第18話 祭り

次の日普通に伊吹さんは家に来てくれた。

その事に良かったとホッとするが、やはり少し気まずく、会話のテンポもいつもより遅いし、変な間が出来ることがある。

正直俺が意識し過ぎていると分かっている。

だが女子に対する経験が無さすぎるので許して欲しい。


「ご飯出来たよ」


「おっけー」


俺は出来るだけ普段通りの返事をして立ち上がりキッチンに行く。

キッチンに到着すると、2人で出来上がった料理を運ぼうとする。

普段は全く意識して無かったがキッチンは狭く距離がどうしても近くなってしまう。

なので少しだけ早く歩いてテーブルまで行く。

なんか避けているみたいで伊吹さんには申し訳ない。



そんな感じの日が2日間続き、和真に誘われていた桜祭りの日になった。

伊吹さんには昨日のうちに時間と集合場所を送っている。

別に一緒に行けばいいのかもしれないけど、今日は近くで祭りがあるので、電車に乗った時に見られる可能性を配慮して現地集合だ。



俺は集合時間の40分前くらいに着くように準備をする。

何故か和真からコンタクトで髪の毛を下ろさずに、上げて来いとしつこく言われたのでコンタクトと髪の毛を上げて行く。

でも何でそんな事言ってくるんだろ。

だがそこまで気に止めることでも無かったので、すぐに頭から抜ける。


 

家を出て最寄りの駅に着くと向かいのホームに学校で見た事がある人が何人か居た。

やっぱりみんなそっちの祭りに行くよな。やっぱり行かなくて良かった。

マジで次は殺されかねない。

しかし伊吹さんといないのに何故か視線を感じる。

やばい最近意識しすぎて1人でも視線を感じるようになってしまった。




電車に揺られ集合場所に到着すると、まだ時間があるので近くのスタパに行こうとしたが、雰囲気がオシャレ過ぎて引き返してしまった。

今度行こう。そうだ、また行けばいい。

そんな事を思いもう一度集合場所に戻る。




集合時間の10分前になると和真と菜々美が来た。

なんかすげー雰囲気あって周りの人が振り返って見てる。

ここに伊吹さんも来るとか俺すげぇ浮くじゃん。


「彩斗早いな。伊吹さんは?」


「まだ来てないぞ」


「ん?一緒に来てないのか?」


「うん?来てないけど」


「隣の家なんだから一緒に来いよ」と呆れ気味に和真は言う。


「ヘタレ」


何故かここまで無言だった菜々美が棘を刺してくる。

俺はその言葉を無視して伊吹さんの到着を待つ。



和真たちが来てから10分程経ち、数分集合時間から過ぎると伊吹さんが小走りで俺たちの場所に来る。

息が少し上がっている伊吹さんに菜々美が真っ先に声をかける。


「大丈夫?」


「だ、大丈夫です」


伊吹さんはそう返事をすると何故か俺の方を見る。

ん?どうした?

一瞬俺の顔を見て伊吹さんが驚いた気がしたが、伊吹さんが言う言葉に俺が驚く。


「隣なんだから一緒に行くもんだと思って、待ってたんだから」


ん??そんな約束したっけ?

慌てて昨日の記憶を思い出す。

しかし約束した覚えがない。


「電話しても出ないし、寝てるのかなと思って池田くんの家に入ったら居ないんだもん」


電話なんて来てなかったぞ。 と思い携帯をポケットから出すと電源が落ちてた。

やっぱり壊れてるだろ。


「ごめん携帯最近調子悪くて、電話気づいて無かった」


「さいてー彩斗」


「マジで悪い」


「いや約束して無かったし。思い込みだったから私もごめんなさい。2人も遅れてきてごめんなさい」


「気にしなくてでいいよ」


「そうだぞ。俺だって隣の家なら一緒に行くと思うしな」



  

伊吹さんの上がった息を整えると、祭りの行われている場所まで歩いて向かう。

祭りの会場まで徒歩で15分程なのだが和真、菜々美、伊吹さんとモデル級の3人と歩いてると視線の量が半端ない。

俺は出来るだけ縮こまって歩く。




祭りの会場に到着すると、満開で綺麗なピンク色の桜が道を作っていて思わず目を奪われる。 

その景色につい言葉が口から漏れてしまう


「綺麗」


「本当に綺麗ね」


伊吹さんも桜を見ながら同調してくれる。

どのくらい見ていたか分からないが和真が「行くぞー」と言ったので奥に進んで行く。

奥に進むと地元の桜祭りの5倍くらいの人が居て目が回る。


「人の量やばくない?」


俺が思わず言うと和真が「初めて来たけど地元の祭りとは比べ物にならないくらい人が居るな」と驚いている。


あまりにも人が多いのではぐれてしまわないように伊吹さんが居るか確認する。


「池田くんこの祭こんなに人多いの?」


「いや。俺も初めて来たからこんなに多いと思わなかった」


話しているとどんどん人の波に飲み込まれていく。

その影響で少し離れていた和真たちが見えなくなってしまう。

やべぇ。このままだと伊吹さんともはぐれてしまう。

これはもう、仕方ない。俺はそう心を決めて伊吹さんの手を握って伊吹さんを引き寄せる。


「キャッ」


強引に引き寄せたので伊吹さんから声が出てしまう。

その事に少し動揺してしまうが、何とか平常心を保つ。


「ごめん。はぐれたら大変だから」


俺がそう言うと伊吹さんは無言で小さく頷いた。 

手を繋いだまま15分くらい掛けてやっと人混みを抜けると屋台などが多い場所に着いた。


「ごめんいきなり手握って」


心臓がまだバクバクしながら謝罪をする。


「はぐれたら大変だったし。ありがとう」


伊吹さんが嫌な思いをしてないと分かり少しホッとする。

しかしホッとしたのもつかの間で、携帯の電源が入らない。


「伊吹さん」


「ん?どうしたの?」


「携帯の電源が入りません」


「冗談でしょ」


「冗談ならよかったなー」










 






 






 

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