第29話

「れいらさん、おやめくださいまし!」


 空間を裂くように漆黒の手甲がわたくしを狙いますの。

 俊敏ステータスの差でしょうか、避けるので精一杯ですわ!

 ラーニンググローリ――せめて、どういう武器かだけでも分かれば対処のしようがあるのですが……。


「ママ、ダンジョンの入口まで来ちゃったですよぅ?」


 くっ……こうなったら一旦退いてシャノンから情報を聞き出すしかないですわね。


「わかりましたの。とりあえず入りますわよっ!」


 爪をかわした隙に、入口に触れますの。

 【難易度D 推奨レベル15~ ミノタウロスのアジト……ソロかマルチか選んでください】

 ええと……他プレイヤーに侵入されないのはソロ一人専門でしたわね!


「……ふーっ。もう、一体なんですのあのスピードは! ポーションを飲む暇もありませんのっ」


 ミノさんのアジトと呼ばれるダンジョンに入ったわたくしは、すぐさまスキルポーションをがぶ飲みしましたの。

 飲みやすいぶどう味で、ほど良い甘さが疲れを癒してくれますわ! まあ、回復するのはヒットポイントではなくスキルポイントですが。


「ぷはーっ! ですのっ」


 全て飲みましたら、視界の中央に『SP+40』という青色の回復表示がぽろんと出てきました。


「あら、SP40もありましたっけ、わたくし」


 たしか20くらいじゃありませんでしたっけ?

 ミラコンを見てみますと、レベルが14になっていましたわ。


「格上のミノタウロスをいっぱい倒したから一気に上がったですよぅ。それより、あの方暴走しちまったままですよぅ……どうするですぅ?」

「……とりあえず状況を整理したいですわ。なるべく簡単にあの光る眼について教えて頂きたいんですの」


 ◇◇◇


 結局のところシャノンの説明は難しい横文字でいっぱいでしたわ。

 とりあえず、重要な点は、あの眼が『七眼と書いてセブンス・アイ』と呼ばれるものということ。

 特別な虹彩データを持つ者、もしくはなんらかの条件を達成して開眼する者がいまして、わたくしも持っている『選ばれし眼』の正体らしいですの。


 本当はもっと色んなクエストを消化しないと七眼の詳細については教えられない決まりのようですが、こんな状況だからと特別に詳しく教えて頂きましたわ。

 とはいえ、わりと単純なものでしたの。


 眼を持つものがピンチに陥ると発動する身体強化隠しスキル――眼が発光すると共に全てのステータスが3倍に跳ね上がり、あらゆる魔法、技、歌が強化されるみたいですわ。

 EXスキル、いわゆる超必殺技のようなものもエクストラオーバースキル……EXOという特別なものに変わるようですの。


 それだけ聞けば素晴らしいチートスキルなのですが、制限時間というものがありまして『77』秒以内に解除しないとれいらさんのような暴走状態ビーストオート……つまり、コントロール不能になってしまうとのこと。

 それに加え、PKスタンスに切り替わるため、仲間であろうが誰であろうが無差別に攻撃をしかけてしまうという――恐ろしくもあるスキルですわ。

 ……選ばれし眼というより、呪われし眼と呼んだほうがしっくり来ますわね。

 

「それはギルティメイズという超難易度ダンジョンをクリアすれば自在に発動、解除が出来るですぅ。でもそれをクリアしていないと解除が出来ずに必ずビーストオート状態になるですぅ……」


 シャノンが難しそうな顔をしてわたくしの肩に座りましたの。

 つまりは、そのメイズをクリアするまでれいらさんが危険に陥るたびにパーティが壊滅しちゃうかもしれないということですわね……なんて厄介な!

 ではそのメイズとやらはどこにありますの? と訊ねたところ、


「第一層は首都のリバランカにあるですよぅ。時計塔の地下がギルティメイズに繋がってるですぅ」


 時計塔……ああ、みやか達と見たあの立派な塔のことですわね!


「でしたら早速クリアして『眼』を自在に使えるように……って、第一層ってどういうことですの?」

「ギルティメイズは第七層まであるですぅ。その全てをクリアするとMRO完全攻略の達成ご褒美を貰えるみたいですぅ~! そのご褒美目当てに、もうすでに潜っている攻略開始している冒険者さんもいたりするみたいですよぅ?」


 でも……、と声のトーンを落としてシャノンはこう言いましたの。


「それぞれの層に入るには当てはまる『課題』をクリアしないと入れないですぅ……。それに、課題をクリアしてメイズに入れたとしても、引継ぎ前提の理不尽難易度なんですよぅ? ぜってークリアなんて無理ですぅ!」

「ふふっ。理不尽難易度、ですか。望むところですわね。……シャノン、第一層の課題を教えてくださいましっ。このままではれいらさんが可哀想ですのっ!」

「ママ……。い、一層の課題は単純なものですぅ。リバランカ付近のエリアボスを『3匹』倒すことですぅ」


 と言いますと、昨日倒したウェアウルフを数えてすでに1匹はクリアしていますわね。

 あと2匹……とりあえず、ダンジョンを出てれいらさんを何とかしないといけませんわ。

 そのあとみやか達と合流して――


「あふぁ!? な、何か大きな気配を感じるですよぅ?」

「え……?」


 そういえば洞窟がズシンズシンッ、と揺れているような気がしますわね……。

 ミラコンのダンジョン簡易地図を見てみますと、わたくしを示す青い丸アイコンの近くに王冠のついた黄色のアイコンが迫ってくるのが分かりましたの。


「この黄色の王冠って……まさか!」

「ひえぇええっ、ママぁあ!」 


 ガタガタ震えながらわたくしの後ろを指差すシャノン。


 振り向いたその先には――赤いマントを羽織ったミノタウロスが立っていましたの。

 さっき戦ったミノさんの十倍近くもあるとんでもない巨体に、手には金色の斧と銀色の盾を持っていますわ。

 頭には白銀の王冠、そして首にぶら下がった金のネックレスを鳴らしながら、鼻息荒くしてわたくしを見下ろすゴージャスなお牛さん。


「……も、もしかしてこのエリアのボスさんでいらっしゃいますの?」


 ですが、答えるはずも無く。

 激昂した様子の彼はダンジョンが壊れる程の凄まじい地団駄を踏むと、


「コロス……。カワイイ同胞達ヲ、ヨクモ……! オマエ、ユルサナイ……キングノウラミ、オモイシレ、小娘ッ!!」


☆ No.8 クエスト【ミノタウロスキングの怒りを静めろ!】――開始!

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