第16話 支え合い

和真と電話をした次の日は、昼からバイトに行くために家を出て電車に揺られていた。

今日昼から21時までとか長ぇよ。

そんな憂鬱な気持ちでバイト先に向かう。


13時前にバイト先に着くと、まだまだお客さんが多く午前中から入っている人に「早く着替えて」と急かされた。


「はーい」


そう軽く返事をして更衣室に向かうが、13時からの予定なので焦らず着替える。

2分前に更衣室を出て13時丁度に出勤する。

その俺の行動を横目で見るている鳴海さん。

今日もしっかりとバイトしている。

何か可哀想になってくる。



出勤してから1時間程はそこそこ忙しかったが、14時を回るとホールではやることが無くなり、キッチンで仕込みの手伝いをしていた。



「鳴海さん?」


俺が不意に声を掛けると「どうした?」と少し驚いているトーンで返事をしてくる。


「友達が落ち込んでる時ってどうすればいいですかね」


今の時間が暇な事と、俺より少し年上で人生経験が俺よりは豊富だと思ったので聞いてみた。

鳴海さんからは、大人な回答を期待して待っていたが、全然そんなことない答えが返ってきた。


「えーー?それって女の子の友達!?」


「…鳴海さん。その切った野菜こっちに入れて下さい」


「おっけー。……って違う!。なんで無視するの?」


「いや。期待していた答えじゃなさすぎて、無かった事にしようかと」


「聞いたんだから無視しないでよー」


ぷくーっと頬っぺを膨らませて言ってくる。


「じゃあもう1回聞きますけど。落ち込んでる友達ってどうやって励ましますか?」


「それって男の子なの?」


「性別ってそんな気になります?」


「その答え方は女の子だなー」


どうしても性別が気になる鳴海さんに「男ですよ」と言うと「つまんない」と言ってくる。

この人本当に答える気あるのか?


「別に面白い話してません」


俺は聞く人間違えたかと思い、やっぱり自分で考えてみますと言おうとした瞬間に真面目なトーンで鳴海さんが答えた。


「落ち込んでる理由がわらないけど。その落ち込んでる子ってどのくらい仲良いの?」


いきなり真面目になった鳴海さんに少し驚きながらも答える。


「野球で大きなミスをして、野球が怖いみたいな感じで落ち込んでて。学校で1番仲良いやつです」


「その子何でもソツなくこなすでしょ」


「え?はい。そんな感じですね。何でそんな事分かるんですか?」


「勘よ勘。まぁちょっとガツンと言ってみたら?」


「ガツン?どういう事です?」


俺がそう聞き返すと、チリンチリンとお客さんが来た音がして鳴海さんはホールに向かってく。

その後も何度か鳴海さんに意味を聞き出そうとしても、間が合わなくて聞けずに17時になり、鳴海さんがバイトから上がって行った。



18時を回るとまた有り得ないくらい忙しくなり、何で俺が入る時だけ忙しいんだ!時給上げてくれ!と文句を心の中で言いながら仕事をする。

有り得ない忙しさが3時間。バイトが終わるまで続き。鳴海さんの言っていたことなんてすっかり忘れ更衣室で着替えていた。

着替え終わり。帰ろうとすると、ガタガタと階段を駆け下りる音がする。

なんだ?なんだ?

そしていきなり目の前のドアが開き菜々美が目の前に現れた。


「いきなりどうした?」


思わずそう聞くと菜々美は深刻そんな顔をして言ってくる。


「和真が野球辞めるかもしれない」


「は?」


菜々美が言ったことを1回では理解出来ない。


「どういう事だよ?」


「さっきまで和真と通話してたら……辞めるかもって」


「はい?あいつ何言ってんだ」


俺は少し怒りを感じている事が分かる。


「ちょっと和真と会ってくる」


「ちょっまっ...」


 

俺は菜々美の返事も聞かずにバイト先から飛び出した。



外に出ると和真に電話を掛ける「おい!グローブ2つとボール持って和真の家の近くの公園に来い」それだけ言って和真の返事を聞かずぶち切る。


和真に電話をかけてから30分程経ち公園に到着した。

少し周りを見渡すとベンチに座ってる和真を見つけて近づく。

 

「んだよこんな時間に」


「分かってるだろ」


「菜々美から聞いたか」


「そうだ。まぁいい。とりあえずキャッチボールしようぜ」


「何でこんな時間に……」と小言を言いながらも、電灯で明るい場所に移動する。

夜遅くどちらも喋らないので5分くらいボールを捕る音だかけが響く。


「本当に辞めるのか?野球」


俺が聞くと表情1つ変えずに「別に辞めると決めた訳じゃない。その可能性もあるってだけだ」と言ってくる。


「そうか」


俺がそう答えるとまたボールを捕る音だけが響く。


「和真が決めた事に俺はとやかく言いたくないけどな。でも、1つのミスくらいでそこまで考え込むな」


「俺のミスでチームが負けたんだ」


「そのミスを誰かが責めたか?」


「責められてはない」


「責めてるのは和真本人にだけだ。誰も気にしてない」


俺がそう話していると和真の投げてるボールのスピードが上がってく。


「俺は、中学生の時和真に救われた。俺は自分1人で抱え込んでいた事を話して救われた。だから和真も1人で抱え込むな。いくらでも俺に話してくれ。だからそう簡単に辞めるとか言うな。悲しむのは俺だけじゃないぞ」


「…でも」


和真はまだウジウジしているのを見ると何かイラついた。


「でもじゃねえ!」


俺がそう叫ぶと和真は下げていた顔を上げて目が合う。


「俺は和真に助けられて今ここに居る。だから今回は俺がいくらでもメンタルケアして助けてやる。だから俺を信じろ。わかったか!あほ!」


俺は最後の言葉と同時に本気でボールを投げる。

投げたボール今日1番大きな乾いた音を鳴らして捕る和真。


「確かに…そうだよな。何悩んでるんだ俺。野球続けるよ。ありがとな!」


和真も最後の言葉と同時に速い球を投げてくる。

え!?


「あほ!そんな速い球捕れるかーー」


そう言って俺の後ろにボールが抜けていった。

それを見て和真は笑いながら「悪い悪い」と言って駆け寄ってくる。

絶対悪いと思ってねぇだろこいつ。

あれ?てか鳴海さんのアドバイスすごくね?と今更そのことを思い出した。




 






 

 


 











 


 

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