19 「騙されやすい男」


「へえ、帝翔が女の子を気に入るなんて珍しい。これも何かの縁だし、いま連絡先交換すれば?」



聖也がナイスなアシストをする。


やはり持つべきものは友だ。



「帝翔は良い男だぞ。イケメンだし、高学歴だし、金は持ってるし」



聖也は思いつく限りのことを言って、俺の株を上げる。



「それに、こう見えて童貞だし。ガード固いから浮気する心配なし」



聖也!


童貞は長所のうちに入るのか?!



「聖也! ちょっとこっち来い!」



俺は聖也を椅子から立たせる。


腕をつかんで、入口のドア付近まで引っ張った。



「童貞って言うな! 何で言うんだよ!」


「だって童貞じゃん」


「だからって言うなよ!」


「見栄張ったってしょーがねーだろ」



聖也は童貞じゃないから童貞の気持ちがわからないんだ!


二十八にもなるのに、まともに経験がない男の気持ちが!



「俺が童貞なのは、初恋の人に未練があったからだ! その初恋の相手が目の前にいるんだから見栄張ってもいいだろ!」



聖也は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして俺を見る。


そして何かを考えるように少し黙ってから口を開いた。



「わかった。俺が悪かった」



聖也は謝る。


不満そうなのが気に入らないが、喧嘩してもしょうがない。



「俺には元カノがいたって設定にするから...聖也は余計なことを言わないでくれ!」



聖也の手を握って懇願する。



「いいけど...でもこんな近くで、そんな大声で話してたら、多分マリアに丸聞こえだぜ」



言われてハッとした。


店は俺達以外ノーゲス。


洋楽が流れているが、それ以外はしんとしている。


カウンターの方を見ると、俯きながらグラスを拭いている母さんと、同じく俯きながらスナック菓子を食べているマリア。



「マリアさん、今の話聞いてました...?」



俺が聞くと、マリアは顔を大きく横に振った。



「いえっ、全然! 何も!」



彼女は、ぼーっとしていたから何も聞いてないと言う。


よ、良かった。

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