第4話 8
「……いや、確かそのティアとかいう女、魔道士局の次席って、おまえゆーとらんかった?
それと戦えてる令嬢ってなんなん?」
「姫様が言うには、
それにわたしもなってから知ったんですけど、姫様の専属侍女っていうのは、騎士が立ち入れない後宮での、姫様の護衛もお仕事に含まれてまして」
「あー、つまりそのアイラ嬢は、日頃から荒事に対する訓練をしていたって事か」
「はい!
でも……」
ティア様に対抗できていたからこそ、事態は悪化したとも言える。
王様がやって来た頃には、ほとんどの愛妾の皆様は逃げ出していて。
残っていたのは王様の寵愛を受けるティア様のおこぼれに与ろうという――いわゆる取り巻きだけになっていたそう。
彼女達は口々にアイラ
――アイラ
それをティア様に見抜かれて激昂したアイラ
最初にティア様に粗相した侍女さんは、涙ながらにその話を否定したそうだけど、アイラ
――あまりにも唐突すぎて、ドロレス様が止める間もなかったという。
アイラ
怒りが収まらなかった王様は、
王様のティア様への執着ぶりを知った貴族達は、後宮から愛妾の皆様を引き上げさせる事にしたそう。
「
「大方、次の標的にされたんだろ?」
ヒノエ様の推測に、わたしはうなずく。
「彼女達は……ティア様が後宮内での立場を確かなものにする為――姫様や統括侍女長のドロレス様より上に立つ為に、後宮で働く侍女達に対する見せしめとして、様々な方法で陥れられたそうです……」
逆らえば処刑。運が良くても御家取り潰し。
王様はティア様の言葉だけを信じるから、彼女達も次々と後宮を去って行き、いつしか後宮はティア様の居城のようになっていて。
「王女宮は後宮内にありますけど建物としては独立してましたから、幸い姫様が直接害される事はほとんどなかったそうですが、緊張続きの毎日だったそうです。
そしてそんな後宮の空気に耐えかねて、侍女達も次々と辞めてしまって、入れ替わりに王様は男性の執事や近衛騎士を後宮に置くようになって……」
「あー……つまりアレか。王女は自分の身は自分で守ろうと、自らを鍛え上げたのか……」
「はい。アイラ
口には出せないような、ひどい乱暴を働かれた事もあったらしい。
その侍女は、ショックの余り自ら胸を貫いてこの世を去ったとか……
「なるほどの。だからこそ、王女はまずおまえの武を試したというわけか」
「はい。そして近衛にも負けない武を修めるようにと……自分はなったと、そう仰って、体術や剣術、魔法や兵騎などの魔道と、様々な戦う術をわたしに教えてくださいました」
あの日々があったからこそ、わたしは勇者として各地で戦えたんだと思う。
「ううむ……しっかし、話を聞けば聞くほど、そのティアとやらはやべー奴だな……
ちゅか、キレやすすぎじゃね?」
ヒノエ様はアゴに手を当てて呻く。
「王様が言いなりだから、気が大きくなってるのだろうとドロレス様は仰ってました。
出自が平民だからこそ、貴族を言いなりにできるほどの権力を手に入れて、好き勝手してるんだ――というのは、姫様の見立てです」
「おまえ自身は、なにもされなかったのか?」
「ティア様の事は、ドロレス様や姫様に注意されてましたので、なるべく関わらないようにしてました。
ティア様も滅多に自室からは出てきませんし。
それにわたしのお仕事は基本的には王女宮内済ませられるものばかりで、外に出る時はほとんど姫様が一緒でしたから。
なにより武術訓練が忙しかったですしね」
ティア様に仕える執事や近衛騎士達にちょくちょく絡まれたりしたのは、ヒノエ様に告げるほどの事ではないと思う。
下手に反撃すると言いがかりを付けられるきっかけになるから、わたしは逃げるようにしてたんだよね。
第二騎士団のみんなに身体強化の魔法を教えてもらってからは、後宮の執事や近衛に出くわしそうな時は、窓から飛び降りたり、壁の上を歩いたりしてた。
「だから、ティア様と直接お話したのは数えるほどでして……」
「その時の事を聞かせてもらえるか?」
わたしはうなずき、リーシャが注いでくれたお茶を口に運んだ。
昨日も出してもらった、爽やかな香りのするお茶だ。
「忘れもしません。
――あれは勇者召喚が行われた日……セイヤくんが喚ばれた日の事です」
……そして、その日は。
わたしの運命が大きく歪められた日でもある……
★――――――――――――――――――――――――――――――――――――★
ここまでが4話となります。
侍女時代についても、もうちょっと長く詳細に書こうかとも考えたのですが(プロットは作ってある)、PV動向を見る限り、どうも読者の皆様が求めているのはそこではないようなので、軌道修正する事にしました。
そんなわけで4話に関しては、サクっと重要なエピソードをプロットから抽出してお送りした次第です。
次回はいよいよミィナが勇者に選ばれるエピソード。
お楽しみ頂ければ幸いです。
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