回想




─尚正side。



俺の初恋は小4の時、校庭の遊具で怪我した女の子だった。

その子は1つ下の3年生で、男の子にちょっかいをかけられてジャングルジムの1番高い所から落ちたと言う。先生は男の子を叱ってばっかりで、泣いている女の子には目もくれず、友達と遊んでいた俺は思わず女の子に駆け寄った。女の子の名前は結衣といった。


「保健室連れて行くよ」

「…いい…グスッ…1人で行けるもん…」

「素直になればいいのに…ほら、手貸して」


何の意地なのか、結衣は絶対に手を貸さなかった。仕方ないと思い、俺は無理やり結衣の膝裏に手を回して体を持ち上げた。

我ながら恥ずかしいことをやったと思う。

でもその時の俺は、とにかく結衣を泣き止ませてあげたかった。周りの冷やかしも無視して、俺は走って保健室に向かった。




「先生いないよ…」

「…まぁどうせ職員室にいるだろ。呼んでくる?」

「…いい」


小さく首を振ると、結衣の白い頬は少し赤く染まった。


「お兄ちゃんが手当てして」

「……わかった」


普段は他人の怪我の手当てなんてしない。でもこれは緊急事態…人助けだ。




患部に消毒を塗ってあげると、痛そうに顔を歪めた。


「…痛い?」

「っ…ちょっと…」


よく考えると密室に女の子と2人きり。

中学生になった俺なら耐えられない状況だが、この時の俺は小学生。しかも怪我人相手。

そんなことを気にしている暇はなかった。


「…はい、終わったよ」

「…ありがとう……ごめんなさい、友達と遊んでたのに…」


申し訳なさそうに何度も何度も謝る結衣。俺は消毒や使わなかった絆創膏を元の場所に戻しながら、結衣を見て笑った。


「謝るのは君じゃなくてあの男の子でしょ?教室に戻ったらちゃんと話すんだよ」

「…ありがとう」


安心したように微笑む結衣。その笑顔に惹き込まれ、ボーッと見つめていると、彼女の顔がだんだんと近付いてきた。ふわっと香った甘い匂い。なんだかいけないことをしている気分になり、自分の心臓がドクンと跳ねた。


「…やっぱり。まつ毛ついてた」

「…えっ?あぁ…」


動揺している俺の気も知らずに、慎重にまつ毛を取ろうとしてくれている。


「…取れた!痛くない?」

「う、うん…!じゃあ俺そろそろ戻るね!」


してやられたような気がする。

そそくさと保健室を出ると、驚いている結衣を置いて友達の元へ走った。



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