第3話 6
「セイヤとか言ったか、アイツなんなん!? マジ、なんなんっ!?」
妾の断ち切られた右腕を魔法で氷結処理するアリアを横目にぼやく。
立体映像に攻撃して、霊脈通信の向こうから、こちらに攻撃を届けさせるなんてトンデモ攻撃、妾でもできんぞ!
『あ~、あの攻撃に関してはボクも驚きました』
ケイが投影されたホロウィンドウがそばに寄って来て同意する。
「妾もビビったわ! <
魔道によって発生する物理事象の小規模改変――魔法は、
つまりは規定された
「……
『ん~、いえ……主、第六船団からの報告を覚えてませんか?』
「第六? 黄道線八時方面に向かった船団だったか?」
なんせ大昔――気が遠くなるほどに昔の話だ。
艦のメイン・スフィアそのもので、常時データベースに接続しておるケイと違って、すぐに出てくるものではない。
「んん……?」
『まあ、この星に来る遥か前の記録ですしね。
報告によれば、彼の船団は異星起源種の遺跡に接触。その後、調査隊の幾人かの
「あーっ! 思い出した!
――
ホロウィンドウの中でケイがうなずく。
『我が船団の実験船でも、再現を目指して研究されていた記録があります』
「そうなのか? じゃあ、ケイはセイヤがハイソーサロイドだと考えておるのか?」
『可能性はあるかと。
過去に召喚された異界の人類は本来、
これはミィナの証言とも一致します。
召喚機構を解析したことがないので断言は避けますが、恐らくこちらに再構築される際に、それを埋め込まれるのだとボクは考察してまして……』
アーガス王国を含むいくつかの国が保有している、異界召喚機構――アレは、異星起源種の遺物を使っている。
本来ならば回収、あるいは破棄してしまいたいのだが、妾がその存在に気づいた時にはもう、ヒトは多くなりすぎていて、容易く手出しできん状態になっておった。
この世界に生きるヒト属にとっては、異界の知識や技術は文明の発展に大いに役立つであろうよ。
それ故に異界召喚機構を保有しとる国々は、異界の民を喚び出すのを止めん。
妾にできるのは、喚ばれた哀れな召喚者が、せめて心安くこの世界で暮らせるように取り計らってやるくらいだ。
――思考が逸れたな……
妾はケイに視線を戻す。
「つまり、その再構築の際に埋め込まれる
『お忘れですか、主。
ミィナに施されていた
――そもそも
「わーっとる! そこまで
説明がくどいのはケイの悪癖だ。
なまじ膨大な記録にアクセスできる分、喋りたくて仕方ないんだろうな。
「ちなみにあのトンデモ攻撃が、ロジカル・ウェポンの特性という可能性は?」
『未登録騎でデータが少ないので、ない――とは言い切れませんが、ロジカル・ウェポンとは本来、主達、
その主目的は搭乗者の特性の拡張――』
覚えとる。
だから、妾はセイヤが駆るあの騎体を見て、すぐにロジカル・ウェポンだと気づいたのだ。
搭乗者に、自身が持つ特性を付加する妾達、
互いを守り、高め合うという我らの在り方とは相容れない。
――どこまでも搭乗者を孤独にさせる、冷たい身体だ。
このフソウにアレが運び込まれた時に、そう感じたものよ。
「つまり、あのトンデモはセイヤ自身の力というわけか」
『現状では、ボクはそう推測します。
立体映像を主自身の実体と思い込み、斬ったという錯覚によって世界を書き換えて、主に斬撃を届かせた。
――まさしく
あー……確かに。
「思い込みの激しいバカや脳筋ほど、
『戦斗騎ですね。
ですが別事例として、思慮深く鋭い観察眼を持った者が覚醒する万象騎も存在しているので、ボクはその論文に懐疑的です』
「ネタにマジレスとか、おまえは本当に昔から可愛げのない」
妾はため息をついて、いまだにせっせと妾の右腕を冷やしとるアリアを見やる。
「あ~、そろそろ良いぞ。だいぶ落ち着いてきた」
いかに自由に身体を
それを知っているアリアは、冷却する事で構成素材間に発生したノイズの除去をしてくれとったのだ。
「はい。もう、ヤシマはなにをしてるのでしょう。陛下のお身体を早く直して差し上げたいのに!」
腕組みして謁見の間の入り口を睨むアリアに、妾は苦笑。
「よい。妾の身体より優先すべき事ができた。
アリアよ、ヤシマに
「――ですが陛下!」
アリアにしてみれば、妾の身体より優先すべきものはないと考えたのだろう。声を荒げて言い募る。
「心配せんでも、こうすればホレ!」
そう言って妾は身体の構築を成体から幼体へと設定変更する。
視線が下がり、失った右腕が再構築されて。
「……ふむ、ちょっと尻尾が痩せたかの?」
縮んだ自分を見下ろして、妾はそう感想を告げる。
『キタ――――ッ!!』
と、ウツロがホロウィンドウの中で奇声を発したが、ヤツが頭おかしいのは今に始まった事じゃないので、とりあえず放っておく。
質量そのものが変わるわけではないので、幼体設定の時は角や尻尾に
妾は足元に落ちとった、右腕をつまみ上げて、アリアに放ってやる。
「ついでにそれを魔道局に持ってって、初期化してもらっといてくれ」
「もう、陛下! ご自身のお身体をこんな雑に!」
「わーったから、はよ行け。はよせんと、ヤシマがここに
苦労して運んできて、やっぱりいらないじゃあ、あやつも可哀想だろう?」
ヤシマを弟のように思っているアリアだから、そう言われれば退くしかないだろう?
だから、あえてそういう言い方をしてやった。
「ちゃんと先生には見せてくださいね?」
「わかっとるって」
なおも粘るアリアに手を振って送り出し、妾はケイに視線を向ける。
ヤツは妾のアリアへの指示を聞いてから、えらい嬉しそうだ。
まあ、それもそうだろう。
数百年前から――それこそ虚神事件があった頃から、ず~っと隠れてシコシコとやっとったもんな。
『あ、あのぉ……主?』
もじもじと両手を腹の前で擦り合わせながら、ケイはチラチラとこちらに視線を送ってくる。
リソースを割く優先順位の問題で、ずっとお蔵入りにしとったケイの計画。
セイヤが
「ああ、アリアへの指示を聞いての通り、おまえの趣味を進めるが良い」
『――ぃやったぁ!』
と、ホロウィンドウごと跳びはねて、ケイは喜びを表現する。
『では、ボクもさっそく取り掛かります!』
そうしてケイもまた謁見の間を去って。
妾は最後に残ったホロウィンドウに視線を向ける。
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