第25話 約束


2年生になってからもう1ヶ月が過ぎようとしている。

早い。早すぎる。

体感時間は1週間くらいだ。

最初は友達が出来るか心配だったが何だかんだ一緒にいれる人は出来て、伊吹さんとも普通に学校でも話せる。

まぁ多少何でこいつが伊吹さんと一緒に居るんだよという視線を感じることはあるが、特に何かされる訳でも無いので気にしないようにしている。


「はーい。じゃあもうすぐ中間テストだから勉強をしておけよ」


時間の早さを感じていると先生の話が終わりを迎えていた。

テスト。

去年のこの時期は受験が終わり燃え尽きていて散々な結果だった。

そしてスタートを失敗してしまいあと少しで留年する所だった。

なので今回のテストは最初から真剣に受けると決めていた。

しかして実際テスト期間に近づくとめんどくさいという気持ちが大きくなる。


「めんどくせぇ」


人は簡単には変われない。

俺は誰にも聞こえない声で小さく呟く。


ガン!

俺は小さな声で言ったのに後ろの伊吹さんから足を蹴られる。


「何だよ」


「聞こえてるよ」


何でこの人はこんなに耳が良いんだよ。

おかしいだろ。


「地獄耳じゃん」


先程より小さな声でもう一度呟くと再び足を蹴られる。



昼休みになり少し遅れて細川たちの所に向かう。


「おい彩斗。お前去年留年しかけたのかよ」


みんながいる場所に行くと細川が大笑いしながらな俺にそう言ってくる。

何で知ってんだよこいつ。


「何で知ってるんだよ?てかそんな笑うな」


「彩斗って馬鹿なんだ」


「シンプルな罵倒やめろ」


綾川がシンプルに煽ってくるのでそれにツッコム。


「そうなんだよ。彩斗って歌上手いのに勉強出来ないんだよなー」


桜井の悪意のない発言が俺の心に刺さる。

人には向き不向きがありまして。

てか何で留年しかけたこと知ってるんだよこいつら。

俺は冷静にそう思いチラッと菜々美の方を向く。


「違う!私何も言ってないですー」


何?という事は伊吹さんなのか?

そう思い伊吹さんの方を見ると一瞬こちら向いてすぐにご飯を食べ始める。

あ、これ伊吹さんが言ったわ。

やはりさっきの小言の返しをされている。


 

「今回はどうなの?」


菜々美が少しだけ心配していそうな表情でこっちを向く。


「いや今回は」


俺がそう答えようとしたら「あ!和真から連絡来た。じゃあ私行ってきマース」と言い教室から出て行った。

本当に最後まで俺の話聞いてから行けや。と思うが俺は口に出さずにご飯を食べ始める。

しかし菜々美の質問の答えが気になったのか伊吹さんが同じ質問をする。


「で?今回はどうなの?前より悲惨じゃないでしょ?」


最後の一言いるか?と言う気持ちを抑えて俺は言う


「最近は家でも日頃から勉強してるし前よりは大丈夫」


「なら良いけど」


「綾川と細川は大丈夫?余裕なのか?」


俺がそう聞くと細川は「いやー?まぁ」と曖昧に答える。綾川は「私は普段から勉強してるし。大丈夫」と答える。


「てか桜井はどうなんだよ?お前こそ大丈夫なのか?」


細川が何故か少し慌てて桜井に聞く。


「まぁ俺は今回も30位くらいじゃね?」


「30位、だと」


細川がその答えを聞くと絶望したような顔になる。

桜井は決して頭が良いという印象は、普段の振る舞いを見ていると感じられないのだが実は相当勉強が出来る。


「彩斗が俺より下で良かった」


「おい!」


「ワハハ!お前らも頑張れよ」


余裕の顔をする桜井に普段とは違う感情を持つ2人になった。


「じゃあ勉強会する?」


俺と細川を見ながらそう聞くのが綾川だ。

それを聞いた細川は席を立って声を出す。


「したい!勉強会しようぜ!」


細川が急に元気になる。


「伊吹さんはどう?」


「まぁ私は良いけど」


伊吹さんは綾川にそう聞かれると即答でOKを出す。


「学年1位に勉強教えて貰えるなら安泰だぜー」


細川が急に調子に乗り始める。

その後もトントン拍子で話は進んで行く。

そして日時は来週の土曜に決まる。

まぁそれは良いテスト直前だしな。


「何で俺の家なんだよ」


「だって一人暮らし何だろ。それ聞いたら彩斗の家しか選択肢無くなるだろ」


伊吹さんも一人暮らし何だけどという視線を一瞬だけ伊吹さんに送るが私の家は絶対無理と力強い視線を送られる。


「まぁ別にいいけどさー」


流石に一人暮らしの伊吹さんの家に上がるのは申し訳ないので俺の家での勉強会を甘んじて受け入れる。


「じゃあ決まりで!」


そうして勉強会は俺の家で開催されることになった。

 



 


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虐待を受けていた俺が失っていた青春を取り戻すまで。 @yuuki635

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