第19話いざ、ラグナードへ

「つ、疲れた…」


 俺はあの後、大量に襲い掛かってくるコンビナート国民を躱しながら、なんとか街を脱出することに成功していた。


「マリアめ、覚えてろよ…」


 俺はコンビナートを出た後、ラグル火山のあるラグナード国に行くため、関所を目指して進んでいた。

 コンビナートからラグナードに向かうにつれて、景色が草木の緑から岩などの赤茶色に変わっていった。


「お、見えてきたな」


 俺の視界には、国の境界に構える関所と、その後ろに広がる巨大な山々が写った。

 俺は関所に到着すると、入国の為に身分証明となる冒険者カードを提示し、通行許可が出るまで関所に隣接している宿屋で過ごすことにした。


「すいません、1人で一泊したいんですけど」


「あいよ、一泊朝食と夕食付きが1万8000Gで素泊まりが1万3000Gだよ」


「えーと、関所にはご飯を食べれるところとかありますか?」


「そうさねぇ、あるにはあるんだが酒場でねぇ、酔っ払いの男共ばかりだからお嬢ちゃんはやめといた方がいいんじゃないかい?」


 そうだなぁ、酒場に行くと殆ど毎回厄介者に絡まれるからなぁ。


「朝食と夕食付きの方で」


「じゃあここに名前書いておくれ」


「分かりました、料金は先払いですか?」


「えっと、リデルちゃんだね。料金は先払いだよ」


 俺は懐に入れておいた袋からお金を取りだし、受付のおばちゃんに2万Gを手渡した。


「どうぞ」


「じゃあこれが部屋の鍵とお釣の2000Gね、部屋は階段を上がって一番奥の右側だよ」


「分かりました」


「夕食は18時~21時までに私に言いに来てくれたら部屋まで運ぶからね」


 俺はそのまま部屋に向かい、部屋で今後の予定などを纏めていた。


「とりあえずCランクにならないといけないから、オンシィーンに向かってクエストをこなすか。その後ラグル火山─」


 1人部屋でぶつぶつ喋っていると、外からなにか騒がしい音が聞こえてきた。


「なんだ?」


 俺は気になって部屋から出て、音のする方向に向かってみた。

 騒がしい所に到着すると、そこは先程宿屋のおばちゃんが言っていた酒場だった。


「うわぁ、行きたくないな、絶対厄介事だろうし」


 俺は気になったが、めんどくさそうなので部屋に戻ることにした。


「いや、やめてください…」


 部屋に戻ろうとしたとき、酒場から嫌がる女の子の声が聞こえてきた。

 俺は酒場に呪われてるんだろうか。


「仕方ない、行くか…」


───────────────────


「いや、やめてください…」


「嫌じゃねぇだろ?若い女が1人でこんなところに居るんだ、そういうことを期待してんだろ?」


「違います!関所に着いた時間が遅くて宿が取れなかっただけで…」


「それじゃあ今日は俺の部屋に泊めてやんよ。おらっ、早くついてきな」


「やめて、離して!」


「っち、優しくしてるからって調子にのりやがって!」


「ひっ」


 俺が酒場に入ると、小柄な女の子がチンピラ風の男に腕を捕まれていた。


「そこのチンピラ、その娘嫌がってるだろ」


「ああ!誰だてめぇ!」


 こういう奴は大抵同じようなこと言うなぁ。


「通りすがりの冒険者だ」


「ガキは黙って…よく見りゃあお前も中々の上玉じゃねぇか」


 そう言えば部屋でマント脱いでそのままだな。


「丁度いい、お前も同時に可愛がってやるよ」


「いらねぇよ」


「遠慮するな、まだ初めてかも知れねぇが楽しませてやるぜ?」


「楽しみたいなら鏡でも見てろ、凄く楽しいぜ?」


「クソガキ、あんまり俺様を怒らせない方がいいぜ?」


 俺はチンピラを無視して、絡まれていた女の子に近づいて話し掛けた。


「君、大丈夫?」


「え?あの、後ろの人…」


「無視してんじゃねぇよ!完全にキレたぞ、もう泣いて叫んでも許してやらねぇからなっ!」


 小者の定番のような台詞を吐いて、チンピラ風の男は俺に殴りかかってきた。

 なんだろう、いかにもモブAやチンピラB的なキャラを貫いてくるな。


「別にお前に許してもらう必要はない」


 俺はそう吐き捨てると、男の鳩尾にボディーブローを叩き込んだ。

 俺の拳がチンピラ風の男にめり込むと、男はその場で白目を剥いて崩れ落ちた。


「す、凄い…」


「怪我はないかい?」


「は、はい!大丈夫です、危ないところをありがとうございました!」


「えっと、じゃあ俺は行くけど他に知り合いの人とか近くに居ないの?」


