第17話 距離感

和真と別れ普段通る道になり、携帯をポケットから取り出し電源ボタンを押すと画面が光らない。

ん?何でだ?

何故つかない?と思い電源ボタンを長押しすると充電切れです。というマークが出てきた。

マジかよ。さっきまで電池無かったっけ?

おかしい?壊れてたら最悪だ。と思いながら家に帰った。



家に着くと和真が野球部を辞めないと言ってくれ、再び安堵した気持ちになった。

だけど何か引っかかる。

何故かそんな気持ちも同時に感じていた。

しかし特に心当たりが無いので深く考え無かった。

玄関を開けていつも通り鞄を部屋に置き、リビングのドアを開けた。

すると見た事無い表情の伊吹さんがこちらを見ていた。

あ!やべぇ。

一瞬でさっきまで引っかかっていた事が、何なのか理解し背中から変な汗が出てきた。

そして伊吹さんと目が合うといつもと同じ言葉を言ってきた。


「おかえり。池田くん」

 

しかしいつもは含まれていない怒気をものすごく感じる。

伊吹さんの背中から変なオーラが溢れているかと錯覚するほどに。

 

「あの。これには深いり…」


「まず言うことがあるよね」


俺の言葉を遮って伊吹さんが言ってくる。

怖い。怖いよ伊吹さん。

俺の頭の中は伊吹さんが怖いという感情でいっぱいだった。


「まず言うことがあるよね」


俺が黙っていると同じ事をさっきより怒気を含んで言ってくる。


「ご飯を準備をしてくれているのに連絡をせず、本当にすみませんでした」


俺は心を込めて謝罪する。

何秒か頭を下げていると伊吹さんは「何で遅くなったか説明して」と理由によっては、どうなるか分からないみたいな雰囲気で言う。

俺はその圧に思わず唾を飲む。



俺はさっきまであった事を嘘偽りなく伊吹さんに話した。

すると「まぁその理由なら許すけど」と言ってくれた。

良かったと心の底から安堵する。


「でも。本当に心配したんだから。電話しても出ないし」


「悪い。今後は絶対に無いようにします」

 

俺がもう一度謝罪すると、伊吹さんは料理を温め直してくれて、ご飯を食べた。




そろそろ春休みも終盤になり憂鬱な気持ちになっていると和真から『3日後桜祭り行かない』と連絡が来た。

何で俺?菜々美と行けよ。


「菜々美と行けよ。俺お前らのイチャイチャの横で桜を見る趣味は無い」


『そんな趣味は無い事は知ってる。菜々美が伊吹さんと行きたいと言ってるんだよ』


「なら伊吹さんに直接誘えよ」


『菜々美も俺も伊吹さんの連絡先持ってなくて』


「伊吹さんを誘うのは良いけど。俺は行かんぞ」


『何でだよ』


「前野球場に一緒に行って目立ちまくったし。在らぬ噂を言われてるみたいだし」


『別に気にするなよ』


「和真は感じた事無いから分からないと思うけどな。殺意の視線を不特定多数から感じるのは怖いんだよ」

 

『どうしてもダメか?』


和真はどうしても引き下がらない。


「どうしても無理だ」


俺がそう簡潔に返信すると『菜々美に相談してみる』という返信が来た。

まだ諦めないのかよ。




夜になると伊吹さんが家に来た。

ご飯を食べている時に、菜々美が伊吹さんと祭りに行きたいらしいと伝える。

すると伊吹さんは口を抑えて話す。

 

「え?いきなり?」


「菜々美はそうい生き物だ」


「生き物って。私前ここで会ってから全然喋ってないよ」


「でも菜々美は行きたいらしい」


「池田くんは来るの?」

 

「いや。行かないつもり」


「てことは、私と桜さんの2人で行くの?」


「いや……和真も来ると思う」


俺が目を逸らしながら伊吹さんに言うと「そんなの絶対気まずいし行かない」と強く言う。

まぁおれも伊吹さんの立場だったら行きたくは無い。


「まぁそうだよな。菜々美に伝えとく」



 

ご飯を食べ終えると菜々美に伊吹さんは行けないという旨の連絡を入れた。

連絡してすぐにスマホの画面を暗くする。

だかすぐに携帯の通知が鳴った。

返信早すぎだろ。

そんな感想を持ちながらスマホの画面をつける。


『それ!彩斗が行かないって言ったから来ないんでしょ!』


「和真から聞いてるかも知れないけど、同じ学校の奴に見られ時がダルすぎる」


『別に気にしなくていいじゃん』


「お前はあの視線を感じた事が無いからそんなことが言えるんだ」


本当に怖いんだぞ。


『じゃあさ!ちょっと遠いけど、隣町で同じような祭りやってるから行こ!』


そこまで調べてるのかよ。

どんなけ伊吹さんと祭り行きたいんだこいつ。

まぁ隣町なら大丈夫か。

そう思い菜々美「それなら行ってもいい」と返信をする。


『じゃあ日にちは同じだから時間は後で教えマース』


菜々美からそう返信が来るとまた伊吹さんを誘うのかと気が重くなる。

俺からしたら女子を誘うのは結構緊張して精神を消耗する。

そんな事を考えていると伊吹さんが「じゃあ帰るから」と荷物をまとめて立ち上がる。

やべぇ。もういい。何も考えず誘う。


「ちょっと待って。菜々美が隣町に同じような祭りがあるって言うからそれなら行く?」

 

「いや。どこの祭りとかじゃなくて。気まずいから行かないよ」


「隣町なら俺も着いていけるからそれなら気まずくならないと思う」


俺がそう伝えると「それならまぁ。行ってもいいけど」と言ってくれる


「でもなら近くの祭りでいいじゃん」


伊吹さんがごもっともな意見を言う。

だがそれに同調出来ないので適当に話を流す。


「じゃあ時間は後日伝えるらしいから。今日ご飯美味しかった」


だが今話を流した事に、疑問を思ったのか伊吹さんが「おかしい」と呟く。


「な、何が?」


「だって近くの祭りには行けないのに、隣町なら行けるのって」


「いやまぁ理由は特にないから気にしなくていいぞ」


そう言うと何か隠していると確信に変わった伊吹さんが顔を近づけてくる。


「何隠してるの?」

 

近い!近い!

伊吹さんの顔が今まで1番近い。

伊吹さんは、何を隠しているのかを聞き出す事に夢中で、この距離感に気づいていない様子だ。

 

「答えないつもり?」

 

「い、伊吹さん近い、近い」

 

俺がそう指摘すると、伊吹さんがこの距離感を理解し目が合う。

こんな近さで。

数秒という短い時間伊吹さんと見つめ合っていると伊吹さんの顔が少し赤くなっていく。

多分俺も少しだけ赤くなってるかもしれない。

数秒間経つと伊吹さんは後ろに下がる。


「……」


「……」


やばい。

凄く気まずい。

今までは、伊吹さんに不快感を感じさせないように、ある程度距離を取って接していたのに、ここまで急に近づかれるといつも通りに言葉が出ない。


「……まぁ言いたく無いこともあるわよね。また明日」

 

「ああ。また明日」


俺は簡単な言葉を返すことしか出来ず伊吹さんを見送った。

俺がすぐに1歩後ろに下がればこんな気まずい雰囲気にならざる済んだのに。


  






 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る