第7話 イレギュラーが付きまとう

 最寄りの駅に着くと、既に三人の姿があった。……ん?

 おはようと挨拶を交わすと、俺たちは電車に乗り込んだ。……んんん?

 四国まで行くのだ。時間に余裕はない。お金にも余裕は無いのだが、なんと居鶴が全額負担してくれるらしい。マジかよ。

 かじれるスネははじっておくタチなので、俺はお言葉に甘えた。本当は、結構申し訳ないけど。

 電車内では修学旅行気分でトランプやウノをした。あれれ、さっきから勝ちまくってる子がいますよ。

「やっぱりコレクション性と改造性を持たない遊びは退屈ね」

「それでさ……」

「何かしら清水くん」

「何でちゃっかり混ざってるんだよ!」

「混ぜ込むだけで美味しくなるわ」

「混ぜ込みわかめじゃねーよ! おにぎりじゃなくてお前を指さしてんだよ!」

 先程から全戦全勝の無双少女を指さして俺は叫んだ。

 今は持ってきた弁当を広げ、さあ昼食だと箸を構えている。何で準備万端なんだよ。

「ちなみにプレミアムよ」

「そんなのあるの? どうでもいいわ!」

「……美味いわ」

「っ……一口くれ!」

「どうぞ」

「……美味いな!」

 ガシッと苗加羽込と手を組む俺。隣の真澄がジトーっという目で俺を見る。

 あれ、なんか忘れてる気がする。やべ、プレミアムに錯乱しちまった。

「結局、なんでいるんだよ……」

「こっちに”うにめし風味”ってのもあるわ」

「ちょっと気になるけど質問に答えろや!」

「朝霧くんに誘われて、ついてきたのよ」

 俺はバッと居鶴の方を向く。知らん顔にイラッとする。

「まあまあいいじゃん。せっかくの留年生同士だし、最近飛沫もよく話してるって聞いたからさ。ちょっと声をかけてみたんだよ。まさか本当に来るとは思わなかったけど」

 こいつの行動原理は全く読めない。そもそもいつ接点を持ったんだ。クラス違うのに。

「それに真澄も、女の子一人よりいいかなと思ってさ」

「わたし、苗加さん苦手」

「僕の気遣いはそれで一掃されるの!?」

 珍しくツッコミに回る居鶴。というか真澄、本人の前で言うかそれ。

「あら、私は気が合いそうだと思ったんだけど。お互い同じおもちゃを扱う者として」

「それは同意」

 二人がニヤリとこちらを向く。

「俺はお前らにおもちゃとして扱われていたのか!?」

 妙に気に入られてると思ったら……。俺は少年玩具じゃねぇ!

 やがて、本州と四国を隔てる鳴門海峡に差し掛かる。とうとうという感じだ。

 何だかんだ、真澄と苗加はその後も和やかに(?)会話を続けている。

 居鶴は疲れてしまったようで、眠りについている。俺の知らないところで交通手段や時間を調べたりと、色々手回しをしてくれたのだろう。

 こうしていられるだけ、幸せなのかもしれない。

 俺はもっと報いを受けなくてはならないようなことをした。

 罰を受けなくてはならないような罪を犯した。

 半年以上怠惰に過ごしていた俺が、こんな穏やかな状況下にいて本当にいいのだろうか。

 それは意味もなく不安を加速させる。あの場所に戻ることで、何かが変わるのだろうか。

 何も起こらないかもしれない。むしろその可能性のほうが高いはずなのに、全くそう感じないのは苗加というイレギュラーがいるからだろうか。

 車窓に映る景色はスクロールされるように現れ、流れ、消えていく。

 街が現れたと思えばそれは途端に人気ひとけのない森の木々にかき消され、その緑が大きな川に薙ぎ払われたと思えば、また一つ集落が現れる。

 そんな景色をぼんやりと眺めながらトランプに興じ、和やかな時間も窓の外の景色と同じように流れていく。

 行けば、分かる。

 都内から湧生市までのおよそ半日間、俺は自分にそう言い聞かせ続けた。

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