6 「夢の一人暮らし」

会社は日比谷だが、俺は中目黒に住んでいる。


日比谷線で一本。


だが移動手段は基本的にタクシーだ。


自分で運転することもあるが、飲みの誘いも多いからタクシーが一番楽。


俺としては電車通勤でもいいが、「雷門家の息子が電車に乗るなんてカッコつかない」という理由で、社長からタクシーに乗れと言われている。


社長の息子は「皆の憧れ」でなくてはならないのだ。


仕事もこなして、後輩の面倒見もよくて、良い服を着て、美味しい食事をとって、隣に美女がいる。


本当の俺は何なんだろう?


自分は何になりたいのか、本当は何を求めているのか、俺にはもう分からなくなってしまった。


俺と帝翔は中目黒が地元だ。


一人暮らしをした方が女を連れ込めると思って、実家を出たのは高校卒業してすぐの19歳。


妹が入り浸って、気付いたら荷物も増え、結局転がり込んできた。


というわけで、俺の一人暮らしの夢は叶わず、妹と二人で6年暮らしていた。


妹が大学を卒業すると、雷門グループに入社したが、東京本社ではなく、沖縄にある支社に配属された。


これは本人の希望だった。


雷門家に生まれた以上、一度は雷門グループに入社するのは絶対。


それが雷門家の昔からの決まりだ。


だが妹はどうしても本社で働きたくなかった。


本社には、妹がこの世で一番嫌っている帝翔がいるからだ。


こうして妹は沖縄に引越し、俺は4年前から中目黒のタワマンで、無駄に広い部屋に一人で暮らしている。

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