第20話 大会1日目:団体戦準決勝②
「次は準決勝第2試合!A組対B組です!予選で見事な連携プレーで勝利したA組とランドルト選手主導のB組、勝つのはどっちだ!?」
また私たちの番だ。
「よーしじゃあみんな頑張ろう!」
「おお!」
「それでは始め!」
「おーとアゴーニ選手、あの剣はなんだ!?…」
まずアランが斬り込む。それは予選と変わらない。ただ違うのは…
「…剣が青白く光っているぞ!!」
これが昼休憩で言っていた"あれ"である。そのままアランがランドルトへと突進する。
「アクアウォール」
ランドルトがアランの変化に若干驚きながらも水の壁で防御する。だがアランはそれに構わず壁に斬り掛かる。
バァァーーーン!!!
「なっ!!」
ランドルトと、ついでにアランも吹っ飛んだ。
「今度はなんだ!?水の壁が爆発したぞ!!」
「何がおきてるの!?」
「わかんないよ!」
「正直私も非常に混乱しております!」
会場は混乱の渦だ。だが実際のところはなんてことは無い。単純に水がアランの剣で熱され蒸発し、気体になるときに急激に膨張して水蒸気爆発が起きたのだ。ちなみにこうなることはアランも私も織り込み済みである。
「一体何が起きているんでしょうか!?そもそもあの剣は?魔法具の使用は禁止のはずだ!」
「いや、あれは大丈夫だ!」
「え?ってロペス先生!?なぜここに!」
「いやーすまんすまん、試合見てたら口出ししたくなっちまった!俺は解説ってことで!」
「え…そ、それでは解説のロペス先生、あの剣が大丈夫と言うとどういうことでしょうか?」
「あれはな、アゴーニが自分の魔力を剣に付与して使ってるんだ」
「付与…ですか?魔法を纏わせるのとは何か違うのでしょうか?」
「魔法を纏わせるだけだとな、攻撃範囲は広いが威力は今ひとつだ。それなら普通に攻撃した方が速いって言うんであまり使うやつはいねえ。だがな、付与の場合魔力を剣の表面に極限まで凝縮させる分、範囲は剣に触れた範囲だけだがその力は絶大だ。実際剣が赤じゃなくて青白いのはその分炎の温度が高い証拠だ。だからもちろん不便はあるが、普通の攻撃魔法との明らかな差別化ができて、戦略も広がるってわけだ!」
「なるほど…さすがは先生、お詳しいです!」
「いや、俺はなんもわかってなかったぞ?今のはベルナールが言ってたことそっくりそのまま言っただけだ!」
「え、もしかしてあれベルナール選手が考えたんですか!?」
「そうなんだよ!俺は特許でも取れるんじゃないかってベルナールに言ったんだけどよ、再現性が低いだの先行研究がなんだの言われて断られちまった」
「な、なるほど…で、では先生の解説が入ったところで改めて試合の実況に戻りましょう!現状はランドルト選手がダウンはしていないものの動けないでいる!その間残りの4人が魔法の撃ち合いだ!」
B組の2人はランドルトを庇いつつ走り回って私たちと距離を置きながら攻撃魔法を撃ったり、壁を張ってランドルトを守ったりしている。恐らくアランやジークによる特攻や、予選で見せた私の"洪水"を警戒しているのだろう。
ちなみにランドルトは意識はあるようだが、うずくまって動かない。一方アランはだいぶ吹っ飛ばされ体制を整えるには若干時間が必要そうだが、大して怪我はしていないようだ。ここでアランの魔法抵抗の高さが顕著に出ている。もう一度言うがちゃんとアランの了承は得た。ほんとだぞ。
とはいえこの
「ジーク」
「ん?」
ここでジークに1つ手振りで指示をだす。ジークは意味を理解したようだ。
「あいつら迎撃するだけで全然動かないぞ!」
「俺らの魔力切れ狙ってるのか?」
「そうかもな、でもそれなら先にランドルトが起きそうだ!」
「よし、このまま持ちこたえるぞ!」
「とりゃ!」
「うわあああ!!」
「おいどうした!?……なっなんでお前が!!だってお前……」
「おおっと!B組スミス選手、突如真横に現れたジーク選手に剣と風魔法で倒されてしまった!しかしこれまたどういうことだー!?」
