18 「俺のマノンに会いたい」


昔から読書が好きで、図書室から本をよく借りていた。


何気なく借りた一冊の本、マノン・レスコー。


内容は、一人の真面目な青年が、一目惚れした美少女に振り回されて破滅していく話。


人生を狂わされる程の美少女に会ってみたいと思った。


主人公が親友や父親にとめられても、それでも突き進む愛に憧れた。


読み終わってから、貸し出しカードを出し忘れていたことに気付く。


今はどうなっているのか知らないが、俺の高校時代は貸し出しカードという紙が本の最後のページに入っていた。


本を借りる時、貸し出しカードにクラスと名前を記入して、図書室の受付に提出しなければならなかった。


俺の前に借りた人の名前に目が止まる。



『1年B組 聖マリア』



本名にしては神々しい名前だ。


最初は誰かがふざけて書いたのだと思った。


それから数日後...。


生徒会室に向かう途中の廊下で、「せいマリア様!」と叫ぶ男子生徒。



「もー! 『せい』じゃなくて『ひじり』だってばー!」



そう答える女子。


...なるほど、あれは『ひじり』と読むのか。


珍しい名字。


明堂も珍しい方だが、俺より珍しいのでは?


顔を見てやろうと思って、俺は聖マリアの方を向いた。


そして一目惚れしたのだ。


シュヴァリエ・デ・グリューがマノン・レスコーに心を奪われたように。



「廊下で見かけて、美人だなって。それで、連絡先交換したいなと思って中庭に呼び出したんですけど...頭が真っ白になって...逃げてしまいました。ごめんなさい」



俺は正直に話した。


目を合わすことはまだ出来ないが、もう二度と同じ後悔はしたくない。

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