第33話. 過度な堅実さ

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 ヴァルトは生まれてから父親に会ったことはなかった。ただ、その時はヴァレリア・ド・セルナストリアは王ではなかったが。


 ヴァルトは母親と共に辺境の大きな家で暮らしていた。母親はどこで稼いでいるのかわからないが、お金に不自由はなかった。


「お母さん、また学校でいじめられたよ。王子の愛人の子供だって。王子の子供なのに拙劣だって。嫌だよもう。あんな父親のせいで」


「やめなさい、あなたのお父さんはすごい人なの私たちはお父さんのおかげで生きていけているんだから」


 お母さんはいつもは優しくて、いつでも僕の味方なのに、父親の話になると父親を擁護する。


 何で、顔も見せない父親が僕よりもお母さんに愛されているんだ。


 お母さんをほったらかしにしている男が。


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 僕はヴァレリアに対する憎しみを募らせていった。全く関係のないことさえも全て王子のせいにして。


 いつか復讐すると決めていた。王国騎士団に入れれば王族にだって謁見が叶う。騎士団に入って思い切りぶん殴ってやりたいって思っていた。そのために学校では勉強を頑張っていた。頑張っていた、というより頑張っていないと何もかも失敗するのではないかと怖かった。


 でも、本当は薄々分かっていた。王子は何も悪くなんてなくて母親の愛を独り占めしたかっただけなんだって。勉強を頑張って騎士団に入ってもどうしようもない。それでも勉強は頑張り続けていた。ただひたすら努力するだけだ。


 中等学院生の時から意味のないジンクスを信じていた。一度成功した時を再現しようとしてアホなことを繰り返す。失敗したくないから。そんなことはないと思っていながら決まった行動を取らないと失敗するのではないかと常に恐れていた。


 テストの時には特にそんなジンクスを信じていないと怖かった。テストの2ヶ月前からテストのことだけを勉強する。本番では何十本ものペンを用意していた。それでも、結果的に1本しか使わない。夜は必ず9:00には寝て朝は必ず3:00に起きる。朝には必ず肉じゃがを食べる。他にも何個もある。最初に上手くいったのは僕の努力が実っただけだって分かっている。でも、そうしないと失敗する可能性がある以上、やるしかないと思っていた。


 自分でも辛かったしバカなことをしているとわかっていた。だが、もしやめたら失敗するかもしれない。そうなったら頑張って来た意味がなくなってしまう。そんな思いがあった。騎士団に入る入らない関係なく、王の庶子であるというレッテルが貼られた僕が人並み以上に生きるためには学歴も能力も必要だ。そう思っていても、生きている意味もよくわからない。


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 15歳になって高等学院に入ったばかりの頃、お母さんの机の上の手紙を見つけてしまった。思春期特有の、する必要のないことをやってしまうあれだ。


「えっ、何これ」


 高級感の溢れる手紙の差出人の名前を見ると、ヴァレリア・ド・セルナストリアと書いてある。王子、つまりは僕の父親。それにNo.461と番号が振られ、宛名にはリッちょんと書いてある。お母さんのことか。


 これって父親からのお母さんへの手紙か。461番ってことは、お母さんと父親が出会ってから16、7年経ってるとすると毎週1回交互に送り合ってるのか。


 知っている人のイチャイチャは見ていられないな。


 これ、見ちゃって良いのか。お母さんは買い物に行っているからいない。30分は帰って来ないはずだ。


 読んで……みるか……。

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