14 「足りないもの」


「そんなことない。女には興味がある。イケメンな俺に見合う女がなかなかいないってだけで」



母さんは頭を抱えた。



「はあ...なんでこう、私の息子は二人ともナルシストなんだか。女を見下してるところ、お父さんにそっくりよ」



あんな典型的モラハラ夫な父親と一緒にしないで欲しい。


それに、母さんのことを俺は別に見下してない。




「いいなって思う人はいるの?」


「いる」


「え! どんな人?」


「一言で言うと白ギャル。化粧は濃いめ。可愛いより美人系。身長は160後半くらいかな。胸の大きさは普通」


「... キャバ嬢か何か?」


「いや、アパレルの店員」



母さんは俺を疑うような目で見る。



「服に興味ないあんたが? そのジャージやめろって言ってんの。恥ずかしい」



母さんはカウンターから出てきて、俺のボロボロのジャージの上を脱がす。



「まずは服装から変えた方が良いわよ。こんなだっさいTシャツもやめて」



ジャージの中に着ていたロンTまで馬鹿にされる。


「ちゃーがんじゅう」という文字と、シーサーの絵がプリントされたTシャツ。


聖也から沖縄のお土産で貰ったものだ。


一枚貰ったら気に入ってしまい、聖也が沖縄に行く度に、Tシャツを買って来てくれとお願いしている。


気付けば何枚も沖縄方言Tシャツを持っているが、俺自身は一度も沖縄に行ったことがない。



「服か...確かに、兄さんも聖也も、オシャレにこだわるもんな」



聖也は何年も彼女がいないが、俺とは違う。


彼女が出来ない、というより、あえて作っていない。


金持ちで優しくて、顔もそこそこ良いから、聖也に寄ってくる女はたくさんいる。


その中から一人を選べないのか、誰のことも本気で愛せないのか。


やることはやるが、付き合うことはしない...そんな話をいくつか聞いている。



「俺に足りないのはファッションセンスかぁ」


「他にもたくさんあるけど、まずは服装ね。出来ることから始めましょ」

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