「実は、訳あってオンシィーンに行かないといけないんですけど、お金が無くて護衛の人も雇えず1人なんです…」


「若い女の子が1人だと危ないんじゃないか?」


「あなたも若い女の子で1人だと思うんですけど…」


「俺は良いんだよ、自分の身は自分で守れるから。それより、こんな時間に酒場に居たって事は宿取れなかったのか?」


「はぅ…この関所に着いた時間が遅くて…」


「そうか、なら俺の部屋に来るか?」


「え!?良いんですか!?」


「流石に放っておけないからね。それに俺もオンシィーンに行くつもりだから、よかったら一緒に行くか?」


「お願いします!本当に嬉しいです!」


「まあとりあえず部屋に行くか」


 俺は受付のおばちゃんに説明し許可をもらってから、満面の笑みでついてくる女の子と宿の部屋に戻ったのだった。


「とりあえず、俺の名前はリデルだ」


「わたしはセリナです、少しの間ですがよろしくお願いしますね!」


「よろしく、オンシィーンまでは徒歩だけど大丈夫?」


「はい、元々そのつもりだったので大丈夫です!」


「そうか、ならよかったよ。それとご飯はどうする?」


「今日は無くて大丈夫です、明日の朝にでも食べるので気にしないでください!」


「いや、俺のを少し分けてあげるよ」


「いや、そんな、悪いのでいいですよ。それにお腹すいてませんから!」


 くーきゅるる

 セリナから可愛らしいお腹の音が聞こえてきた。

 セリナは顔を真っ赤に染めていき、そのまま俯いて両手で顔を覆った。


「本当に?」


「うぅ…少し分けて貰えますか?」


「ああ、もちろん良いよ」


 その後俺とセリナは、おばちゃんが持ってきてくれたご飯を二人で分けて食べたのだった。


「さて、寝るか。セリナはベットで寝てくれて良いぞ、俺は床で寝るから」


「わたしが部屋に泊めて貰っているのに、リデルちゃんを床で寝させるわけにはいきませんよ!」


「いや、別に俺は床でも寝れるし、女の子を床で寝させるわけには」


「リデルちゃんも女の子です!」


「まあそうだけど…」


「じゃあ一緒にベットで寝ましょう!大きさ的にも十分余裕がありますから、ね?」


 なんだと!?

 男としてはこんな可愛い子と一緒のベットで寝れるのは嬉しいことだが、元々女の子とあんまりコミュニケーションを取ってこなかった俺にはハードルが高すぎる。


「いや、それはちょっと…」


「恥ずかしがらなくてもいいんですよ?」


 セリナは、俺を母性溢れる表情でこちらを見つめていた。

 何故だ!俺が助けたはずなのに、セリナは何故か子供を見つめる母の様な目をしている!


「俺、人と一緒に寝れないから気にしないでくれ…」


「そうですか…それじゃあせめてベットで寝てください…」


 俺が断ると、セリナは凄く暗い表情になり声も元気がなくなってしまった。

 なんだか罪悪感が…


「いや、やっぱりどっちかが床で寝るって言うのは気になるよね。一緒にベットで─」


「そうですよね!じゃあ明日に備えて寝ましょうか!」


 速攻で食いついてきたセリナに、今更やっぱりなしとは言えず、俺は修行僧の如く心を無にすることに全神経を注ぐのだった。


────────────────────


「やっと朝か…全然寝れなかった…」


「ぅん?おはようございましゅ、リデルちゃん」


「おはようセリナ」


 宿で朝食を食べた後、通行許可が下りたのでラグナード国に入国を果たして、セリナと共にオンシィーンに向かうのだった。


「ここら辺は魔物が出ないんだなぁ」


「リデルちゃん知らないんですか?ラグナードの街を繋ぐ道の一部は、魔除けの結界が張ってあるんですよ?」


「へー、そんなのあるんだ。それってコンビナートでは使われてないのか?」


「この技術はラグナードが造ったものなんですけど、ラグナードとコンビナートはあまり仲が良くなかったので」


「あー、なるほど」


 ジェルヴェが戦争をしようとしてたのは、魔除けの技術を手に入れるのも目的の1つだったのかもな。

 まあマリアなら頑張ってラグナードと仲良くするだろう。


 そんな会話をしながら歩いていくと、何者かが俺達に近づいて来た。


「見つけたぞ!セリナ=オリーヌ!貴女はレオナルド=ラグナード様の妻候補として一緒に来てもらう!」

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