「……なんでロバンが2人いるんだよ!?」
「ハハッ!やりやがったなあいつ!」
「どういうことですかロペス先生!?」
「あれはな!……
私は先生の方を見る。
……あーダメだ、ベルナールに口止めされてるんだった……まあ誰も気づかなかったら大会後にでも教えてやるよ!てか本人に聞け!」
「口止めって……まさかまたベルナール選手ですか!?……なんだかよく分からないが凄いぞベルナール選手!」
実況適当か、と思いつつ私は放心状態のもう1人に例の"洪水"をお見舞する。
「くそーー!!」
「B組今度は場外!残るはランドルト選手だけとなった!」
「くっ……申し訳ありません御二方……」
ここでランドルトが起きてきた。
「……アクアランス!!」
「ランドルト選手の最大火力の槍が炸裂!A組凌げるか!」
ここでランドルトのアクアランスが炸裂する。本気なのだろう、魔法陣は予選の倍の40個もある。
「アクアウォール」
「えい!」
私は水の壁で自分を、ジークは風の結界で自分とアランを槍からガードする。
「くっ……」
が、槍の多さと攻撃特化の極闇傾向が
「カナ大丈夫!?」
「平気!」
ここでアランが再びランドルトに特攻する。ランドルトは先程の爆発がトラウマなのか恐怖した顔で、水の壁は使えないからと一生懸命何か考えている。だが、ここでは一瞬の迷いが命取りだ。
「これで終わりだ」
バサッ!!
「グハッッ!」
「アゴーニ選手の一撃によりランドルト選手ダウン!勝者A組!!」
ワァァァーーーー!!
会場は歓声の嵐だ。
「よっしゃ決勝進出だ!!」
「やった!!」
「うん、やったね」
「カナ、アラン、怪我大丈夫??」
「私は衝撃は来たけど、怪我はほぼしてないから平気」
「俺もこのくらいへっちゃらだぜ!」
「良かった!でも一応治しとくね!」
そういうとジークは私たちに手をかざし、治癒効果のある風をだす。するとかすり傷がみるみる消えていく。さすがは極光傾向だ。
「にしても作戦上手くいったね!アランの剣とカナのえーとくっ…くっ…なんだっけ?」
「屈折ね」
「あ、それそれ!」
そう、先程の試合でジークが2人見えた現象、あれは水による光の屈折と反射によるものである。
実はこれを思いついたのは魔法演習での自由発表で、噴水で虹を見せたときである。
細かい説明は省くが、虹というのは空中にある雲や霧、噴水の水しぶきなどの水滴に当たった太陽光が屈折・反射して、その際光の色(波長)ごとにどれくらい屈折するか(屈折率)が違うため色が分かれて7色に見える現象だ。
てっきりこれは先生はもちろん生徒も知っている、それか少なくとも「屈折」というワード位は知っていると思っていた。だが何となくクラスメイトや先生に虹ができる原理を聞いてみたら、そもそも「虹ができるのに理由(原理)なんてあるのか」と言われてしまった。
これから分かることは、私が、ないしは前世の世界の人間が持っている基礎的で科学的な知見は、魔法で全て解決してきたこの世界の住民にとっては未知のものであり、それをうまく生かせれば試合でもそれ以外でも優位に働けるということである。前に物理法則ガン無視だと思ったことは訂正しよう。むしろ物理法則によって魔法を制することすらできるかもしれない。
その結果編み出したのが、光の屈折・反射による幻覚だ。いや、水自体は幻ではないので錯覚という方が正確だろうか。水による屈折で光の加減を調節するには水の形か密度を細かく調節する必要があり、前世ではほぼ不可能だったが、こっちには魔法がある。どのみち大変であることに変わりないが、何とか魔術大会までに形にはできた。
まあ原理についてはそのうちバレる気もするが、一応この一連の話を説明したロペス先生には詳しいことは黙っておいて貰うことにした。
「それでは決勝は今から1時間後です!それまではダンス部と吹奏楽部による発表をお楽しみください!」
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