第6話 おしゃれハッカーの誕生(6)
「あ~ん! らにちゃん! このままじゃ、やられちゃうよ。一体どうしたらいいの!?」
「おしゃれハッカーは電波と音波のコントロール、そしてマジカル言語と呼ばれるプログラミングにある……らしいらに」
「らしいってなによ! ぜんぜんわからなーい!!」
なんか急にらにちゃんの頭が良くなってるけれど、これはママがプログラムしたデータの一部をしゃべっているだけ。らにちゃんが意味を理解しているわけじゃない。
「えーと、プログラムされたデータベースによるとおしゃれハッカーは普通の人間が見えないものが見えるようになっているんだらに。さあ、マジカルハッキングであの宝石を奪うんだらに」
「ま、まじかるはっきんぐ? それって正義のヒーローが手からビームを出すような?」
「違うらに! マジカルハッキングとは歌なんだらに」
「う、歌? なんで歌なの? ゲームの呪文を唱えるみたいな?」
「歌、つまり音っていうのは波なんだらに。それに言葉、マジカル言語をつかったマジカルハッキングでニャーちゃんを救うんだらに!」
歌が音の波、つまり音波だっていうことは聞いたことがある。テレビを見たりやラジオを聴いたりパソコンでインターネットができるのは、電波を飛ばしているからだって本で読んだことがある。そんなに詳しいわけではないけれどね。
それにコンピューターを動かしているのはプログラムという機械に命令をあたえる言葉だ。もっとも、マジカル言語なんて聞いたことないけれど。
「で、でも、わたし、歌なんて歌えないよ!」
「そのためのおしゃれハッカーの衣装らに! ニャーちゃんと友達になりたいって気持ちを込めれば絶対にできるらに!」
♪
君の笑顔 守りたいの 子供の頃から大切な夢
それなのに いつからか忘れてた
ふたりの出会いは夢だったの?
忙しい時の中で振り返ることもあるけれど もう届かないの
伝えられなかった想い 傷つくのが怖かった
素直に届けよう aiから始まる魔法の言葉
♪
勝手に胸から口へと言葉が溢れ出てくる。すごい!
女の子もニャーちゃんも手拍子をしながら体を揺らして、ロボットとか人間とか関係なくみんなが一つになる快感でドキドキワクワク。
この力がおしゃれハッカーの力なんだね!
「にゃああああっ~」
すっかり戦意を喪失し、とろけるようなにやけ顔のニャーちゃん。
「ふふっ、この宝石はいただくよ、ニャーちゃん」
一件落着かと気を緩めていると、わたしの背後から手を叩く乾いた音がした。
「素敵な歌だったよ」
「お姉さま!」
「ヒカリ、迎えにきたよ」
この人、ヒカリちゃんのお姉さんなんだ。ボーイッシュな髪形で色が白く、超まつげが長い。おまけに背も高くてすらりとした美脚。モデルさんみたいな小さな顔を見ていると同じ人間とは思えないくらいに美しい。
こんな人が本当にいるんだ……クラスメイトの女の子とはカワイイのレベルが違う。年上かな。品のある黒いセーラー服を着ている。ボタンには四葉のマークがあった、もしかして良家のお嬢様が通う
「ところできみ」
「え、わたしですか!?」
「そのかわいい服は、なにかのコスプレ衣装なのかな?」
ああああっ! 普段とまったく違う格好に変身していたんだった。よりにもよってこの姿を初対面の人に見られるのって恥ずかしい。
「お姉さま、コスプレじゃありませんわ。ヒーローなんです! それも本物なんですよ!」
ヒカリちゃんありがとう。とってもいい子じゃない。
「ははっ、冗談さ。妹を助けてくれてありがとう。実はちょっと見ていたんだ。とってもかっこよかったよ。ところで、おしゃれハッカーっていう言葉は初めて聞いたけれど、きみはハッカーなの? 相棒はとても高性能なマシンみたいだけど」
うーん、どうだろう。コンピューターは好きだけど、それほど詳しいわけじゃない。らにちゃんだって半分以上ママがつくったようなものだし。
「わたしにもわからないんです」
「そうだったのか……あっという間にロボットのプログラムを直してしまうのも見ていたよ。君にはふつうの人には見えないものが見えるのかもね」
「ええっ!! な……なんですかそれ?」
この人、まさかほんの少し見ていただけでおしゃれハッカーの力がわかったの?
