第3章. 親が子に、子が親に捧げる日々
第32話. もう一人の登場
カミツレに来てから11日が経った。レティアも来なくなった。諦めか引け目か。
「芋はやっぱり美麗(びれい)で不屈(ふくつ)で秀逸(しゅういつ)なんですね」
今はコエンが来ている。他愛のない雑談をしているだけだ。
何か破裂音が聞こえる。
「んっ? 何だ、何の音だ。」
「僕が少し確認して来ます」
コエンは急いで出て行った。
「俺たちも行こう」
シアは俺の椅子のヒモを外して背負った。
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カミツレの入り口のドアを開けると階段の上から光が差している。
「何で、フェイクの小屋があるはずなのに。コエンは?」
「急ごう、レクロマ」
シアが走って階段を駆け上ると小屋は破壊され、赤い鎧を着た王国軍がカミツレのメンバーの前に立っている。コエンは腰が抜けたようにその場に座り込んでいる。
「貴様がイレギュラーか。たった一人で一瞬で哨戒隊を全滅させたと聞いている。貴様も反乱軍に与するか」
胴部の装甲が紺色の男が俺に向かって出て来た。赤色の髪を短かく切った爽やかな男だ。後ろにはしっかりと切り揃えられた緑色のボブヘアの女性がついている。女性は明らかにサイズの大きい鎧を着ている。
「私はセルナスト王国騎士団、騎士団長ヴァルト・ヘイムである。セルナスト王国騎士団は反乱軍の徹底的な洗い出しに乗り出した。貴様ら反乱軍に未来はない。偉大なる国王陛下に逆らう反逆者、覚悟するが良い」
ヴァルトが背負っていた大きな紺色に光る剣を右手に取り出した。
「君の名前をお聞かせ願おうか、イレギュラー」
「なぜだ?」
「話しにくいからってだけだ。言いたくないなら言わなくたって構わない。君の好きにするが良い」
見た目通りの爽やかな男だ。
「俺の名前はレクロマ・セルースだ」
「では、レクロマ君。早速だが、君を背負っているその少女について聞かせてもらいたい。サトゥールからの報告では剣に変化したというが。それに、その剣の特徴が聖剣アングレティシアと一致する」
「言わなければいけないのか」
「言う必要は無いよ。だが、言わないのなら問答無用で奪うだけさ。国王陛下にアングレティシアを献上すればさぞ喜ばれることだろう。そうすれば、私は認めてもらえるだろう」
「その名で呼ぶな」
シアはシアだ。アングレティシアじゃない。
それに、サトゥールもヴァルトも国王陛下、国王陛下って。
「なぜ、あんな王に忠誠を誓う」
「家族として父親を尊敬することに理由がいるかい?」
「父親?」
「私は国王陛下の子供だ」
王の子ってことは、レティアの従兄に当たるのか。
レティアは面を食らったようにその場に立ちすくんでいた。
「あなたが私の従兄弟だなんて。そんなの聞いたことないわよ。そもそも伯父様に子供がいたなんて話、聞いたことがない」
「私は、陛下の庶子だからな。私が騎士団長になるまで会ったことはなかった。私も君と同じで陛下を憎んでいた。子供のような理由だったが」
レティアは混乱したようにじっとヴァルトの方を向く。
「俺が王を殺すためには、その前にあんたを倒さなければいけないのかな」
「そうだね。でも、私は負けないよ、レクロマ君。負けられない理由も負けたくない理由もあるから」
「負けたくない理由?」
「子供の前で父親がかっこ悪い姿を見せる訳にはいかないだろ」
そう言ってヴァルトは緑髪の女性の頭を撫でた。女性も嬉しそうに笑みを浮かべる。親子ほど歳が離れているようには見えないが。
「では、手合わせ願おうか。この中で君が最も強そうだからね」
シアは俺を背負ったまま手を後ろに回して俺の手を握った。すると剣となり、俺は片足ずつ着地した。
「じゃあ、こちらこそお願いしますよ」
「それがアングレティシアか。ぜひいただきたい。覚悟!」
カミツレのメンバーも騎士団員も飛び出した。
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