第8話 酔いと遊びと興奮と
「酔ったわ」
「はしゃぎ過ぎなんだよ……」
湧生市に駅はない。普段自分たちの町からあまり出なることのない湧生市民が利用するのは、『
俺たちはそこで下車すると、地元へ向かう『湧生市役所行き』の路線バスへと乗り換えた。
それを降りての苗加のこの一言である。苗加はバスに乗っている間も、トランプゲームをし続けた。完全に独壇場だった。途中で体力が持たなくなった俺たちは勝ち抜き制を提案し、なんとか
苗加は少し不満そうだったが納得すると、有無を言わせず勝ち続けた。いいのだ、負ければ休めるのだから。むしろ皆早く負けたくて、結局なかなかのハイペースでローテーションしてしまった。
苗加は終始楽しそうだった。飽きないのかね。ってか最後の方、なんか呂律回ってなかったし。遊んでる間アルコール分泌でもしてんのかこの女。興奮しすぎだ。そりゃ酔うわ。
結論、皆疲れていた。
そしてここからが大変なのである。
「最寄りのバス停から僕たちの家まで、大体四キロある。コンビニは市役所付近にしかないから、ここで食料とかを調達していかないとね」
「本当に田舎なのね」
「そう……。わたしたち、いつもお父さんやお母さんが買ってくるものばかり食べてた……。中学に上がるまで、自分で物を買ったことがない子がほとんどだったの」
「懐かしいなー。僕たちはすぐ遠出してホームセンターとか行ってたけどね! 探検するための道具を揃えようって目的だったけど、買い物に行くことそれ自体がちょっと冒険だったよね」
その言葉を受け、苗加が一瞬足を止めた気がした。気のせいだろうか? 今、妙な反応をしたような……。
「その代わり、ちょっと集落を歩けばそこら中のおじいちゃんやおばあちゃんが何か物をくれたよね……。果物とか、お菓子とか……」
「そんなこともあったな」
俺が言葉を返すと、居鶴がニカッと笑う。含みのある笑みだ。こいつは時折、「僕は分かっているぜ」みたいな顔をする。察しの良いキャラを気取っているが、実際はそうでもないと思う。昔のままならだけど。
「一応、忘れちゃいないんだね」
「……まあな」
その時は、この町を心から好ましく思っていたものだ。
しかしどうしてまた、こんなところにショッピングモールなんて作るかね。
悪いことは言わないからやめとけって。客来ねぇぞ絶対。
「まあ、宿も決まってないし、早いうち到着しないとね」
「そうだな……って、え?」
「ん、なんだよ」
「お前、今何つった」
「早いうちに到着したいね?」
「したいね? じゃねーよ! 宿決まってないってどういうことだよ! 俺たちゃ今日、どこで過ごせばいいんだよ!?」
「あっははははー……。さあ?」
居鶴の目が「俺はフリーしか泳がない」と言わんばかりに左右で見事なターンを繰り替えす。泳ぎ慣れている目だ。
「てっきりいずくんが宿でも予約してるのかと思ってた……」
「ええっ、地元だし誰か泊めてくれるよね?」
「他力本願かよ! 言っとくけどウチは無理だぞ」
「ええー、そりゃないよー。おじいちゃんやおばあちゃんに迷惑がかかるからウチはダメだって言われて、飛沫ん
ここで本性出してきやがった……。そう、コイツは立案者になって色々手を回してくれる割に、大事なことが抜けていたり事前に相談しなかったりと、色々人を困らせるトラブルメーカーだった。こういうキャラ読者投票とかで絶対人気出ないよね。
「当たり前だけど、私は途中から呼ばれた身だし知らないわ」
苗加が釘を刺す。
「となると……」
三人は同じ人物を見つめる。
「……わたし?」
早くも敷いたレールを逸しつつある旅行計画。
前途多難ってレベルじゃない。
この旅、思った以上にヤバそうだ。
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