5 「言えない病気」



「聖也、俺ってイケメンか?」



マリアにラインを返し終えて、コーラを飲んでいたら、帝翔に突然話しかけられた。


何言ってんだコイツ。


俺に声かけたってことは、もう機嫌は直っているらしい。



「は? いきなり何?」


「俺ってイケメンか?」



幼稚園の頃からずっと見てるが、帝翔は昔からモテている。


嫌味か?



「まあ...顔は良いよな。内面に問題はあるけど」



外見しか見ない女には、コイツはモテる。


デリカシーがなくても、リードすることが出来なくても、顔が良いだけでモテている。


彼女が出来ないのは、帝翔の理想が高いだけだ。



「帰るわ」


「は?」


「帰る」



頼んでいたラーメンが席に運ばれたタイミングで、帝翔は立ち上がった。


本当に帰る気だ。



「もやしラーメンは?」


「俺の食べていいよ」



テーブルには俺が注文したチャーハン&半ラーメンセットと、帝翔が頼んだもやしラーメン定食が並んでいる。



「食えるか、この量!」



高校生の頃なら食べれたかもしれない。


だが今はアラサー、一人で食べ切れるわけがない。


帝翔は不満そうに座り直して、ラーメンを食べた。



「俺が笑ったこと、怒ってんのか? それとも、内面に問題あるって言ったことを怒ってんのか?」



確かに俺が悪かった。


が、こんなことで会社を早退するなんて。



「いや、怒ってない」



「怒ってる?」と聞くと、女は怒ってても「怒ってない」と言いがちだが、こいつは男だ。


そんな不毛なことは言わないだろう。



「今日はもう帰りたい」


「小学生の頃から皆勤賞のお前が早退って珍しいな? 体調悪いのか?」



心配になってきた。


熱でも涼しい顔で学校に来ていた帝翔が、帰りたいだなんて。


彼は少し考えた様子で、次にこう言った。



「実は十年前から患ってる」



俺は箸を落としてしまった。


病気?


帝翔が病気?



「な、なんの病気なんだ?」



俺は怖くなった。


ずっと一緒だった帝翔が、いなくなってしまうかもしれない。



「聖也、それは言えない。言えない病気なんだ」



そう言って帝翔はラーメンを勢いよく食べた。


その姿は元気そうだが、そもそもこいつが体調悪そうにしているところを見たことがない。


熱が出てても、普段と変わらず喋れる男だ。


見えないだけで、本当に体調が悪いのかもしれない。


帝翔は俺の新しい箸を店員に頼んでくれた。


が、俺は食べられずにいる。


病気...本当に?


親は知っているのか?


言えない病気ってなんなんだ?



「じゃ、俺帰るから。早退するって皆に伝えといて」



ラーメン定食を食べ終えた帝翔は、茫然自失している俺を置いて、店を出て行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る