「It is only with the heart that one can see rightly,what is essential is invisible to the eye.」
この人はとても知的で、すべてを見透かすような瞳をしてる。
「どういう意味ですか?」
「サン=テグジュペリの本、星の王子さまの一節さ。簡単に言えば『大切なことは心で見ないと目に見えない』って意味だよ。僕の好きな言葉さ」
うわぁ、やっぱりこの人とっても頭が良いんだ。おまけに英語の発音も外人みたい。四葉の生徒はすごいね。
「お姉さま……そっちのお姉ちゃんはね、ママのネックレスも直してくれたんだよ!」
「妹のヒーローなんだね。だけど、きみはこれ以上首をつっこまないほうがいいよ」
さっきまではとっても優しかったのに、なんだか少し棘のある言い方。
「それって、どういう意味なんですか?」
「ごめん。ちゃんと説明しないと納得できないよね。妹のお礼もあるし教えるよ。隠すようなことでもないからね。現在、大量に不法投棄された高性能コンピューターやロボットを使って悪さをしようとしている人間がいることがわかっているんだよ。さっきみたいな小さなイタズラから大きな事件までね。僕はそれを解決する手伝いを警察にお願いされているハッカーの一人なんだ。これでも一応、警視庁システムアシスタントマスター、なんてめんどくさい肩書もあるんだよ」
よくSFでロボットが人を襲うなんてお話があるけれど、やっぱり一番怖いのは人間ということなのかな。捨てられたロボットを使って悪さをしている人がいるんだ。
「わかるかな、きみはとっても危険なことに首をつっこもうとしているんだ。僕はみんなを守りたい。誰かが傷つくのはいやなんだ。妹の恩人ならなおさらね」
とっても正義感が強くて真面目な人なんだ。かっこいい。
「でも、それって、人もロボットも不幸になるってことですよね……」
「そうだね……」
人間がロボットを捨てるから、人間の社会も壊れるっていうことなのかな? 動物の生態系と同じじゃない。いや、ちょっと違う、悪さをしようって奴がロボットを利用しているんだ。とってもズルい。
「わたしも謎を解明したいです! 何が起こっているのか、もっと知りたい!」
「子供がたった一人でここまでつきとめるだけでも大したものよ。だけど、もうやめた方がいい」
この人はばっさりとわたしの願いを断った。
「そんな、あなただってわたしとそんなに歳は変わらないじゃないですか!」
あ、しまった、ちょっと生意気だって思われちゃったかな。
「強い想いがあるんだね……。そこまで言うのなら、僕にきみの実力を見せてくれないかい」
「実力?」
「今夜9時、四葉町の宝石店をロボットが襲う。あとは自分で謎を解き明かしてごらん、それができたら僕もきみの力を認めるよ。逆にこれができなければやめた方がいい。それがきみのためだ」
それだけ言うとヒカリちゃんの手を引いて校門へと歩きだした。
「待ってください! お姉さま! なんでそんな冷たいことを言うのですか?」
「ヒカリ、これはあの子のために言っているんだよ」
ヒカリちゃんたら振り返って心配そうにわたしのことを見てる。お姉さんに似て優しい子なんだね。
「ヒカリちゃん、また遊ぼうね!」
「ありがとう! お姉ちゃん! ぷにちゃん! またいっしょに遊んでね!」
実はさ……もし幽霊がいたらママに会えたかも、なんてこころのどこかで思っていた。 論理的に考えてありえないけれどね。幽霊はいなかったけれど、調査してよかった!
これからもヒカリちゃんと気持ちよく遊ぶために事件を解決して、あの人からも認めてもらわないとね!
それに、ロボットを悪いことに使うなんて本当に許せないもん!!!
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