館を探索した。
しばらく探索すると、敷地内にある離れからロナリータが誰かと出てくるのが見えた。
もう一人の人物は誰だか分からなかったが、俺はロナリータ達が何処かに行くのを見届けてから離れに向かった。
鍵が閉まっていたが、鍵を潰して中に侵入した。
「これは…」
中に入ると、爆弾や大砲や武器や防具一式が大量に揃えられていた。
中には呪いの装備等もあったが、これだけの量があれば戦争も出来るだろう。
「おい!そこにいるのは誰だ!」
げっ、誰か来た。
恐らく探知系の魔法でも張ってあったんだろう。
「お前は!リデルちゃん!?」
やって来た人物はロナリータだった。
「どうも~」
ばれてしまったならもういいだろう。
「なぜ君がここに…まさか!ギルドからの密偵か!」
「どうやらそのようですねぇ」
「インキーチ様!」
インキーチも護衛を引き連れてやって来たか。
「私共もここには知られたくないものがありますのでね。あのメイドを消しなさい」
インキーチは護衛の三人に指示を出し、護衛の三人は同時に俺に襲い掛かってきた。
「よっ、はっ、そいや!」
襲い掛かってきた三人を、右拳、左拳、右足でぶっ飛ばしていった。
「なんだと!?Aランク冒険者にも引けを取らない強さの三人を意図も容易く…」
「残念だったな、それじゃあ大人しくついてきてもらおうか」
「ふっ、くふふ、ふーはっはっはっ」
「どうした?頭でもおかしくなったか?」
「いえ、運が良いと思いましてね。あなたのような強い人物をここで消せることにね!」
「随分と自信があるんだな」
「ええ、それはもうたっぷりと」
そう言うと、インキーチは指をパチンと鳴らした。
インキーチが指を鳴らすと同時に、離れ全体を覆う結界が現れた。
「さて、死んでもらいましょうか」
インキーチは懐から謎の液体が入った小瓶を取りだし、それを目の前に放り投げた。
地面に落ちた小瓶は割れ、液体が広がった場所に巨大な魔方陣が浮かび上がった。
「いでよ!エクリプスリザード!」
「ギィャオォオオオオ」
「このエクリプスリザードは、翼はないがドラゴンの仲間だ。本物のドラゴンには敵わないが、地上戦だけに限れば本物のドラゴンと遜色ないぞ!」
「へー」
「反応が薄いな、理解が追い付いていないのかな?まあいい、君は知ってはならないことを知ってしまったからね、消えてもらうよ」
よく喋るやつだなぁ。
しかし、このエクリプスリザード程の強さの魔物を召喚出来るのは侮れない。
俺なら戦えるが、この魔物を狩るにはAランク冒険者が10人以上必要だろう。
俺が行った街では、いままで一人しかAランク冒険者を見ていない。
まだ序盤の街ばかりだから少ないのも分かるが、他の街も似たような状況なら、この魔物一体で街を占拠出来てしまうだろ。
まあ完全にコントロール出来てるわけではないみたいだけどね。
「どうした?恐ろしくて固まってしまったか?」
「なあ、今の召喚ってどうやってやったんだ?」
「っふ、誰が教えるもんですか」
「まあいいか」
「生意気な!エクリプスリザード、殺れ!」
エクリプスリザードは、その巨大な見た目に似合わぬ速度で俺に突撃してきた。
そのまま大きく口を開き、俺を丸飲みにしようとしてきた。
「せいっ」
俺はその場でジャンプし、エクリプスリザードの頭に踵落としをお見舞いした。
「ギャウアッ」
エクリプスリザードは開いていた口を強制的に閉じられ、突進の勢いそのままに壁に激突していた。
俺は壁に激突して動きの止まったエクリプスリザードの尻尾を掴み、そのまま力の限り引っ張った。
そして、エクリプスリザードの体は宙を参い、そのまま地面に叩きつけられた。
「バカな!?」
「よっと、体術スキル『烈破』」
俺はひっくり返っているエクリプスリザードに飛び乗り、腹の中央に烈破を叩き込んだ。
その場でのたうち回るエクリプスリザードから離れ、アイテムボックスから神刀・
「さて、止めを…ん?」
体勢を整えたエクリプスリザードの口からは、ブレスの炎が漏れでていた。
俺は真っ直ぐエクリプスリザードに突進し、エクリプスリザードの顔の前にジャンプした。
そして、エクリプスリザードがブレスを吐き出した時、丁度顔の前に現れた俺は、そのままブレスをエクリプスリザードの口の中に押し戻した。
「ゴポッ」
「あ、やっべ」
ブレスを押し戻されたエクリプスリザードは、体が風船のように膨らんでいった。
俺はロナリータを回収し、張ってあった結界をぶっ壊して離れから脱出した。
俺が離れから脱出すると同時に、エクリプスリザードの体が破裂して、内部から炎が吹き荒れた。
そして、俺が潰した結界の穴から、圧縮された炎が一直線にこちらに飛んできた。
「でいやぁああ」
俺は飛んできた炎を弾き、進行方向を無理矢理ねじ曲げた。
「なんなんだ君は…」
「俺か?俺は─」
ドゴーン
けたたましい轟音が鳴り響き、音のした方を見やると、俺が弾いた炎がギルドを掠めている様子が見てとれた。
「やっちゃった…、あれ?そういえばインキーチが居ないな」
証拠なんかも全て吹き飛んでしまったが、とりあえずギルドに報告しに行くか。
「怒られるだろうなぁ…」
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