21 「珍しい名字」


「それにしても、聖(ひじり)って名字珍しいですよね」



俺は話題を変えた。



「ですね。でも、下の名前がマリアだし、結構いじられるから、自分の名字嫌いなんです」



確かに、聖+マリアは狙いすぎてる感があって嫌かもしれない。


顔が綺麗だったことがまだ救いだ。


名前負けしていない、美しい女性。


映画「マスク」のキャメロン・ディアスばりにセクシーだ。



「俺と結婚したら明堂マリアになるから大丈夫ですよ」



一瞬だけ時が止まった。


思ったことをすぐ口にしてしまうのが俺の悪い癖だ。



「とりあえず落ち着け」



聖也が呆れたように言う。


顔から火が出る思いだ。



「帝翔、そろそろ帰りな。あんた酒弱いんだし。明日も仕事でしょ」



母さんが笑顔で言うが、目は笑ってない。


酒は強い方だし、まだ滞在時間1時間も経っていない。


強制的に帰そうとしてるのだ。



「帝翔さん、どこに住んでるんですか?」



マリアが俺に話しかける。


俺に興味を持ってもらえたのが嬉しい。



「武蔵小杉です」


「え! 私も一緒! どの辺ですか?」


「えっと...ここです」



スマホの地図でマンションの場所を検索して、マリアに見せた。


彼女は興奮して叫ぶ。



「うそ! 私の家、向かいです! このマンション!」



言われなくても知っている。


仕事終わりのマリアのあとをつけたのだから。


マリアが住んでるマンションを知ってから、今の部屋に引っ越した。


一人暮らしなのに無駄に1LDK、家賃15万2千円。


地元に比べたら安いが、1K、もしくはワンルームで十分だ。


こだわりも何も無いから、安さ重視でボロアパートでも俺は住めただろう。


というか、中目黒に実家がある時点で、わざわざ一人暮らしはしない。


これもそれもマリアの近くに住みたかったからだ。

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