第3話




─尚正side。



「おはようございます」


登校中、すれ違う地域の方に挨拶をする。


「もう学校?早いねぇ。いってらっしゃい」

「…はい」


「いってらっしゃい」。そう言われると返答に困ってしまう、というのはきっと俺だけじゃないだろう。「行ってきます」がいいんだろうか?それとも「ありがとうございます」?


「…」


そういうのって案外、考えるのも無駄だったりする。

それにしても、この町は本当にのどかだなぁ。

春を感じるタンポポや色とりどりの花々。近くでは鳥のさえずりが聞こえ、たくさんの蝶々が飛んでいる。

いつも通りの道。

いつも通りの───


「べーろべーろばー!!」

「…!?」


全然いつも通りじゃなかった。

そっか…俺と家近いんだ、結衣って。


「え!?ねこちゃん何で逃げるの!?」


俺に気付いてないのか、無我夢中で地域猫を追いかけている。

そんなことしたら逆に怖がらせるだろ…


「ほら、遅刻すんぞ」


白シャツの襟を掴んで猫から引き離した。

自分でも、何でこんなすんなり関われるのかとびっくりする。


「…え、尚正先輩…?」


まるで幻でも見たように驚いて、少しずつ俺から距離をとる。


「まさかだけど毎日あんなことしてんの?」

「ねこちゃんはかわいいんですよ!」

「いや別に、猫のかわいさは否定してない」

「じゃあ何ですか!」


訴えるような目で俺を見あげる結衣。

…あれ、身長縮んだ?いや、俺が伸びただけか。


「…変わってない」

「これでも身長は伸びましたよ!先輩の発育がキモすぎるだけです!」

「発育がキモいって何だよ」


少し後ろをついて歩くと、結衣は嬉しそうに微笑んだ。


「もしかして寂しかったですか?この1年間」

「…別に」

「あ、好きな人できました!?彼女とか!」

「できてない」


嫌なことは全部早く忘れてしまいたくて、取りつかれたみたいに勉強に励んだ日々。おかげで成績は学年1位。でもそれに比例するかのように、友達や家族との距離は増えるばかりで。俺に残されたのは勉強。…それと、結衣との鮮やかな記憶。

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私のアオハル記録。 卯月ゆい @piyomohu

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