34
食堂を後にした、俺達は一日ぶりの自室に戻った。
「ルル、頑張れ、もう少しだ」
道中、既に力尽きかけているルルを抱きかかえた。部屋にたどり着く頃には、半分寝ている有り様。
合宿の疲れに、満腹、更にリッキーとの会話の緊張もあったことを考えれば、まだ意識を保っているだけ頑張っているほうだろう。
「風呂は?」
「は、いり、ます……zzz」
うーん、気力は限界らしいけど、シャワーを浴びれば、多少は目が覚めるはず。
一度、ルルを降ろして、立ったまま寝そうになるのを支えながら、服を脱がせていった。ローブ、シャツ、肌着、スカート、ドロワーズ、ショーツ、靴下……よし。一糸纏わぬ姿だが、初日に感じたドキドキはどこへやら。もう完全に慣れてしまった。
「ほら、風呂だぞ~」
「あぁ、ありがと、ござ、ます」
「…………俺が洗おうか?」
「いえ、流石に、それは……だい……ぶです」
うーん。ルルがそう言うのなら。
念のためドアの近くで待機して、上がってくるのを待った。
「ふぅぇ~。少し、目が覚めました」
無事、上がってきたルルは力なく笑う。
タオルを渡して、体を拭き始めるところまで見守ってから、その場を後にした。
湿気が多い場所だと発酵するんじゃないかって、怖いんだよな。俺一応、アンデッドらしいし。
歯を磨いてから、出てきたルルはやはりまだ眠いのか、髪が乾ききってはいなかった。まぁ、その魔道具も魔力で動かしているんだと思うから、今は疲れるのだろう。
「髪、拭いてやるから、タオル持ってこい」
俺が椅子に座って、その膝の上にルルを持ち上げて座らせた。
窓を少しだけ開けて、夜風を二人で浴びる。
夜空には、月が四つ浮かんでいた。
「今日は、ヨッキですね」
髪を拭かれている、ルルがポツリと呟いた。
「ヨッキ?」
「橙、青、赤、緑、の地水火風の月だけが出ている日のことです」
「へぇ、そんな名前があるのか」
「はい、ヨッキの時は、良いことも悪いことも起こるって言われてるんですよ」
「たしかに、起こったな。いろいろ」
ある程度乾いたので、軽く指で髪を整えてから、タオルをルルの首にかけた。
「そうですね。合宿に、貪食竜に、ゾンさんんが喋れるようになって、リッキー先輩に話しかけられて。全部一日で起こったことなんて、嘘みたいです」
「本当にな。ルルは、……」
「なんですか?」
「あぁ、えっと……楽しかったか?」
「はい、とっても」
こちらを見上げて笑うルルは、曇りのない笑顔だった。
それから少し話しをしていたら再び睡魔に襲われたらしく、抵抗する間もなく眠りに落ちていた。
起こさないよう、静かにベッドに移してから俺だけ椅子に戻る。
そして、月を見上げて今日あったことを思い出した。
貪食竜との邂逅。
あの瞬間、俺の中で何かが切り換わった感覚があった。「眠たい」と「冴えている」の中間に、落ちるような。そんな、不思議な感覚。
そこから先のことは鮮明に憶えてはいるが、あまり思い出したくない。
貪食竜がすごく魅力的な暇潰しに見えて、それでルルを忘れていた。普段なら、絶対にありえないことが起きていた。
アレも貪食竜の能力なのだろうか?
いや、何となく違う気がする。俺自身に原因はあるように思える。
それはつまり、同じことが起き得るということ。
今回は、大事になる前にルルの声で戻れた。
でも次は?
何かをしでかしてから、正気に戻ってしまうかもしれない。
恐い、恐いな。
貪食竜にも抱かなかった感情が、胸を刺す。
もし、ルルが俺よりも強ければ?
…………ッ!? 俺は何を考えているんだ!?
クソッ。ナユタ先生の言っていた言葉の意味が、段々分かってきたみたいで腹が立つ。
ルルに迷惑を掛けることもそうだが、もしかしたら、次はルルを傷つけるかもしれない。あのとき、たまたま視線の先にいたのが三人のクラスメイトだっただけだ。
もしあれが、……考えたくもない。
でも、でも、もし、……あぁクソッ!
掻き毟った頭に指をめり込ませる。
苛立ち混じりに取ったその行動で、俺はとあることを閃いた。
あぁ、そうだ。もし、次同じようになりそうだったら、俺が俺自身の頭を、俺の手で、俺を、俺で、お……レ……は…………。
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