2 「ハーレム」


「童貞! 昼メシ食いに行こーぜ!」



飲みに行く相手は毎回違っても、昼メシを食う相手はいつも一緒だ。


秘書課の課長、明堂帝翔(みょうどうていと)。


帝翔とは幼稚園の頃からの幼馴染だ。


黒髪で前髪は少し長め。


黒スーツで毎日同じネクタイ。


芸能事務所に入っていると言われてもおかしくないくらい、男から見ても顔が整っている。


この顔で童貞なのだ。



「童貞って言うな!」



基本は無表情でクール系に見られがちだが、幼稚園の頃から一緒にいる俺にはそうは見えない。


感情が顔に出やすくて、わかりやすい男に見える。



「うっせぇ童貞!」



息子の幼馴染だから、というの関係なしに、社長に実力を買われて課長に昇進した帝翔。


ただ、思ったことをすぐ、オブラートに包まずに言ってしまうので、後輩にはあまり好かれない。


メンタルが弱い者は、帝翔と仕事しただけですぐに辞めてしまう。


それでも顔は良いから、女性社員には他部署からも人気がある。


気付けば秘書課には、帝翔と気が強い女達で、プチハーレムが作られていた。


しかもこの秘書課の女達は美人揃いだ。


美人じゃないと、他の女達にいじめられる。


仕事が出来なくてもいじめられる。


才色兼備で自己肯定感の高い女でなければやっていけない。


側から見れば地獄のような部署だ。


俺はいつもこうやって帝翔に童貞いじりをするのだが、秘書課の美女達は何も反応を見せない。


「幼馴染だからふざけ合っているのね」とスルー。


帝翔が童貞だろうがなかろうが関係ない。


最後に選ばれるのは自分だと信じて、この地獄の部署を生き抜いている。


そして、こんなに美女揃いなのに、誰にも関心をもたないのが帝翔だ。


だからこのハーレムは一応、平和を保っている。

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