回想




─尚正side。



結衣への恋心に気付いたのは、それこそ結衣が告白してきたその時だった。でもそれは俺の卒業間近、もうすぐ結衣とは会えなくなる時期だった。


「す、好きです!」

「…え…?」


ビックリしすぎて開いた口が塞がらなかった。

彼女とは一度話したきり。それも2年程前。


「…俺のどこが好きなの?」


言えるわけない。じゃないと説明がつかない。2年間、彼女はずっと俺を好きだったということになる。


「…2年前のこと、覚えてますか?」

「えっ?いや、えっと…」


いきなりで反応ができなかった。きっと、怪我の手当てをしたことを言いたいのだろう。


「尚正くんとの些細な会話…私、凄い嬉しかったんです。謝るのは私じゃなくて男の子だって言ってくれて…覚えてないですよね」


寂しそうに笑うと、髪を耳に掛けてうつ向いた。


「ずっと頭の中が尚正くんでいっぱいで…卒業しちゃったらしばらく顔も見えなくなっちゃうから」


わからなかった。気付けなかった。こんな自分を誰かが好いてくれる未来なんて想像できなかった。ましてや2年前のことを覚えてくれてるなんて尚更。

うるさいくらいの胸の高鳴り。俺はその日初めて、彼女に対する気持ちを自覚した。

「俺も、」そう言いたいのに言葉にできない。頭によぎる、両親の言葉。


’高校生になるまでは彼女作っちゃ駄目だからね’

’今できる好きな人なんて、どうせ大したことないんだから’


「…ごめん。付き合えない」


言ってしまってふと我に返った。目の前にはショックを受けた好きな人の顔。


「…中学で勉強に専念するって決めてるからさ。ごめんだけど、俺のことはもう忘れて」


自分でも何を言っているのかわからなかった。思わず口にした冷たい言葉は、自分自身も傷付ける武器となってしまった。


別にどうでもよかった。親が言ってたことなんて、全部無視して自分の気持ちに従えば良かったのに。

でも想像してしまった。この先もっと彼女を傷付けてしまうかもしれないという、俺にとって酷く残酷な未来。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る