おしゃれハッカーの世界デビュー

第7話 おしゃれハッカーの世界デビュー(1)

「マナちゃん! ボクはマナちゃんが心配らに~」

 らにちゃんに頼んで元の姿に戻してもらったわたしは、自分の部屋で今夜の作戦会議をしていた。

「これまでのことを整理するわ。らにちゃん、おしゃれハッカーってなんなの? あれはどんな技術?」

「ボクにもわからないらに。ただ、ボクにプログラムされていただけなんだらに」

 そうなのよね。何回聞いても同じ答え。つまり、わかっていることと言えば、おしゃれハッカーの姿にはらにちゃんの力でなれるということだけ。そして、あの姿になれば悪さをしているロボットをマジカルハッキングというもので元に戻して友達になれるということだわ。

 ただ、元に戻す条件というのがまだイマイチわからない。悪さをするロボットはみんなネックレスをしているのかしら? これはわからないわ。そもそもプログラムっていうのは機械の中のことで目に見えたり、つかんだりできるものじゃないはずないのに……。


 手の中に真っ赤に燃えるような宝石が確かにある。夢じゃないんだよね。

「あ~あ、ママが生きていたらいろいろ相談できたんだけどな」

「愛花! 夕飯の支度が出来たよ!」

 パパの声だ。壁にかかったアナログ時計の短針は7時を指している。

もう夕飯の時間なのか。放課後に出会ったお姉さんの名前ってなんなのかしら? 相手が信用できない人だったら、たとえイケメンだろうが美少女だろうが絶対についていかない。

 でも、妹のヒカリちゃんはとっても礼儀正しい良い子だったし、ヒカリちゃんのお姉さんも悪い人じゃなさそうだった。だから、わたしはあの人の言うことを信用してみても良いかなって思っている。

 いいえ、それだけじゃない、新しいナゾを解明できることにワクワクしているんだ。宝石店を襲う強盗を捕まえるなんて楽しそう!

 ただ、パパは絶対に反対するだろうけれどね。夜中に出かけるなんてパパが許してくれるわけないから、こっそりと家の中から抜け出す必要がある。けれど、わたしって嘘が苦手だからすぐにバレちゃうだろうな。どうしよう。

「あれ?」

 階段を下りてみると、テーブルにはわたしの分のお料理しか並んでいなかったの。

「今日は山田さんの牧場でマーガレットの赤ちゃんが産まれるんだ。だから泊まりがけになるけど、愛花はちゃんとお留守番ができるかい? 寂しかったらパパの携帯に電話をしてくれればすぐに出るからね。あ、そうだ、おじいちゃんかおばあちゃんを呼ぼうか?」

 マーガレットって山田さんの飼っている馬の名前。そうか、赤ちゃんが産まれるんだね。それにしても、パパったらいつまでもわたしを子供扱いしてる。

 うちはママがいないしパパも忙しい。だから、ひとりで留守番をすることは他の子よりも多いと思う。小さい頃はとっても寂しかった。

 わたしが、らにちゃんを開発したのだって、ロボットが好きなだけではなく、ひとりでいることが寂しいからっていう理由もあるんだよね。もっとも、開発できるくらい大きくなるころには寂しさに慣れていたし、プライベートの時間を楽しむようにもなっていたんだけれどさ。

「山田さんの牧場は車で1時間くらいでしょ。わたしも行ったこともあるし、平気よ。それに、わたしはもう5年生なんだよ。いつまでも子供じゃないもん」

「うぅぅっ、愛花は本当に大きくなったんだな、嬉しいような寂しいような」

 ラッキー、これでこっそり家を抜け出してもバレないや。なーんて、わたしが考えていること、パパは想像もしていないだろうな。

「そういえばさ、おしゃれプログラムって何か知っていたら教えて欲しいんだけど」

 椅子に座ってパパの作ったやたらと具が大きなカレーライスをスプーンで口に運んだ。パパが出かける時は大抵カレー。お腹が空いたらわたしが温めて簡単に食べれるよう、カレーにしてくれているらしいけれど……単にパパの好物のような気もする。

 うーん! 何度食べてもやっぱり美味しい! ママがパパを口説き落とした伝説のカレーだけのことはあるわね!

「おしゃれプログラム? ファッションのことはわからないな。学校で流行ってる服のことかい? 化粧ならパパはまだ早いと思うぞ。そんなことしなくたって愛花はママの娘だから美人になる! 保障するぞ!! おまけに動物好きで今日はネコをひろってきたな! パパに似て嬉しいぞ!」

 ネコじゃなくてネコ型のロボットなんだけれどな。ま、いいか。

「ニャーちゃんのことは許可してくれてありがとう。でも、おしゃれプログラムって、そういう意味じゃないよ」

 パパなら何かを知っていると思ったんだけどな。って、なんでパパったらそんなことくらいで落ち込んでるのよ。わたし、酷いことを言ってないよね!?

「パパ、それより、お仕事がんばってね。元気な赤ちゃんが産まれるの楽しみにしているんだから」

「うん! 仕事のことは任せておきなさい!」

 パパったらお薬や注射器の入った仕事用の鞄をトランクに詰め込んだら、白衣のまま車に乗り込んでしまった。獣医さんは犬や猫だけじゃなく、馬や牛、魚から鳥までいろんな生き物のことを勉強しないといけないからとっても大変なのだそうだ。海外では人間のお医者さんになるより動物のお医者さんになる方が難しいという話も、身近にいると納得できる。


「獣医さんってかっこいいよね」

 見送ったパパのミニバンは高級車じゃない。だけど、とってもかっこよく見えるの。

「そうらにね。マナちゃんはみんなに優しいから獣医さんも似合うらに!」

「う~ん、でも勉強はあんまり得意じゃないんだよね」

 獣医か……わたしには無理じゃないかな。決めつけるのは良くないと思うけれど、少しずつ現実のようなものがわかってくる。特別な才能の持ち主でなくても努力をすれば夢は叶うの? そんなことを考える子供と大人の中間地点。

「ニャニ柄にもなく落ち込んでるニャ」

 ニャーちゃんが足にまとまわりついてきた。もふもふの長毛種の猫ロボット。汚れたモップみたいだったニャーちゃん。変身を解いたわたしは連れ帰ってすぐにペット用シャンプーでニャーちゃんを洗ってあげた。そしたら見違えるようにキュートになったんだよね!

「えへへっ、なぐさめてくれるんだ~なによ! いいやつじゃん。ニャーちゃんありがとう」

「ニャ! 抱きつくニャ! こ、これはそうプログラムされているだけニャ!」

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